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ヤツらは仲間を見捨てない ~道立山士幌高校一年一組が異世界にクラス召喚された場合~  作者: えがおをみせて


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第634話 そこには笑顔で手を振る魔族がいた



「毒か」


「はい。アレのせいで苦境に追い込まれましたけど、助かったっていうのもあります」


 唸るような侯王様の声に、俺は努めて冷静に答える。


 話し始めて十分とちょっと、『赤組』や『ヘルタル組』、そして現場に居合わせた兵士さんの証言も挟みながら、説明はいよいよ『六本の尾』が毒を使ってきたところまでやってきた。


 大雑把に戦いの流れこそ辿ってはみたが、古韮(ふるにら)の【霧術】や即興だった深山(みやま)さんの吹雪については触れていない。

 必殺技の秘匿は基本だよな。


「『助かった』と申すのだな」


「あ、いや、あはは」


 なんてことを考えてる場合じゃなく、やっぱり失言と捉えられたか。瞬間的に【平静】を発動させたけど、侯王様の圧が強い。


 ティアさん、つまりは娘さんまで毒を食らったのは報告書を見れば明らかだしなあ。

 それでも助かったというのは事実なんだけど、侯王様なら理解してもらえるはずだと思ったのだが。


「……まあよい。続けよ」


 了解です。

 微妙に重苦しい空気を吸い込み、俺は報告を再開する。



 ◇◇◇



「──結果として『六本の尾』に対して数的優位を作り勝利が見込まれたところで、ペルメッダ国軍兵士と思われる集団が現れました。数は十一名です。明らかに敵に与する態度で……」


 説明もいよいよクライマックスといった段になって、これまたペルメッダにとって楽しくない材料だ。口にしたくはなかったけど、仕方ないんだよ。


「構わん。事実のみを語るがいい」


 ああもう、侯王様は容赦が無い。語りがゆっくりになった俺に対し、ただ起きたことのみを話せと迫ってくる。


「そこで魔族……、犬耳族の女の子が三人、加勢してくれました」


「魔族……」


「むぅ」


「内市街で、か」


 俺のセリフを聞いた会議室の面々から、少なくないざわめきが起きた。

 否定的な響きでこそないものの、困惑や驚きがありありと伝わってくる。


 法で禁じられているわけではないが、魔族が内市街に現れることはまず無いというのがペルマ=タの常識だ。だがそれが覆され、しかもタイミングが『尻尾』の起こした騒乱と一致するなんて、普通に異常事態だよな。疑わない方がどうかしている。


 俺が報告の中で魔族に言及すれば、こうなることはわかっていたんだ。


 あの時登場したタァンをシロゥネとチャアトは一度止めたと言っていた。彼女たちもリスクには気付いていたんだろう。

 だけど去り際にもタァンは自分たちの介入を秘密にしておいてくれとは求めてこなかった。


 だからこそ俺たち『一年一組』は隠し立てをせずに、タァンたちを信じてありのままを話そう。

 ただし、一部は内緒にするんだけどな。



「昨日の街門の出入りについて、確認は取れている」


 ちょっと騒がしくなりかけた会議室にウィル様の落ち着いた声が響き、場は静まる。

 街門の記録を調べたのか。ウィル様なら当然の判断だな。


「犬耳族の三人が内市街に入ったのは十刻。名はタァン・サワノサ、シロゥネ・サワノサ、チャアト・サワノサだ。コウシ・ヤヅ、どうかな?」


「……はい。俺たちの前で名乗っていたのと同じです」


「テスに飛ばした伝令が戻るのは明日になるが、待つ必要は無さそうか」


 資料を手にし、名前を並べたウィル様に俺は頷く。

 ウィル様はどこか納得した表情だけど、こっちからしてみれば心臓に悪い展開だよ。


 あ、ウィル様が俺の方を見て、どこかイタズラっぽいような変な笑い方をした。『一年一組』側として席につくティアさんも邪悪に微笑んでいるし。

 全くこの人たちは……。でもまあ、魔族を悪く扱わないっていうことだけは信じてもよさそうか。


 仲良し兄妹は置いておいて、タァンたちは真っ当な手段で内市街に入っていたんだな。なんとなく彼女たちらしい、なんて感じてしまう。驚く衛兵たちを他所に堂々と門をくぐったんだろうって。

 だが十刻、つまり夜の八時に内市街に入ったというのが引っ掛かる。彼女たちが俺たちを助けに来てくれたのは、日付が変わる直前くらいだ。

 それまでの四時間はどうしていたんだろう。


「彼女たちは内市街の飲食店を数件訪ね、持ち込んだ食料品を売り込んでいたそうだ」


 ウィル様の口から出てきた答え合わせみたいな情報に、俺はどこか納得してしまった。

 なるほど、タァンたちは真っ当にペルマ=タを闊歩していていたんだ。偽装じゃないよな?


