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ヤツらは仲間を見捨てない ~道立山士幌高校一年一組が異世界にクラス召喚された場合~  作者: えがおをみせて


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第626話 夏のペルマ=タに雪が舞う



「……これは霧か。なるほど【霧騎士】であるな」


 陣形の中央に位置取った古韮(ふるにら)が発生させた霧を見て、ブリャ・ルミヴが納得したように淡々と語る。


 良かったな、ブリャ・ルミヴ。目を付けていたレアジョブ持ちの力の一端を見ることができたんだ。せいぜい感謝しておけ。

 古韮の『対魔力圏』は昨日の夜に使えるようになったものだ。『六本の尾』がどれだけ情報収集に長けていたとしても、性能なんて知りもしないだろう。


 俺たちが待ち伏せを受けたこの場所は近くに水路が存在していない。

 狙ってやったのかはわからないが、『一年一組』には水を使うメンバーが多いということは向こうだって承知のはずだ。


 よって各人が持つ水のほとんどを古韮の近くに投入し、そしてペルマ=タの路地に霧が発生した。白石(しらいし)さんの歌声を背景にしているのもあって、結構荘厳な雰囲気が出てるじゃないか。


 言葉での攻撃に続き、二手目となる『一年一組』の行動は古韮の『対魔力圏』だ。何しろ目立つから、敵の警戒を引き出しやすい。



「どうした。隠れないのであるか?」


「ここからなんだよ。みんな、どうやら『尻尾』は俺たちを舐めてくれているらしい」


 日本語による攻撃から立ち直ったのか、なんとか取り戻した無表情で煽るようなことを言ってくるブリャ・ルミヴに、俺は何てことは無いという風に返してやった。


 確かに『一年一組』の面々はドーム状となった古韮の霧からある程度の距離を置いている。

 霧を隠れ蓑にでもするのかと予想したのだろうブリャ・ルミヴだが、逆なんだよな。俺たちも近づけないんだよ。


 魔術の性質を考えればすぐにでもその意味に気付かれてしまいそうだけど、アイツらの攻撃を少しでもためらわせることができれば上々だ。

 ブリャ・ルミヴ……、もうブリャでいいか。ヤツと遭遇してからそろそろ三分。未だこちらの味方は現れないし、声も聞こえてはこない。


 それならこの場の『一年一組』だけで、やれることをやるのみだ。

 直前にロリっ娘バッファーの奉谷(ほうたに)さんから【魔術補強】を受け、相方の藤永(ふじなが)から【魔力譲渡】を掛けてもらったアルビノ美少女、深山(みやま)さんの挑戦が始まる。


「やるね」


「深山っちならできるっす!」


「うん」


 霧の近くでぽつりと呟いた深山さんが藤永に励まされつつ、ゆらりと右手を横に伸ばす。その腕が古韮の作り出した霧にゆっくりと呑み込まれていった。


「うん。上手くいったみたい」


「うおおっ!」


「やったかっ!」


「絶対できると思ってたっす!」


【冷徹】をオフにしている深山さんの微笑みを見た仲間たちから歓声が上がる。


 聖法国の尻尾どもにはまだ理解が及ばないだろうが、これは快挙だ。

 古韮の『対魔力圏』は、誰であれ触れれば魔力の相互干渉によりデバフが掛かる。深山さんはそこに無害で踏み込むことに成功したんだ。


 理由はひとつ。今まさに深山さんが取得した【魔術融合】の効果に他ならない。他者との魔術を文字通り融合できるという技能だ。


 アウローニヤに召喚されたかなり初期の段階から後衛術師たちは候補に出していたし、資料としても存在していたソレは『魔術を集合』させて威力を高めるものだとされていた。なんでも水を大量に合体させて敵の大軍を押し流したのだとか。資料というより物語の領域だな。

 だが高階位の後衛術師は迷宮のラストアタックルールとトドメの都合もあって少ない。そんな術師たちにとっては優先して取得すべき魔術系技能がたくさんあるので、【魔術融合】は余程の事情がない限りかなり後回しになる。


