11 本当のわたし(最終話)
アウラム領の首脳陣が一掃された。
領主になっていた元国王は、要人暗殺未遂の首謀者として拘禁。関わったり、計画を支持したりした周囲の者も軒並み拘束された。
その中には、元第一王子で次期領主が内定していた長兄や、結婚時に一緒に越してきた昔からの付き人たちも含まれている。
領主代理に指名されたのは元第二王子のレインだ。直接暗殺を阻止した功労者の1人として評価された。
1年ほどの代理期間を置き、問題がなさそうならそのまま就任、問題があれば首都から人を派遣して完全にすげ替えることになっている。
その話を聞いたのは、意識を取り戻して数日経ったころだ。
何より、自分が生きていることに驚いた。
シルヴァンは多くを語らなかったけれど、周りからの話を合わせると、彼が必死に助けてくれたらしい。
回復魔法と回復薬で毒の進行を遅らせながら、暗い中を飛んでアウラムに急行。話が通じない相手を次々に拘束し、レインを見つけて事情を伝えたところ、すぐに解毒薬が用意されたらしい。
シルヴァンを助けるために一度解毒薬を口に含んでいたことで、わずかに効果が弱められていたのも大きかったようだ。
それでも、本来なら死んでいる以上の時間がかかったことで、強いだるさが抜けなくて動けない後遺症が何日か続いた。
回復するまではしっかり休めるようにと食事はベッドでとる形になり、寝室も分けられていた。
1日3食シルヴァンの介護であーんをされ、仕事以外の時間は、夜は眠るまで、朝は起きるより早くからそばにいてくれた。負担をかけて申し訳なくはあったけれど、さみしくはなかった。
(やっと日常に戻れる……)
動けなかった後に普通に動けるようになると、元気なことのありがたさが身に染みる。
今日の夕食からシルヴァンと一緒で、寝室も戻った。
「迷惑と負担をかけてすみませんでした」
「迷惑も負担もかけられた覚えはありません」
彼が笑って、髪に指を通すようにして撫でてくれる。それだけで幸福感に包まれる。
そもそもの発端が自分のせいだというのは、もう彼から否定されている。だから別の部分を言葉にする。
「私のために、だいぶムリをさせたのではないかと……」
彼が遠征から帰ってからそう日が経たないうちに事件が起きた。まだ魔力は半分も戻っていなかったはずだ。その状態で回復、移動、戦闘と魔法を使い続けたのは、かなり大変だったのではないだろうか。
加えて、献身的な介抱まで続けてもらってしまった。負担じゃなかったはずがない。
シルヴァンが仮面の奥で目を細めた。
「ノア。貴女は私を『この世界に必要な人』だと言いましたね」
「はい」
それは間違いない。彼の理想の世界を、自分も見てみたい。
「貴女は、私の世界に必要な人です」
「え……」
「なので、すべて私がしたくてしたことです」
「シルヴァン……」
シルヴァンが笑みとともに仮面を外して、ニセモノの古傷も消してから、やんわりと唇を寄せてくる。
彼の口元に指先を当てて、ストップをかけた。
「……今日はイヤですか?」
「えっと……、その前に、あなたに話したいことがあります」
「話?」
「はい。動けないでいる間、ずっと考えていました。本当は墓場まで持っていくつもりだったことです」
シルヴァンが泣きそうな顔になる。今はこの表現は強すぎただろうか。一歩間違ったら現実になっていたことだ。
「すみません。でも……、あなたにだけは、本当のわたしを知ってほしいなと」
本当のわたしは決して愛されない。
それはわかっている。
見せることで嫌われたとしても、扱いが変わったとしても、ずっとこの先も彼を騙し続けていくよりはいい。
「本当の……?」
「はい」
答えて、決意と共に、右手の小指に巻きついているヘビのような指輪を外す。
容姿を変える魔法道具だ。
母の実家の家宝で、自分が適齢期に入る時に、そのままの姿だとみっともなくて誰にも相手にされないからと、母から渡された。この先一生、絶対に外してはいけないと。
母も祖母からそう言われて託されたらしい。
そして、本当の姿を父に見せた母は、みっともないから二度と王妃を名乗るなと、使用人に格下げされた。それ以降、母と呼ぶことを許されなかった。
そうなる可能性を知りながら自分に指輪を渡してくれたのは、間違いなく母の愛情だったのだろう。
この指輪は、祝福でもあって、呪いでもある。
指輪をつけた自分は、客観的に間違いなくキレイなお姫様だった。
顔立ちは整ってエルフに似ている。ほどよく背は高く、胸や臀部はふくらんでいて、腰や手足は細い。
理想を絵に描いたかのような姿をしている。
指輪を外した自分は……。
一般的な女性よりも、かなり背が低い。顔も、キレイな感じではない童顔だ。胸にいたっては、ほんのわずかにあるだけで、服を着たらないに等しくなる。
ちんちくりんだ。
成人しているのに、知らない人からは子ども扱いされる。そのくらい幼い容姿をしている。
「騙していてすみませんでした」
頭を下げようとしたら、シルヴァンからのキスで止められた。
ゆっくりと離れた彼と視線が絡む。
「驚きました」
「そうですよね……」
「本当のあなたは、とてもかわいらしい」
「かわっ、えっ……」
思いがけない言葉に驚いた。と同時に、もう一度唇をすくわれる。
「……みっともなく、ないですか?」
「かわいいですよ? 実は、最初に会った時、完璧すぎる貴女の姿には少し苦手意識があって」
「え」
抱きしめて耳元でささやく彼の言葉が意外すぎる。
「言葉を交わすうちに、かわいいと思うようになったのですが。あなたの言葉は今のあなたの姿の方が似合いますね」
(それって……)
緊張からくる鼓動の早まりが、彼へのドキドキに置き換わっていく。
「……こんなわたしでも、愛してくれますか?」
「はい。そんな貴女が、世界で一番愛しいです」
シルヴァンが優しく笑って、言葉に変えられない愛情をたくさんくれる。
彼が触れたところから、本当のわたしの存在が許されていく。彼がくれる温もりが、「わたし」を再構築していく。
初めて、本当の本当に、自分という人間が愛された気がした。
幸せすぎて涙が止まらない。
Fin.
余談
自分にだけ本当の姿を見せてくれるのが嬉しすぎて、シルヴァンからノアへの溺愛は深くなった。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ノアとシルヴァンの物語はいかがでしたでしょうか。
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もし私が紡ぐ物語にもっと触れていただけるなら、長編『魔法使いジュリアは元夫を愛しすぎてる 〜2周目なのに想定通りにいきません〜』で、ジュリアとオスカーにも出会っていただけると嬉しいです。
改めて、読了ありがとうございました。
最後までおつきあいいただいたことに心からの感謝を込めて。
2025.2.11 亞月こも




