3話
探索者登録から3日後。
初めてのダンジョン探索を予定していた日になり、改めて友人5人で集まった。
集合場所はダンジョンに近いという理由で俺ん家。
うちの近くのダンジョンはモンスターの強さと階層が見合っており、群れで来たとしても最大でも5匹以下、他のダンジョンと比べて罠が少なく、罠の種類も脅威度も良心的だと地元の初心者から中級者に需要がある。
それに地元民のメリットとして出現するモンスターやダンジョン内の情報が簡単に手に入るという点でも決め手となり、話し合いでここのダンジョンに決まった。
現在、日本国内で確認されているダンジョンの数は1000箇所を超え、日々増え続けているとも言われている。
50年前、ダンジョンが誕生してから人類の生存圏は狭められたことでダンジョンの数を正確に把握できておらず、管理も出来ていないのが現状だ。
知らないダンジョンや高難易度のダンジョンに挑むのは栄誉に拘るクランか余程の猛者か単なる馬鹿しかいない。
全員が揃い、忘れ物や探索者用端末の充電はあるかなど確認する。
《戦士》の2人の武器は剣と小盾、メイスと呼ばれる棍棒と小盾の組み合わせ。
2人とも親のお古を譲ってもらったと言っていた。
《斥候》の友人の装備はダガーと呼ばれる短剣でこちらも親から譲り受けたらしい。
《魔術士》の友人の装備は杖。
杖といっても現代風の見た目であり、殴ることを主眼に置いた造りとなっている。(実質、棍棒と変わらない)俺の所感だ。
そして、肝心の『無属性魔術』スキルを修得出来たかと言えば、出来なかったらしく『殴り魔術士』として参加すると自己申告があった。
最後に俺は短槍と呼ばれるショートスピアで参戦だ。当然だが店で埃を被っていた物でごくごく普通の武器だ。
問題ないことを確認すると意気揚々にダンジョンへと向かう。
今回は初めてのダンジョンなので1階層のみで半日の探索になる。
ダンジョンのタイプはオーソドックスな洞窟型と言われるもので地下に潜っていくタイプのダンジョンだ。
この地元のダンジョンは地下40階層までは攻略されており、地方のダンジョンとしてはかなり攻略されている方だ。
ダンジョンに近付くにつれて、探索者の姿を見かけるようになり、堅防な壁が見えてくる。
この壁はダンジョンから溢れ出したモンスターから町を護るために築かれたものだ。
ゲートの壁際には無人の改札機のような機械があり、それぞれが魔導工学の粋探索者カードを通す。
この機械にカードを通すことで協会は探索者の管理を最低限行っている。
無視してダンジョンに入ることも出来るがそんな事をするのはやましいことがあると言っているようなものでAIが管理する監視カメラで出入りが撮られているので要注意者に指定されるそうだ。
ゲートを通った先の広場で再度集まり、装備の確認を行う。
全員が初めてということで同じ色のジャージを着ていて、パーティーとしての統一感が出ているがこのジャージは大企業が開発した丈夫で動きやすいと初級探索者御用達で有名なジャージだ。
つまり、初心者丸出しなのだ。
俺はアイテムボックスからパッド型の端末を取り出すと今から探索するダンジョンのマップを開く。
この端末は日本が開発した魔導技術が使われており、ダンジョンのマップは当然(踏破されている階層まで)、緊急の連絡に他の探索者達の位置情報なども表示され、不意な鉢合わせを防ぐなど効率化=稼ぎの探索者にとって無くてはならない道具の一つに数えられる。
道具士で基本的に非戦闘職の俺が端末の使用を担当することになっているので責任重大だ。
安全を考慮して隊列を組み、俺は隊列の中央の位置で鉱山のような入り口へと足を踏み入れる。
ダンジョンに入った瞬間、外とは空気が変わったことが解った。
例えるなら本格的なオバケ屋敷に入った時のような感覚か…。解らない奴は置いていくスタンスだ。
このダンジョンの1階に出るモンスターは定番のスライムにダンジョンラット、ダンジョンラビット、ダンジョンミニウルフ、そして、たまにゴブリンが出る。
いきなり素人がモンスターなんかを倒せるのかと危惧するかもしれないがそこは問題ない。
ダンジョンが出来てからというもの常に危険と隣り合わせでみんな日々を生きている。
ダンジョンからモンスターが溢れ出し町を襲う『氾濫』など、規模は異なるがほぼ毎日のように日本の何処かで起きており、日常茶飯事なのだ。
このダンジョンでも『氾濫』が起これば、町に住む腰が曲がったお年寄り達がどこからかぞろぞろと現れ、ノリノリで戦いに参加するだろう。
お年寄り達の言い分だとレベルが上がれば、ステータスが上がり膝の痛みが和らいだとか皺が浅くなったとか毛が生えてきたとか長生きに繋がるからと昔取った杵柄らしい…。
そんな感じですでに国民にとって、モンスター討伐は生活の一部として受け入れられているのだ。
そんな環境で育てばどうなるかなど、想像に難くないだろう。
無邪気な子供が蟻を踏み潰すように大人はモンスターを蹂躙していく。
ダンジョン洞窟特有の薄暗い明かりの元、俺達はマップを頼りに前へ突き進む。
最初に遭遇したのは地面をすべるように移動するスライム。
「予定通り、俺からだ」
モンスターが現れた際に戦う順番は決めてあり、俺の順番は4番目。
剣を持つ友人がスライムに近寄り、剣を突き立てると風船の空気が抜けるように萎み、後には小石のような魔石だけが残る。
モンスターを倒すと魔石と確率で素材を落とす。スライムの場合はスライムゼリーという素材を落とすのだが今回はハズレだ。
小石のような魔石を俺がアイテムボックスにしまうと誰も無駄に喋ることなく、また足を進める。
今日の目標は全員がお昼までにレベル2に上がること。
全員がレベル2に上がるためには最低でも1人5匹は倒さないと上がらない。
また、ダンジョン内で騒ぐ行為は不用意にモンスターを引き寄せる観点からマナー違反とされている。
洞窟型のダンジョンを周るように徘徊し、モンスターと出会えば順番通りに倒していく。
俺も難なくダンジョンラットをショートスピアで一突きして倒し、隊列に戻る。
そんな感じでギリギリ昼前には全員がレベル2に上がった。
【名前】 藤 颯夜
【順位】―
【職業】 道具士
レベル:2 10P
筋力:12+2
体力:13+2
魔力:3+1
精神:15+1
耐性:8+1
器用:18+3
敏捷:11+2
幸運:80+3
【技能】
【固有技能】
アイテムボックスLv:1
【特異技能】
物置きLv:3
道具士のステータス上昇値は最低の15ポイント。
戦闘職を選んだ奴らの上昇値は20ポイント。
羨ましくはあるが妬んだところで変わらないので獲得したボーナスポイントの使い道を考える。その方が有益だからね。