 ここで詳しく検証ができていない【魔術融合】を取るという深山さんの行為は、はっきりとギャンブルだ。

【魔術融合】を使ったからといって古韮の霧に干渉できるかどうかもわからない。それでも彼女は決断した。


『最悪【水術】同士で合わせるから、取って損はないかな』


 数時間前、地上へ向かう途中で深山さんはそんなことを言っていたが、そもそも【水術】を融合できるかすら怪しいくらいだったんだ。


 ベスティさんと違い『氷弾系』を得意としない深山さんは、ここから先の自分のスタイルとして【冷術】の使いどころを模索していたらしい。

 下した結論は他者との魔術の掛け合わせ。しかも【魔術融合】という、クラスメイトの誰もが持たない技能を取得しての挑戦だ。


『もしお互いに【魔術融合】が必要だったら、俺も取るっすよ』


『ありがと、藤永クン』


 で、こんな惚気までくっついてきた。藤永め。


 今回の迷宮で夏樹(なつき)が【魔力受領】を取ったように、深山さんには自己犠牲的な実験という思惑もあったんだろう。彼女でなければ藤永が十三階位で手を出す予定だった技能だしな。

 これまでの経験で取得することによりデメリットが発生する技能が皆無であることがわかっているとはいえ、ウチのクラスはそんな連中ばっかりだ。


 さっきまで潜っていた迷宮でギリギリ十三階位に届かなかった深山さんだけど、彼女は魔力温存のために十二階位での技能取得をスルーしていた。

 少しだけ魔力に余裕があったからこそのチャレンジ。それは一応の成功を収めたらしい。


 だったら、ここからだよな──。



「霧が、大きくなった?」


 深山さんがすっぽりと古韮の霧に包まれたと同時に起きた事態に、ブリャが訝し気に口を開く。

 初見の霧が大きくなったのだ。この現象には『六本の尾』だって警戒せざるを得ないだろう。


 一回り、半径が二メートルから三メートルくらいになった霧のドームは密度が濃くなったようにも見える。


 取得してから一日しか経っていない古韮の未熟な【霧術】だけど、そこに深山さんが熟練に磨きを掛けてきた【水術】、【魔術強化】、【魔術拡大】が乗っかればこうもなるってことか。

 正直、深山さんが想定していた中でも最悪のパターン、【水術】の融合しかできないだけでも使える手はあった。だけどこれは最上の成果だな。まさかこれ程のものになるとは。


 魔力の色が近似している『クラスチート』だからこそ可能であるのかもしれないが、最高じゃないか。【魔術融合】って。


「【多術化】してみる。前を空けて」


 範囲が広がった霧の中から深山さんの声を聞き、前衛にいた先生たちが慌てて横っ飛びして空間を作る。

 そんな動きを見て、包囲網の一角を作っていたブリャたち三人も後ずさった。


 と同時に霧が前方に伸びる。いや、もうひとつの霧が発生したと言った方が正確だろう。

 上から見下ろせば瓢箪(ひょうたん)のようにも見えるかもしれない。古韮を中心としたモノよりも、もう少しだけ小さな霧のフィールドが前方に出現していたのだ。

 もちろん【霧術】を取ったばかりの古韮が、いくらたくさんの水がぶちまけられていたからといってもこんなマネをすることはできない。深山さんの【多術化】が成し遂げたんだ。


 これじゃあまるで、深山さんが古韮の魔術を乗っ取っているみたいだな。実際には古韮だって【霧術】を使い続けているから成立しているのはわかるのだけど。

 魔術を扱うようになって二十四時間程度の古韮と、百日に渡って使い続けてきた深山さん。どちらが熟卓しているかといえば、答えなどは明らかだ。



「ここまで、できるのね」


「凄いな」


 こちらに寄ってきつつ感嘆する綿原さんに、俺も頷くしかない。


「前にやったわよね、『熱砂鮫』」


「『ホットサンドシャーク』か」


「わたしか玲子(れいこ)が【魔術融合】を取ったら、できるのかしら」


 あったなあ。アレをぶつけられたのは俺とキャッチボールをしていた海藤(かいとう)だったかな。


「相性だって考えられるよ。霧と水が【魔術融合】にマッチしていたのかもしれないし、【魔力浸透】が効いている可能性だってある」


 綿原さんの性格からして言い出したりはしないだろうけど、【遠隔化】を取ったばかりの笹見(ささみ)さんにお願いするのはダメだぞ?

