31話︰新ダンジョン探索
これから挑むのは前人未到の野良ダンジョン。
父親のわがままから始まった遠征だったがミノタウロス肉の旨さを知ってしまった。
今では俺の…いや俺達の目標である。もう昔の俺には戻れない・・・。
誰も足を踏み入れたことがないダンジョンということで安全確認の為にまずは俺とモコが一緒に潜る。何だかんだ言っても今、家族で1番実力があるのは俺達なのだ。
天然の岩ダンジョンの割れ目は高さ3メートルぐらい。幅は大人2人も並べば、狭いかもしれない。
中は恐らく洞窟型ダンジョンということと牛系モンスターが多く、ミノタウロスは地下10階以降にしかいないことくらいしか解っていない。
初めて入るダンジョンとあって、その足取りは慎重だ。
入り口からクネクネと曲がった岩壁の通路を進むと開けた場所に辿り着く。
その場所の地面には牧草が生え、擬似的な空があり、外に出たのかと一瞬思ったがダンジョンの壁は存在したままだったのでまだダンジョン内だと理解する。
いきなり現れた空間にはマッタリと躰を休める複数の殺し屋牛がいた。
俺に気付くと鼻息荒く、前脚で地面を蹴り威嚇してくる。
殺し屋牛体高1.5メートルを超えるその巨体から繰り出される突進は時速100キロで走る普通自動車が突っ込んでするのと同等の威力があると言われる。
正面からその突進を受ければ、並みの探索者では無傷では済まないと言われる。
興奮が高まり狙いが定まったのか一斉に俺目掛けて、土飛沫をあげて突進してくる。
俺はその突進を避ける素振りも見せず、複合罠術の落とし穴を使う。
突進のため、直進してきた殺し屋牛は簡単に落とし穴に嵌り、悲鳴を上げる。
ブモォォオー
今回の複合罠術は落とし穴と槍の罠を組み合わせた殺傷力の高い罠だ。設置数もきっちり一つで2つ分使う。
設置すれば、次から次へと簡単に落とし穴へと落ちていく。これぞ、入れ食い状態だ。
相手が勝手に罠に掛かるので全部合わせて8匹を片付けるのに掛かった時間は1分ほどだ。
モコなんて暇して欠伸している。
すんなりと戦闘は終わったので落とし穴の中にあるドロップアイテムを拾おうかと思ったら、この空間の中央の地面に宝箱が出現する。
「モンスターハウスだったのか・・・」
まさか初っ端からモンスターハウスのパターンがあるなんて、想定外で少々驚くがモンスターハウスは大好物だ。
とりあえず、魔石とドロップアイテムを回収し、宝箱も回収と近付いたら初めて罠察知が発動する。
罠でモンスターを全滅させた奴が罠に掛かっていては笑い者になってしまう。
宝箱に近付くと称号の効果でもある罠解除を使い、罠を外す。仕掛けられていた罠は宝箱のふたを開けた瞬間に矢が飛び出してくるタイプのやつ。
罠は解除したが初めての試みでもあるので念の為に横から開ける。
中には鞣してある殺し屋牛の革が入っていた。
成果
魔石×8
肉×6
鞣し革×1
このダンジョンには罠がある事が分かり、気を引き締め直して先に進む。
また、クネクネと曲がった通路を進むと同じような空間が広がり、今度は硬皮牛の群れが躰を休めていた。
ひょっとして、このダンジョンはモンスターハウスが続くパターンなのかと頭を過ぎるがまだ2回目。結論付けるにはまだ早計だ。
空間に足を踏み入れるとさっきと同じパターン。
違うのはさっき使った複合罠術では硬皮牛を仕留め切れないかもしれないくらいだ。
硬皮牛は左右の角が額の位置で合わさり、盾のような形になっており、正面からの攻撃には滅法強いが横と後ろからの攻撃には普通だ。
なので今回はトラバサミと落とし穴を使うが落とし穴は少しだけ趣向を凝らす。
まずはトラバサミ。こいつも直進してくるのでその進路上に設置するだけで簡単に掛かってくれる。しかも、突進の速度と相成ってトラバサミが発動した時には丁度いい具合に側面に突き刺さる。
俺のトラバサミは大きめサイズなので牛を呑み込む勢いがある。
落とし穴も進路上に仕掛けるが円錐をひっくり返したような形にする。すると穴の先端部で詰まり身動きが取れなくなった硬皮牛が出来上がる。
さっきまで欠伸をしていたモコも遊びたくなったのか1匹欲しいというのであげる。
俺は落とし穴に嵌り、動けなくなった硬皮牛にシャドウボールを撃ち込みつつ、モコの戦いを見る。
モコは突進してくる硬皮牛を危なげなく避けると反撃するわけでもなく、また待ち構える。
どうやら本当に遊んでやっているようだ。
再び突進が来ると正面からシャドウボールを撃ち込み、その威力で硬皮牛の突進の勢いが止まる。
ヤバイ!ウチの子が格の違いを見せつけてて、マジカッコイイ!!