「付け加えると『一年一組』の噂も聞き回っていたらしい。拠点の場所についてもだな」


 続くウィル様のセリフで、会議室に集まった人たちの視線がこちらに集中する。

 そうなるよな。タァン一行が何を売ろうとしていたのかは知らないが、『一年一組』に用事があったのは遭遇した状況も併せて確定的だ。


 まあ『一年一組』は彼女たちの目的が想像できてしまっているのだけど。


「とはいえ彼女たちが今回の騒乱において『六本の尾』の側に加担していた証拠は、現状どこにもない。むしろ……。さて、それを踏まえてコウシ・ヤヅ、状況説明を続けてくれ」


「はい」


 余裕の笑顔で先を促すウィル様に、俺は内心で歯噛みする。ちょっと意地が悪過ぎないか?


「兵士の登場で窮地に陥っていた『一年一組』ですが、そこに犬耳族の三人が現れました。そして──」


 なるべく平坦な声になるように気を付けながら、俺はタァンたち三人の『消極的』な助力について説明していく。


 犬耳娘たちは武器を持たず、一切の攻撃的行動を採らなかった。それだけは絶対に伝えなければいけないことだ。

 もちろんあの圧倒的な野生については伏せておく。俺の見た魔力の色や、ましてや転生者を自称していたなんていう情報を教えるのは問題外だな。


 淡崎(たんざき)さんの転生者を名乗ったタァンに対するえこひいきであることは自覚しているが、あの時彼女たちが助けてくれていなかったらと考えれば、これくらいはいいだろう。


「確かに彼女たちによって『一年一組』は救われました。ですが三人は本当に走り回っただけで、敵対者にすら全く手を出していません。それだけは繰り返させてください」


 こちらも敵の毒を利用し、最後にサーヴィさんの矢がトドメとなって『尻尾』を退治したところまで説明を終えてから、俺はもう一度念を押しておく。

 何か『赤組』のニュエット組長が悔しそうだが、それはさておきだ。



「彼はこう言っているが、サーヴィ・ロゥトは見たのか?」


「最後の数十秒ですが、ヤヅの発言した通りです。間違いありません」


 ウィル様から水を向けられた『白組』のサーヴィさんは妙な含みを持たせず、しごく自然に俺の言ったことを肯定してくれた。


「そうか。真っ当な判断ができる者が現場を見れば、『一年一組』が被害者の側であることはすぐに気付くだろうな」


「兵士はともかく、『六本の尾』は怪しげな仮面でしたから」


 助け船っぽいウィル様のセリフに、俺は何とか乗っかっていく。


「そして救援が駆けつけた時には……」


「すぐに彼女たちは立ち去りました。今日の夕方、『一年一組』の拠点を訪れるとだけ言われています」


 オチを話せば俺の出番はここまでだ。

 そのあとどうなったのかは、駆けつけてくれたウィル様たちが俺たち以上に状況を把握しているだろう。タァンたちのことを、俺たちとは別の視点で調べていたのだから。


 さて、ウィル様はどう出る。少なくとも俺は今日これから、タァンたちと会うことを偽りなく開示したのだけど。


「まるで歌劇に出てくる『正義の味方』だな。痛快ですらある」


 そう言ってのけたウィル様は、今度こそ誰にでもわかるような笑みを浮かべていた。


「犬耳族の三人については、嫌疑無しということで問題ないだろう。何かあれば、個別に話を持ち掛けてくれて構わない」


 その言葉に俺だけでなく仲間たちの多くがどっと息を吐く。あまり派手にすると周囲から勘繰られてしまうかもしれないけれど、そこはまあ仕方のないことだ。


 邪悪なドヤ顔をしているティアさんは、見なかったことにしておこうか。



 ◇◇◇



「自身の犯した失態を自分の口から並べるのは得難い経験だったよ」


 口調を普段の柔らかいものに戻したウィル様が、乾いた笑いを浮かべる。何度見直しても目元のクマがおいたわしい。


 捜査の進捗と事情聴取も終わり、すぐに冒険者たちと組合の人たちは立ち去っていった。俺たちもそれに倣おうとしたのだが、ペルメッダとアウローニヤの偉い人たちに引き留められて会議室に残っているのが現在だ。