 やるなら自分が十四階位になってからにしてくれ。


「そ。だけど……、ふふっ」


 笑みを含んだ綿原さんの返事だが、何故か頬が赤らんでいる。何か考えでもあるんだろうか。

 彼女は常にサメを育て続けてきただけに、侮ることができないんだ。



「深山。できそうか?」


「うん」


「そうか。楽しみだな!」


 範囲の広がった霧の中から古韮と深山さんの会話が聞こえてくる。古韮め、アガっていやがるな。まあ、俺もだが。

 これから深山さんがやろうとしていることを思うと、どうしてもな。


 深山さんの助力によって広がったデバフフィールドではあるが、このまま攻勢に使うのは難しい。味方が近寄れないっていう性質は変わっていないからだ。だから違う形にする。

 ウチの【冷術】使いはこの先までを想定し、提案をしてきたんだ。


(なぎ)ちゃん。砂、お願い」


「了解よ。アラウド=レスヴィとは逆になったわね」


 深山さんの声に綿原さんが応え、霧ドームの上空に向かった白いサメが膨張し、そして破裂した。

 アラウド=レスヴィとはこれまた懐かしいフレーズだが、綿原さんが最初に『霧鮫』を出現させた場所はそんな名前の島だったか。


「さあ、俺はもうお手上げだ」


 濃くなっている霧の向こう側で古韮が実際に片手を上げているのが薄っすらと見える。


 実は古韮の『対魔力圏』を無効化する方法はそう難しくない。【水術】と類似する【霧術】は『不純物』に弱いのだ。

 塩でも砂糖でも、なんなら血液でも構わない。そういう純粋に術者が『水』と判断しかねるものが混ざるだけで、途端に魔術の維持が困難となる。【霧術】初心者な古韮ではここらが限界か。


「炸裂するサメもいいものね」


 ご満悦な綿原さんのセリフはさておき、そんな性質を持った霧の上から迷宮産の珪砂が降り注ぐ。

 敢えてそれをこの場でする意味は、深山さんのご意思によるものだ。



「やっちまえ、深山」


「いくっす、深山っち!」


「うんっ!」


 古韮と藤永の声が重なった直後、霧はその質を変貌させた。


 細かい水滴の集合体である古韮の霧に綿原さんの珪砂が混じって芯となり、そこに深山さんの『対象物を選ばない』【冷術】が行使されるとどうなるか。


「ふわぁ」


「凄いや」


「雪だあ」


「お見事ですわ!」


 仲間たちから歓喜の声が上がる。


 そこには雪があった。


 深山さんによると、単純に空気中の水分を凍結させても『ダイヤモンドダスト』にしかならないらしい。それはそれで必殺技っぽいとも思うのだが、必要とされる温度が低くて深山さんでも結構キツいのだとか。そこで彼女が目指したのは雪だ。

