29話︰不動の峰クラン
現在、秘密基地の作戦室でダンジョン地図を前にして、作戦会議が行われていた。
俺の岐阜県への飛騨地方侵攻作戦は予定通り4日を掛けて完遂された。
途中に雄大な山々を前にして、感動していると秘密基地から両親やモコ達が飛び出してきて、大騒ぎとなる一幕もあったが無事に着くことが出来た。
飛騨地方は日本でも屈指の高級ミノタウロス牛の産地として、全国に名を馳せている。
ミノタウロスはBランクという高ランクモンスターであり、討伐は容易ではない。しかし、この飛騨地方にはそんなミノタウロスを狩ることを生業にしているクランが存在する。
そのクランは飛騨地方のほとんどの財政を支えるほど重要な地位を築いており、この地方になくてはならない存在となっている。
そして、このクランはこれまでの貢献が国に認められ、いくつかのダンジョンを占有することが許されていた。
この飛騨地方を統べるクラン『不動の峰』が占有するダンジョンは3つ。
どれもが周辺の警備が徹底され、ダンジョンへの探索者の出入りまで厳しく管理されており、自分達の仕事に誇りを持って取り組んでいるように見える。
何が言いたいかというと、最初に戻る。俺達は今、作戦室でダンジョン地図を見ながら探索出来そうなダンジョンを探していた。
俺達は別にミノタウロス肉を奪いに来た訳ではないし、ましてや彼等の既得権益を奪いに来た訳でもない。
ただ、自分達が食べれて少しだけ利益が出せれば、良いのだ。
なので彼等が占有するダンジョンに無理矢理潜る必要もない。
『ここなどはどうでしょうか?』
ベースAI先生が示す場所は奥飛騨と言われる山深い地域。
過去には温泉などで賑わった地域だが今では手つかずのダンジョンがいくつか存在し、野良のモンスターが闊歩する人類の生存圏から外れてしまった地域だ。
こういった地域は危険が多いのだが他に候補があるわけでもないので奥飛騨を目標に定めた。
飛騨地方の中心部、高山市から北東へ徒歩で向かう。
高山市内はモンスター被害が少なかったのかはたまた、住民達の努力の賜物なのか、統一された建物に歴史を感じる街並みが続く。
3人で歩いているがちょくちょく両親の足が止まる。
「いいところね、あなた」
「ああ、ここだけ時間がゆっくりと流れているみたいだな」
両親世代のデートといえば、地元でするのが当たり前、その上初めての土地で久々のデートとなれば、2人が世界に入ってしまうのもしょうがないかと諦める。
「俺、町外れまで先に行ってるからゆっくりしててね」
こんなに気が利く息子って最高じゃないですかね。一声かけると両親を置いて、スタスタと先に進む。
途中で牛串焼きを売っているお店があったので匂いに釣られて寄ってみる。
「いらっしゃいませ!どれにします?」
牛肉と言っても何種かあるようでとりあえず、1番安い『硬皮牛』の串焼きを頼む。
焼き立ての香ばしい薫りが鼻の奥を刺激し、口の中に唾が出てくる。
一口ガブリと食べれば、ここ最近肉といえば、オーク肉しか食べていなかったこともあり、豚と牛の違う味わいを強く感じた。
しっかりとした噛み応えに赤身が多い分、ダイレクトに肉本来の肉々しさが引き立つ。
この味を知ってしまっては父親がたまには牛肉が食べたいというのも頷ける。
串焼きを食べているとお店の人が親切に説明してくれる。
硬皮牛はここ飛騨地方にあるダンジョンの浅い階層に出るDランク牛系モンスターだという。
浅い階層でまずDランクモンスターが出る時点でここの地域のダンジョン難易度が高いことが窺える。新米探索者ではまず活躍出来ないだろう。
そのことは皆分かっているようでこの地域の新米探索者達はまずクラン不動の峰の下部組織に入り、先輩探索者から手解きを受けることになっているらしい。
育成のシステムがしっかりしていることで探索者の質も総じて高く、ミノタウロス肉と共に探索者の実力も高いと全国的に有名らしい。