 というか守護騎士や文官さんたちまで席を外したんだけど、これはいいのだろうか。


「待ちわびたわ」


 入れ替わりでお妃のジュニフェア様まで入室してくるし──。


「やあ、無事で何よりだよ」


「全員揃っているようだな。これでリーサリットに顔向けできる」


 さらにはラハイド侯爵夫妻までもが登場した。


 ああ、何となく想像が付いたぞ。今さっきウィル様が『失態』っていう単語を使っていたし、この場はそういう集まりか。

 なるほど守護騎士すら退席させるはずだ。アウローニヤでの経験がこういう場面で謎の察しに繋がるのもなあ。


「ユー・コピーだ。委員長」


「……アイ・コピーだよ。八津(やづ)


 小声で立場を譲る俺に、藍城(あいしろ)委員長はちょっと眉を下げてバトンを受け取ってくれる。


 ここからは迷宮委員の仕事じゃないからな。綿原(わたはら)さんも目を逸らしているし。

 格的には滝沢(たきざわ)先生の出番かもしれないけれど、ウチのやり方はこの場にいる人たち全員が知っているから大丈夫だ。



「お互いに疲れもあるだろう。手短にしておこうか」


 集まった面々の中で一番立場が上となる侯王様がおもむろに口を開いた。その声の持つ響きに、会議室にいる全員が居住まいを正す。


 全員が立ったままで、座っている人はいない。会議用の長テーブルを挟む形であちらにはアウローニヤの四人とペルメッダの三人。こっちは『一年一組』が二十四人だ。

 もちろんティアさんとメーラさんはこちら側だな。うん、慣れたものだよ。


「此度は事前に情報を得ていたにも関わらず、『六本の尾』とやらの跳梁を許してしまった。ペルメッダの王として『一年一組』に詫びよう」


 改まった侯王様が俺たちに向かって小さく頭を下げ、王妃様とウィル様もそれに倣う。


「王命を受けておきながらの失態だ。僕たちもまた、アウローニヤを代表して謝罪したい」


 続けてラハイド侯爵もまた頭を下げてくる。もちろんベルサリア様とスメスタさん、そしてベスティさんも一緒にだ。


「謝罪は受け取りました。僕たちの方こそお礼を言わせてください。みなさんの尽力に感謝しています。本当に」


 偉い人たちからの圧迫謝罪を受けても委員長は動じなかった。


 こっちの世界に飛ばされて早々だったら一歩も二歩も後退りしてしまいそうな場面だけど、俺たちはその場に踏みとどまって一斉に頭を下げる。

 向こうよりも深々とっていうのはご愛敬だろう。



「半分くらいだけど、肩の荷が下りたよ」


 本気で疲れた顔になったウィル様がため息を吐く。


 ほんの数秒だけの謝罪合戦だったが、頭を上げてしまえばそこにいる人たちは本来の持つムードに戻っていた。

 ただ一人、ベスティさんだけは未だに悔しそうだけど、こうやって感情が表に出るのが彼女らしい。


「リン、戦いはどうであった?」


「お父様。次があればわたくし、最後まで立っている側でありたいと思っていますわ」


「そうか……。無事で良かった」


 暖かくも勇ましい親子の会話を経て、儀式っぽいやり取りは幕を閉じた。



 ◇◇◇



「なんだかドキドキするよね」


「僕はワクワクかな」


 拠点への道すがら、奉谷(ほうたに)さんと夏樹(なつき)がベタな言葉を交わしている。

 タァンはキッチリした来訪時刻を告げてはいなかったけど、そこがむしろみんなの胸の高鳴りに繋がっているようだ。


 王城の会議室を出た『一年一組』はそのまま冒険者組合に立ち寄り、そこでまたマクターナさんたちからも改めてお詫びの言葉をもらうことになった。

 そこでも委員長が応対してくれたのだけど、謝罪の応酬はこれっきりにしてほしい。


 ついでというワケではないが、四日間の迷宮で地上に卸した素材代と、加えて『魔力量調査』の報酬も教えてもらった。

 リザルトは四日間の合計で百七十五万ペルマだったけど、どうにもピンとこない。そのまま組合の貯金に回したので、一枚の証書で終わりっていうのもあるか。


「手紙も渡せたし、あとはいよいよかあ」


「そうだね」


 頭のうしろで腕を組んだ野来(のき)白石(しらいし)さんがコクコクと頷く。


 俺たちとは別の経路で立ち去ろうとしたスメスタさんに白石さんと野来がコッソリと渡したのは、午前中のうちに書いておいたアウローニヤへの手紙だった。

 結果として約束より三日も遅くなってしまったが、事情は女王様も把握しているし、なんとか許してもらえると信じよう。


 対外的な要件はここまで。いよいよタァンたちとの再会だ。

 夕方の来訪ということで、上杉(うえすぎ)さんや佩丘(はきおか)などはちょっと凝った、それでいて元日本人のタァンが喜びそうな料理を作るんだと張り切っている。


