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【5月1日コミック1巻発売!】ブチ切れた公爵令嬢、勢いで悪魔を召喚してしまう ※Web版  作者: 優木凛々
第3章 公爵令嬢、殿下と対峙する

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09.悪魔(1/2)

 

 カインは、壇上のレイチェルを見て、にっこりと微笑んだ。



「まさか、ここで同族に会うとはね」



 レイチェルが、口が裂けんばかりに口角を上げた。

 彼女のピンク色の目が、血のように赤く染まる。


 彼女はニヤリと笑うと、隣のパーカーに囁いた。

 パーカーが虚ろな目でうなずくと、大声で叫んだ。



「王族である私からの命令だ! 全員、建物内に入れ!」



 人々は戸惑いの表情を浮かべた。

 一体どういうことだ、という声が上がる。

 しかし、どことなく虚ろな表情で移動し始める人々が出始めたのを見て、彼らも渋々それに従い始めた。



 アイリーンは、傍にいた7人を「先に行っていて」と避難させた。

 壇上のレイチェルから目を離さないカインの横に立つと、小さな声で尋ねる。



「これはどういうことですの?」

「あの女は悪魔です。もう隠す気がなさそうなので、今のお嬢様なら見て分かるのではありませんか?」



 そう言われて壇上を見て、アイリーンは思わず息を呑んだ。

 彼女を取り囲む何かは、カインと同じ黒色だ。



「こ、これからどうなるの?」

「相反する悪魔が会った時の選択肢は1つしかありません。食うか食われるか、です」



 レイチェルを見ながら、カインが冷静に答える。


 アイリーンは目を見開いた。

 脳裏をよぎるのは、エルミナスの言葉だ。


『契約を結ばなければ、アイツは損なわれていくはずだ』

『今の状態で、アイツは長くは生きられない』


 カインはこっちに来てもう3か月以上経つ。

 その間損なわれたものが多いとするなら、とてもまずい状況なのではないだろうか。



(……それに、あっちの悪魔の方が、黒色が濃い気がするわ)



 もしも黒の濃さが強さを表すなら……。


 アイリーンは頭から冷や水を浴びせられたように立ちすくんだ。

 カインが負けてしまうかもしれないと思うと、これ以上ないほどの恐怖を覚える。


 周囲の人が疎らになる中、アイリーンは必死にカインの腕にしがみついた。



「カイン、わたくしと契約しましょう! 先生から聞きましたわ! 契約を結んで初めて、悪魔は本来の力を発揮できるって!」



 悪魔が目を細めた。



「……お嬢様は、契約の意味が分かっているのですか?」

「もちろん分かっているわ!」



 悪魔との契約の対価は、己の魂のみだ。



「でも、わたくし、あなたに死んで欲しくないの!」



 必死で言いすがるアイリーンの髪を、カインが優しく撫でた。

 その頭にそっと口づける。



「では、絶対に捕まらない場所に避難してください。契約者であろうあなたは一番狙われやすいですから」

「で、でも……」

「1度くらい私のお願いも聞いてもらえませんか。私も……、あなたに死んで欲しくないのです」



 真剣な赤い瞳に見つめられ、アイリーンはのろのろとカインから手を離した。

 自分がここで頑張る方が、彼の邪魔になると悟ったからだ。


 彼女は「絶対に勝つのよ」と言うと、急ぎ建物の中に入った。

 すぐに人混みに紛れると、テラスに鈴なりになっている人々の隙間から裏庭をのぞく。


 彼女の視線の先で、レイチェルが壇上から飛び降りる。

 口角を上げながら悠然とカインに近づくと、一気に襲い掛かった。



 ガキンッ



 鈍い音が裏庭に重く響く。


 観客から悲鳴が上がった。



「あれ、爪が伸びてるわ!」

「なんて力なんだ!」

「あの姿、まるで悪魔じゃないか!」



 2人の悪魔の激しい打ち合いをながめながら、アイリーンは必死に頭を働かせた。

 カインに死んで欲しくない、自分は何かできないのか、と懸命に考える。


 そして、彼女はひらめいた。


 カインは、契約者が狙われやすいと言っていた。

 エルミナスは、カインがぐるぐる巻きになった契約者を連れて来たと言っていた。



(つまり、契約者を探し出してグルグル巻きにすればいいということですわ!)



 アイリーンはスカートをたくし上げると、駆け出した。

 1階の会場を出て、地下の物置に行くと、何度も体当たりして鍵を壊して中に入る。

 そして、丈夫そうな綱の束を手に持つと、走って会場に戻った。



(あっちの悪魔の契約者は誰なのかしら)



 ここにいない可能性ももちろんあるが、何となくいる気がする。



(……もしかして、ネビル辺境伯かしら)



 そうは思い当たるものの、辺境伯を実際に見たことがないため、中年の男性であること以外分からない。



(もう、あの方法で探すしかないわ)



 エルミナスの契約印は、手袋の上からでも不思議な光を放っていた。

 あの光を放っている人を探そう。


 アイリーンは、会場の端から注意深く人々を観察し始めた。


 裏庭では、悪魔たちが凄い音を立てて戦っており、テーブルや椅子が吹き飛んでいる。


 人々に逃げられたらどうしようと思うが、王子がどうやら逃げた方が危ないと引き留めたようで、逃げたそうにしている人は多いが、実際に逃げている人はいない。



(好都合だわ、殿下もたまにはいいことするわね)



 目を皿のようにして、契約者を探すアイリーン。

 裏庭では、カインとレイチェルの戦いがどんどん激しさを増している。



(急がないと!)



 アイリーンは、焦る気持ちを押さえつつ、冷静に探し続けた。

 隅々までくまなく探すが、それらしき人物が見つからない。



(……もしかして、ここにはいないのかもしれない)



 自分だったらたくさんの人々に紛れようと考えるが、辺境伯はどこかに隠れることを選択したのかもしれない。


 早く探さなければと、アイリーンは部屋を飛び出した。




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