 よって古韮の霧に綿原さんの珪砂が芯として利用された。雪の少ないスキー場で見かける光景。すなわち人工雪の原理らしい。


 なんで深山さんがそんなことを知っているのかといえば、小学六年の時の自由研究でそういう発表をしたんだそうな。

 誰からどんなネタが飛び出すのか、ウチのクラスの多芸多才っぷりに俺はもう呆れることなどない、はずだ。


 想像していた中でも最高の展開に心が湧きたつ。これで負けたりしたら、それは俺の責任だろうと言いたくなるくらいには。

 だけど俺はもう、このプレッシャーを燃料にすることができるだけの経験を積んできた。



「風をお願い」


「まっかせて!」


「やるよぉ!」


 宙にたゆたう雪の中、嬉しそうに笑う深山さんの言葉を受けて(はる)さんと野来(のき)が同時に、そして逆方向に【風術】を行使する。

 夏の夜のペルマ=タの街角に吹雪が渦巻いた。同時に仲間たちがその内側へと走り寄る。


 この期に及んで搦め手を使ってこなかった『六本の尾』の矜持だか、それともこちらへの探りなのかは知らないが、ウチのクラスメイトが作り出した雪の嵐がそんな前提を吹き飛ばす。


 この雪はすでに魔術から離れて物理現象として存在している。つまりは魔力的デバフは持っていない。それでも──。


「さあさあ、俺たちは道産子だぞ! お前らはどうだ!?」


「『どさんこ』とはなんですの?」


 古韮の叫びに首を傾げるティアさんはさておき、この程度の雪なんて俺たちにとっては日常生活の範疇だ。

 豪雪地帯であるペルメッダに住むティアさんとメーラさんもこんなのは慣れっこだろう。


 だが、雪が降らないという聖法国の人間にとってはどうなんだろうな。

 尻尾共、雪合戦の経験はあるか?


 この世界の魔術は【聖術】を除けば戦闘にはあまり向かないとされている。せいぜいが戦闘補助。実際俺たちだって最初はそれで苦しんできた。

 だけどな、古韮、深山さん、野来、春さん、奉谷さん、魔力を渡した藤永も加え、高い階位を持つ六人が力を合わせればこんなこともできるんだ。


 ぶっちゃけ、失敗した時に備えて古韮の霧を囮に使った『戦女神』の突貫や、深山・藤永ペアが合体させた【水術】による大規模スタンが本命だったのだけど、これは嬉しすぎる誤算だ。

 敵は短弓とはいえ矢を放ってくる可能性もあった。だがヤツらが俺たちを殺したくない以上、誤射を起こしやすいこの吹雪は相当厄介になるはず。


「さすがは勇者の(ひな)たち。これほどの自然現象すら引き起こすのであるかっ!」


 どこか嬉しそうに上ずった声のブリャを他所に、吹雪に身を包まれた『一年一組』が一斉に動き出す。



 ◇◇◇



『えっ、あえっ、はるいっつぇえっ!』


「ああぁぁぁいいぃっ!」


「ぐっ!?」


 絶好調な白石さんの【奮戦歌唱】に乗り、吹雪から飛び出した先生がブリャの右にいた男を思い切り殴り飛ばす。

 だが敵もさるもの、手甲でのガードが間に合っている。仮面越しにくぐもったうめき声が聞こえたが、怪我をしたようには見受けられない。


「しゅえあぁぁ!」


 左の、たぶん女性を狙った中宮(なかみや)さんの下段薙ぎもまたしかりだった。


 振り抜かれた木刀はしっかりとに脛に当たったのだが、上手く力を逃がされている。

 階位か技能か、相手がそういう技術を持っているのか、それとも装備が良いのか。それら全部だと判断すべきだな。やはり手強い。


 ここまでの展開からして、聖法国の尻尾は戦闘力ならペルメッダの『七号』を上回るかもしれないくらいだ。少なくともブリャを含めた正面の三人はかなりの力を持っている。

 突然の雪で驚いているだろうに、ここまでやれるのか。


 深山さんが【冷術】を掛け、野来と春さんが断続的に風を吹かせて調整してくれているとはいえ、牽制でしかない吹雪に頼り切るのはよろしくない。

 むしろ野来と春さんは優秀な物理戦闘能力を生かしてもらいたいところだ。突撃力なら身内でもトップクラスだからな。


 今のうちにどれだけ敵を削れるかも大事だが、最低でもそれぞれの役割と戦闘能力くらいは把握しておかないと。

 だが、敵の視界が悪いならこっちもそれは同じ条件だ。雪に慣れていて、さらには【観察】と【視覚強化】でなんとかってところだな。さすがに【暗視】を取るのはギャンブルが過ぎるが、状況次第ではアリになるかもしれない。