「なんだか緊張してきまシタ」


「だよなあ、俺もだ。どんな顔したらいいのやら」


(たかし)はそんなに繊細じゃないはずデス」


「ミアはどうなんだよ……」


 ミアと海藤(かいとう)のアホな会話はさておき、この角を曲がればもう俺たちの拠点は目の前だ。



「あれ?」


草間(くさま)っ!?」


 草間の声を受けてみんなが一斉に警戒態勢となる。

 昨日の今日だ。ここまでの道中でペルメッダの兵士が普通に警備をしていたが、敵はどこから現れても不思議はない。


「あ、ごめん。『ときめき組』の警備って五人だったよね。それが八人に増えてて……、争ってるって感じじゃないよ」


「何かさぁ~、楽しそうな声っしょ」


 慌てて両手を前に突き出す草間に、(ひき)さんの気の抜けた声が被った。まさかとは思うけど──。



「お姉さんさ、『覇声』さんなんでしょ?」


「カッコいい」


「憧れるよね」


「いやあ、照れるねえ。あたしの名前って、魔王……、そっちにまで轟いちゃってるのかい?」


「うん。『ペルマ七剣』はこっちでも有名なんだよ」


「そうかい、そうかい」


「ウチの姐さんはときめいてるからなあ」


 そこには、俺たちの拠点にある門の前でスチェアリィ組長たち『ときめき組』の人たちとフレンドリーに談笑している、犬耳三人娘の姿があった。



「お帰り!」


 俺たちの登場に気付いた……、というかとっくに察知していていたのか、タァンはくるりとこちらに振り返りって元気に手を振る。


「今日は勢ぞろいだね。久しぶり、みんな!」


 フードを外していたタァンは折れ耳をピョコっとさせて、満面の笑顔で俺たちを出迎えてくれた。尻尾なんてブンブンだ。

 ミステリアスな魔族はどこに行ったのやらだな。


「マジで淡崎じゃねえか」


佐和(さわ)、なんだよね」


「ほら、『ときめき組』の人たちもいるんだから、続きは部屋に戻ってからよ」


 ざわめくクラスメイトたちを風紀委員な中宮(なかみや)さんが窘めるけど、ご当人もタァンたちから目を離すことができていない。


 あんまり日本での名前を呼んだら『ときめき組』に疑われるかもしれないって思うのは、俺がタァンと面識が無いからなのかもな。



 ◇◇◇



「みんなが揃っていて安心したよ。そっちのお二人も無事で何より。タァンはタァン・サワノサ」


「シロゥネ・サワノサだ」


「チャアト・サワノサだよ」


 革鎧を脱いだ犬耳三人娘が談話室の絨毯の上で胡坐をかき、名乗りを上げていく。


 タァンは元気よく、シロゥネはちょっとムスっとしていて、そしてチャアトはニコニコ顔だ。

 三人のシッポがパタンパタンと絨毯を叩いている。滅茶苦茶微笑ましいんだけど、この光景。


 晒された彼女たちの手や足には毛が生えているわけでもないし、肉球も見当たらない。人間耳もちゃんと付いているし、本当にケモ度が低いんだな。

 おっと、女の子の足に注目するのは危ないヤツか。興味は尽きないけれど、これ以上は控えておこう。


 まあ、車座になったクラスメイトたちも身を乗り出してタァンたちに興味津々なのだけど。



「リンパッティア・ペルメッダですわ。昨夜の助力、感謝していましてよ」


「メーラハラ・レルハリアです」


 タァンからの視線を向けられたティアさんとメーラさんがテーブル席を立ちあがり、名前を告げる。

 この二人からって辺り、タァンは『一年一組』の特殊な事情を把握しているんだろうな。


「わたしは山士幌高校で教師をしている滝沢昇子(たきざわしょうこ)です。担当は英語ですね」


「はいっ。三人とも、よろしくお願いします」


 続けたのは先生だった。相変わらず現在進行形で自分の立場を語るんだよな。

 それに答えるタァンはいいお返事だ。


 ここまでの印象としては元気ロリっ娘な奉谷さんと、これまた元気な(はる)さんを足して二で割った感じかな。要するに元気の塊ってことだ。これで学校の成績も上位だったって話だし、佩丘レベルの完成度か。

 クラスメイトたちから聞いていた淡崎佐和(たんざきさわ)って人物評の通りだとは思う。


 そしてタァンのクリっとした黒い瞳が俺を捉える。ああ、立場順とか出席番号じゃなくって、残るメンバーで彼女が知らないのは俺くらいなんだ。


「俺は春から山士幌に越してきた──」


「昨日も思ってたんだけど、もしかして八津?」


「うえっ!?」


 自己紹介風に行こうとしたら、タァンがズバリと切り込んできた。

 口から裏返った声が出てしまう。何で俺のことを知ってるんだ?