知らなかったわ〜。話の途中で串焼きを食べ終わってしまったので新たに今回の目的の肉、ミノタウロス肉の串焼きを追加した。
「うまっ!?」
「ははは、そうだろ?」
口に入れた瞬間、溶け出すように脂が旨味を帯びて、口の中に広がる。
しつこさもなく、何本でも食べられそうだ。
串焼きを満喫し、店から出て再び歩き出すと両親と入れ違いになるが腕を組んでラブラブモードだった。
また、ひとりでふらふらと歩き出すと気になるお店を見つけた。
そこはモンスター牛皮を扱うお店。ちょっと覗いてみる。
「らっしゃい」
店内は皮独特の匂いが立ち込めている。
置いてある製品は豊富で皮系の防具から皮のソファー、ライダージャケット、果ては馬具までジャンルを超えて、皮製品なら何でもありみたいだ。
値段も数万円から数千万円までとターゲットにしている客層も豊富そうだ。
俺には死蜘蛛シリーズがあるので防具はいらないがソファーとライダージャケットと馬具には引かれる。買うつもりはないが見ておけば、今後は牛系モンスターを倒せば、素材は手に入ると思うので秘密基地で自作出来るはず。
牛皮といっても硬皮牛、殺し屋牛、泥牛、ミノタウロスと色々な種類があり、色合いも違っている。
「坊主、見ねぇ顔だな」
声を掛けてきたのは店の店主。日焼けしているのか色黒な肌に頭はスキンヘッド。当然のようにムキムキで見せつけるようにタンクトップの上からエプロンを着ている。
「両親と一緒に観光です」
「・・・そうか」
それだけ言うとカウンターの方へ戻って行った。
恐らく、俺では客にならないと思ったのだろう。その方が俺的には都合が良いからいいんだけどね。
店主がいなくなってからじっくりと観察しているとまたウチの両親が店内に入ってくる。
相変わらず、腕は組んだままだ。
見るものも見たので俺は先に行く。その際、両親には軽く先に行くとゼスチャーだけしておいた。
後で知ることだが父親はここの皮装備を甚く気に入ったようで少量だが取引きを始め、ウチの店でも扱われるようになる。
更に数ヶ月後、コタロウとトモヤの背に馬具のような物が取り付けられ、お揃いのライダージャケットを着た両親が2匹に跨り駆ける姿が頻繁に目撃されるようになるのであった。
店を出た俺はまたふらふらと歩き始める。
それにしても、ゆっくりと感じさせる時間のせいか治安の良さが目立つ。
そんな事を考えながら歩いていると町を守る防御壁が見えてきた。
「止まれっ!何の用だ!」
声を掛けてきたのはこの町の警備隊か守備隊の人。
ゆっくりと俺に近付いてくると後ろにも2人。同じ皮装備を身に付け、胸の部分には『不動の峰』のエンブレムが主張していた。
「すみません、両親と観光で来て歩いていたらここまで来ちゃいました」
嘘は言っていない。本当はその先まで行きたいんだけどね。
「そうか、両親はどうした?」
「両親はたぶん皮製品を扱うお店にいると思います」
「ふ〜ん」
それだけ言うと後ろにいた1人に顎で指示を出し、1人が走って確認に行った。
「ところで何処から来たんだ?」
「隣の県の愛知県です」
「ほう、珍しいな」
ほう、やっぱりわざわざ県外にくる奴は珍しいようだ。
「観光の目的はミノタウロス肉か?」
「そうです。父親がどうしても食べたいって言って、食べたらほっぺたが落ちるかと思いました」
「そうだろそうだろ」
世間話をしていると走っていった人が帰ってきて、指示した人に耳打ちする。
どうやら確認が取れたのだろう。
「君の両親の確認が取れたが商談をしているらしく、まだ時間が掛かるだろうとのことだ。町の中は我々が警備しているから大丈夫だろうがこれ以上先には進まないように」
「はい、ありがとうございます」
ここまで言われたら今は引くしかないだろう。俺は大人しく戻る振りをして、両親と合流することにした。