「むうっ!?」


 俺が若干の焦りを感じていた状況で敵に初ダメージを入れたのは、なんと笹見さんだった。しかも相手はブリャ。


 海藤が投げたストレートを躱したところに、彼女の『熱機雷』が設置されていたのだ。

 敵方で唯一素顔を晒していたブリャの耳元が赤く腫れている。戦闘には支障が出ない程度ではあるが、実にいい気味だぞ!


 ついでにここまでの戦闘で見えたモノもある。


「敵は手甲と脚甲だけじゃない。鎖帷子みたいのを着込んでる。それ前提で戦ってくれ!」


 ブリャこそ司祭みたいな恰好だけど、それ以外はペルマ=タの住民に溶け込むために普通の服装だ。

 だからこそ首元で鈍く光る鎖が見えた。やっかいだけど、打撃重視なウチなら対応できるだろう。


 少しずつ前進を試みている『一年一組』だが、四方向に対応しないわけにもいかない。

 現状では左右を騎士たちがカバーし、後方は『戦女神』と化したミアとメーラさん、ノーマルモードなティアさん。左用のアタッカーはチャラ子な(ひき)さんで右は春さんだ。それに加えて術師が中央で全周フォローって感じだな。


「これはただの雪だ! 必要以上に恐れるな!」


 こっちが相手の情報収集に努めていたように、向こうさんも黙ってはいなかった。


 右側からゆっくりとこちらに詰めてきた刺客の一人が大きな声で叫ぶ。『七号』さんとは違い、『尻尾』は普通に喋るらしい。まあ必要で正確な情報だから仕方ないか。

 ちゃんと雪だと言い切る辺り、冬場のアウローニヤに潜伏でもしていたのかもしれない。


「なっ!? ぐあっ!」


 だけど口は災いの元だ。


 雪造りの役目を終えた古韮が余った水で『対魔力圏』を作ってソイツに近づけば、デバフの効果は発動される。雪からはみ出た霧という謎なビジュアルではあるが、そっちはちゃんとした魔力が通っている魔術なんだ。

 突如発生した雪に触れて確認するという勇気ある行動を選択した男は、霧によってバランスを崩したところを春さんのメイスと夏樹の石に捉えられた。


 顔面に石をぶつけられ、メイスで膝を砕かれたソイツは、その場で昏倒する。

 本当、酒季(さかき)姉弟(きょうだい)って対人戦でタガが外れるタイプだよな。



「何をしているのであるか」


 倒れ伏した味方を見つめるブリャの瞳は冷たく、そして揺れてはいない。俺たち的には絶対にあり得ない身内に対しての態度ではあるが、これが特殊部隊の性質ってことなんだろう。

 実際、夏樹と春さんが倒すことに成功した敵は、『尻尾』の攻撃職の中では動きがいい方ではなかった。


 だがブリャの性格診断や刺客の強さ判定よりも、今は大切なことがある。


「そいつだ、草間(くさま)!」


 俺は敵の一人を指差した。倒れた尻尾の仲間を見て、さりげなく一歩を踏み出そうとした男。右側に陣取った五人の中で少しだけこちらとの間合いを遠く取っていたヤツだ。

 鍛えられているのか一見前衛バリに動けてはいるが、そいつは回復職で間違いない。雪越しであってもそれくらいはお見通しだ。


「ごめんなさいっ!」


「があっ!?」


 ニンジャな草間が突如ヒーラーの背後に出現し、両手で握りしめたメイスをソイツの背中に叩きつけた。ある程度当たりを付けていたのだろう、近くで狙っていたのは草間のナイス判断だぞ!