「小二まで一緒だったじゃない」


「そんな昔のことを……」


「だって、大切な思い出だからね」


 俺のツッコミにそんな風に返すタァンは、どこか遠くを見るような目をしていた。

 まるで俺越しに山士幌を眺めているような、そんな……。転生者、か。


 ノスタルジックなタァンと違い、綿原さんがサメを荒ぶらせながら口元をピクピクさせているのが視界に入るが、今は触れないでおいた方がいいんだろうな。



「……さて、ちょっと重たい内容も混じるんだけど。タァンの話を聞いてもらえるかな」


 ちょっとだけ間をおいてから、ふっと肩を竦めたタァンは周囲を見渡す。


「でしたら食事を先にしませんか?」


「さっすが美野里(みのり)だね。実はちょっと期待して、早めに来ちゃったんだよ。タァンたちは料理がからっきしだから」


「あらまあ」


 このタイミングを狙っていたかのような上杉さんの言葉に、タァンは嬉しそうに頷く。これには上杉さんも得たりといった感じだ。

 何となくわかるようになったけど、会話の距離感がクラスメイトなんだよな。


「じゃあさ、これを使ってよ。内市街でも売れなくって」


 タァンの声にすっと立ち上がったチャアトが壁際に置いてあった荷物に向かい、ラグビーのボールサイズの小さな木樽を取り出した。

 こちらもまた阿吽の呼吸っぽくて、タァンたち三人の近さが見て取れる。


「持って帰っても仕方がないし、譲るよ。実はタァンたちがペルマ=タに来た目的の半分がこれなんだ」


 チャアトから受け取った木樽を絨毯の上に置いたタァンは、イタズラっぽい笑みを浮かべた。


「自作の『醤油』だよ。五層素材はいくらでも買い取ってくれるのに、これは敬遠されちゃって」


 そんなタァンのセリフに。草間のステルスアタックなんかがかすむ程のクリティカルが俺の胸に突き刺さる。


「本当なのか? 淡崎。いや、タァン」


「タァンで通してもらえると嬉しいかな。佩丘」


 真剣な表情で膝を乗り出した佩丘に向けて、タァンは笑顔で答えた。そうか、やっぱり『主体』はタァンなんだな。


「味はまあ、そこそこだよ。八十点は取れると思うかな」


「そうか……。本当にいいのか?」


「そりゃもう。みんなの胃袋を掴んでおいた方が、話を進めやすいからね」


 バツの悪そうな顔になった佩丘に対し、タァンは快活な笑顔を浮かべたままだ。


「だから美味しい料理を頼めるかな?」


「ああ。任せとけ、タァン」


 力強く頷いた佩丘が醤油が入っているという樽を片手に立ち上がる。佩丘め、スイッチが入ったか。


「ミア、米を炊け」


「ガッテン承知デス!」


 佩丘の指名を受けたミアが、こちらもまた絨毯の上で飛び跳ねた。


 見ればタァンだけでなく、シロゥネとチャアトの尻尾もブンブン振られている。

 ある意味わかりやすいな、魔族って。犬耳族だけかもしれないけれど。


 ちょっと気になったのは、『米』と聞いた瞬間タァンの口端がちょっと持ち上がったことくらいか。



 タァンの基本口調は一人称が『タァン』で、男子は苗字の呼び捨て、女子は下の名前となります。

 次回の投稿は明後日(2026/03/27)を予定しています。

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― 新着の感想 ―
まあ、本当に正確な情報を得ていて出し抜かれたのは普通に警備上の大失態だからね。自分がその立場になったらと考えると、非常に胃が痛い話ですね……。 淡崎さん、タァンが大切な思い出って言った瞬間ちょっと様子…
わあサメさんが!! 転生者といっても、完全に同じ人格ではなさそうなんですね……?
そりゃサメが機嫌悪くなるよなぁ^^ ミアだったら絨毯に女の子座りしていたとしても、そのまま一旦ジャンプして立ち上げれそうだが さすが修正早い
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