突進の勢いを殺されて、軽い脳震盪を起こしたのか頭を仕切に振る硬皮牛の脚をモコさんはシャドウバインドで絡め取り、横に転がす。そして、倒れた首の頸動脈を噛み千切ると簡単に仕留めた。
「・・・・・・モコ好き」
純粋に飾りのない俺の本音だ。
この空間にいた硬皮牛を倒し切るとまた宝箱が出現する。
宝箱に近付くとまたしても罠察知が働き、罠を解除する。
今回の罠は針の罠。宝箱のふたを開けたら無数の針が飛んでくる仕掛けだ。
そして、中身はまたまた鞣し革。
生きていれば、こういこともあるだろう。気を取り直して進むと階段があったので地下2階へ。
階段を降りるとクネクネと曲がった通路。
デジャブかと思いつつ、通路の先には牧草が広がる空間。
秘密基地を発動して、中からソラ、コタロウ、トモヤ、ママ、パパを連れてきて戦うことにする。
行けっ!お前達っ!!やっておしまい!
俺とモコはサポートにまわり、暴れ牛を相手取る。
俺とモコのサポートは暴れ牛の行動を完全に封じて、何もさせずに勝利する。
再び宝箱。罠察知。罠解除。開ける。鞣し革。のコンボを決めて、先に進む。
その先でもモンスターハウス、サポート、圧勝、宝箱、罠解除、鞣し革が続く。
モンスターの種類も余り変わり映えしない岩牛、大角牛、双頭牛、剛力牛などを倒していく。
牛肉はコンスタントにドロップしているがモンスターハウスの宝箱は鞣し革一択。しかも、漏れ無く罠がついてくる。しょっぱい、しょっぱいよ…。
変化が起きたのは地下5階から。これまでDランク牛系4足モンスターだったのがCランク2足牛人モンスターが加わった。
こいつらのドロップアイテムは肉と武器。肉に対しては人型だからとか忌避感はない。これまでに散々オーク肉食べてるし。
ドロップ武器は一般級で大概は刃が欠けていたり、ちょっと錆びていたりと余り価値がない武器だ。
流石にCランクモンスターに変わると母親と父親は厳しくなってきたのでソラ、コタロウ、トモヤと共に退場してもらった。
その代わり、地下1〜4階までなら問題なさそうなのでそちらで頑張ってもらう。
ただし、宝箱を開けるかどうかは自己責任ということでお願いした。
両親はこれまで鞣し革しか出ていないことを当然知っているので恐らく開けることはないだろう。
牛人モンスターは多少知性が上がっているようで少し戦い辛かったがすぐに慣れて、作業化していく。
地下7階では泥牛も登場し、少しだが魔術を使ってくる事もあって、戦闘の絵面が変わる。
こいつらはマッドショットとかいう魔術を撃ってくるがその分、脚が止まるので罠を掛け放題だ。
モンスターハウスしかないのでモンスターの数はそこそこだが1回の戦闘時間は5分と掛からず、どんどん進んでいく。
そして、とうとう地下10階に到着。
俺とモコの舌は既にミノタウロス肉になっている。
今夜はステーキを食べてやるという気概でフロアボス部屋へと突っ込んで行くのであった。