「かっ、はっ……」


 肺から全部の息を吐きだしたかのように白目をむいた男が膝を突き、そのまま前のめりに倒れる。

 成し遂げた当の草間はメガネ越しの目に涙をためているけど、一撃で決めるために思い切りだったもんな。決して気の強くない草間だけに、そこまでするのはつらかったろうけど、よくぞやってくれた。


 マクターナさんには見破られてしまったが、一度限りのステルスアタックはヒーラー狩りに最適な技なんだ。


「ソイツだけ回収しろっ。古韮、夏樹、綿原さん。フォロー!」


 右陣営で残された三人がヒーラーと草間に詰め寄ろうとするが、そうはさせない。


 射程が伸びた綿原さんの赤紫な双頭サメと夏樹の石がソイツらを牽制し、霧をまとった古韮が駆け寄る。その隙に草間は倒れたヒーラーの足を掴んで吹雪の中に引きずり込んだ。

 なんかパニック映画みたいな絵面だが、やっているこっちは必死で、かつ真剣だからな。


 夏樹と春さんが倒した方は放置でオーケー。回復役がいなければ復帰できるような状態じゃない。


 ちなみに綿原さんは珪砂のほかに、魔獣の血が入った革袋も携行していたりする。雪を作るために盛大に珪砂を使ってしまったからな。砂袋の予備はまだあるが、イザって時のために温存するようだ。



「草間、拘束は頼んだ」


「うんっ」


 草間はステルス中に腰にぶら下げておいた革紐を使い、捕えてきたヒーラーの腕と足を縛っていく。【聖術】使いは自己回復が早いから、気を失っているあいだにこうしておく必要があるんだ。

 可哀想だが……、いや、全然そんなことはないけど、敵の治療はコトが全て終わってからになる。


「終わったよ」


 雪のお陰で牽制レベルの戦いが維持できている中、手際よく草間が敵を拘束し終えた。こういうのはムチ使いで器用な疋さんが得意なんだが、素材回収の時に草間も頑張って練習していたんだよな。


『こういうのが上手な方が忍者っぽいでしょ。僕はほら、攻撃とかヘタだし』


 なんてことを言っていたけど、草間だってウチの大切な戦力なんだぞ?


「早速だけど草間、左の陣にも一人動きが鈍いのがいる」


「ああ、あの人だね」


「ちょっかいを掛ける程度で構わないから──」


「了解」


 短い会話を交わして草間が左の敵陣に近寄っていくと、回復役と思わしきヤツが後ずさった。うん、それだけでも十分だ。


 ブリャを含めた前方の三人と後方からきた三人は手強い。それに対してヒーラー二人を含めた左右の十人はそこそこってとこか。

 かなり魔力こそ使ったものの、こっちは無傷であちらは二人を撃墜。人数差も広がったし、吹雪というアドバンテージがあるうちに、このまま有利に押し切りたい。


『あ~あぁ~、らら、あ~あらぁ~』


 ノリノリで【奮戦歌唱】を続けている白石さんの歌声を聞きながら、俺は新手に気を付けつつも戦況を見逃さないように目に力を入れた。



 人工雪の設定については、かなりアバウトです。見逃してやってください。

 次回の投稿は三日後(2026/03/06)を予定しています。中二日ペースになって申し訳ありません。

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― 新着の感想 ―
 ぶっちゃけ今は何でもやって足止めして、派手なパフォーマンスでここで異変が起きてますよアピールして、増援が来るまでの時間稼ぎなんだろうなと。  もちろん単隊で返り討ちにできれば最良の結果だけど。
おーわー!凄い!雪ん子!!(違う 吹雪レベルで吹きつけられると嫌でも体温奪われますしなあ、いい感じに相手の嫌なところ突いておりますねえ。 特殊部隊というか偉そうにしてるブリャ君もうちょっと痛い目に…
魔術融合でここまで出来るのか。一気に魔法の規模が拡大しましたね!ということは、昔の大規模魔術や熱導術もこのあたりが再現の要点になりそう。 回復役を潰せたからって終わるほど特殊部隊が甘いとは思えません…
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