第625話 尻尾との対峙
「こんばんは。良い夜ですね」
細身で長身の三十代後半と思われるその男は、近所の人に挨拶するようなノリで話し掛けてきた。
とはいえその恰好は特徴的だ。長袖の上下は濃灰に染められ、肩から膝まで長方形の長いエプロンのように垂れ下がった布は真っ黒。全体的にゆったりとした造りの服はところどころに白と黄色の装飾が施され、如何にも宗教関係者でございと主張しているかのように見える。
松明に照らされ長い影を伸ばしたソイツは、穏やかにニコニコと人好きしそうな笑顔をしているが、もちろんこっちは最大級の不信感しか湧いてこない。
腰あたりまで伸ばされた青銀色の髪は首のうしろで縛られ、細められた瞼にある瞳は紺色。奇麗に髭を剃られた肌は妙に白く、どこか不気味さを感じてしまう。
これなら白いザビエル頭なペルマの組合長の方がよっぽど聖職者だな。
「そして初めまして。勇者の雛たる皆様」
無言で警戒をするこちらに構いもせずに、男は言葉を続けた。
「私はブリャ・ルミヴ。『勇者の血を持つ者たちが集う地上』司祭にして、『六本の尾』における『五』を監督する者です」
肩書を語る時だけちょっち高揚したように笑顔を深めた男は後ろ手を組んで、姿勢良く直立している。
これまた『一年一組』からは何の反応はないのだが、『勇者教』の司祭はともかく『六本の尾』まで名乗っていいのか?
たしか『ブリャ』って『五』のことだったよな。役職名兼偽名ってわけか。
俺がこんなことを思考できているのは先頭に立つ滝沢先生もまた、相手に劣らず威風堂々と緩く構えを取ってくれているからだ。
「その風貌から察するに、元『緑山』団長にして『一年一組』組長のショウコ・タキザワ名誉男爵、ですね?」
笑みを崩さず語るブリャ・ルミヴとやらに対し、ウチの組長は顎だけで頷く。
「そちらには『時間の猶予』がありません。会話のみで解決ができれば助かるのですが」
「では僕が代表して」
時間稼ぎはこちらの不利になると伝えてきたブリャ・ルミヴの言葉を受けて、藍城委員長が先生の横に進み出た。
時間うんぬんについては本当なのかわかったものではないが、それに合わせて俺もゆっくりと立つ場所を変える。こうしておけば【視野拡大】で全員の動きと表情を見ることができるからだ。
俺を守るように綿原さんも動こうとするが、それを古韮が手で制し、傍に来てくれる。助かるよ。イザとなったら【霧術】に期待しているからな。
「おおっ、あなたは【聖騎士】のマコト・アイシロ殿ですね! お会いできたことを勇者様たちに感謝いたします」
ワザとらしく両腕を大きく広げた男は喜びを露わにしているけれど、『勇者様』って単語がうざったいな。初代勇者を指しているのだろうけど、そこはもう面倒だから神様でいいじゃないか。
「初めまして。聞いていたのと違って平易な言葉ですが、こちらに合わせてくださっているんですか?」
「ええ。ええ。そうですとも。聞きしに勝る聡明さに感服いたしました」
委員長の初手はそんなセリフだった。軽いジャブって感じだな。ブリャ・ルミヴは大喜びだが、こっちはバカにされた気分だよ。
聖法国の言葉は聖アァサ語とやらで、ベスティさんによればヤツらはフィルド語を使う時ですら『聖句』を混ぜてくるという。
要するにこの男は、わざわざ学の無い子供たちに合わせてわかりやすい言葉を使ってくれているというわけだ。
言葉遣いこそ丁寧ではあるが、ブリャ・ルミヴは俺たちに対して敬意を払っているのではなく、初代勇者に感謝を捧げているからこそっていうのが透けて見える。
「僕たちは自分たちの拠点に戻る途中です。そちらのご用件は?」
そして委員長はジャブの次にストレートを放った。まあ、そういう質問の仕方をするしかないか。
「本日お送りした尊き書状の通りです。皆様を我が聖法国アゥサに招き入れたく、この場に参上いたしました」
返ってきた言葉はこちらもまた真っ直ぐだ。わかりやすくて助かるな。
「アホらしいくらい仰々しいな」
「だな。自分で尊いって言っちゃうんだ」
呆れたように呟く古韮に俺も頷く。
さんざん搦め手を使ってきたにも関わらず、アウローニヤでの宣言やら召喚状やら。そして言葉での勧誘ときたもんだ。
宗教的手順じゃないかって説も、あながち不正解とは言えなくなってきた。
「……そんなことを伝えるために、大通りであんな騒ぎを起こしたんですか」
「邪魔の無い状況で応対をするのが一番ですからね」
一段階声が低くなった委員長の問い掛けに、ブリャ・ルミヴはにこやかに答える。
「これでも寛大なる慈悲でもって、魔族と取引をするような者をすら極力傷つけぬように図らっているのですよ?」
ブリャ・ルミヴのセリフを聞いて『一年一組』に剣呑な空気が満ちていく。もちろん俺もだ。
なるほど。相容れないんだな。
あれだけの大騒ぎを起こしておいて怪我人が出ていないはずもない。【聖術】があるからといって、痛い思いをするのは変わらないんだ。
考えたくもないが、死者だって……。
ペルメッダを蔑むような物言いをされたティアさんから暗黒オーラが立ち昇り始めたが、それでも彼女は先生と委員長を立てて後方で控えたままで我慢をしてくれている。
はっきりしたこともある。『ヘルタル組』とイザコザになったのは偶然なんかじゃない。
聖法国が絡むようになってから何度も繰り返された『無自覚な協力者』。『ヘルタル組』は何らかの誘導を受けてあのタイミングで俺たち『一年一組』を遭遇してしまうように仕向けられていたんだ。
冒険者としての力を失った者を慰めるために送別会をしていたというのに。
空元気であっても『ヘルタル組』は気勢を上げて、明日への希望を叫んでいたのに……。
「……先生。答えてあげてもらえますか」
「わかりました」
俺と同じようにいろいろと思うところがあったのだろう。メガネをキラっと光らせた委員長が先生に出番を譲った。
決定的な決裂になるであろうセリフは、やっぱりウチの代表者からってことだ。
ブリャ・ルミヴと遭遇してから一分ちょい。わりと短めに問答を終わらせることができそうだな。
「聖法国へのお招きについてはお断りします。わたしたちは故郷への帰還を目的にしていますので」
真顔の先生は必要最小限の表現で聖法国の要求に拒否を叩きつける。
「帰還? 今、帰還と申しましたか?」
「はい。間違いありません」
その言葉を聞いた瞬間、ブリャ・ルミヴの笑顔が消え、俗にいう能面みたいな無表情に切り替わった。
だがそれに気圧されることもなく、先生は決然とした声で答える。
「そうか。大変残念なことである」
急に口調を切り替えた男は委員長に向けて広げたままだった腕をだらりと垂らし、脱力したように体全体がゆらゆらと小さく揺れ出す。
「昇子姉っ」
それを見て陣形の中頃で待機していた中宮さんが小声で先生の愛称を叫ぶ。
あの状態になったブリャ・ルミヴがそれだけ『ヤバい』ってことか。
「礼節は尽くした。責は貴様らにある」
「あの召喚状が、ですか」
表情に合わせるように平らになった声で断言するブリャ・ルミヴに、委員長が圧されつつも毅然と対応する。
「聖下並びに猊下による連署など、通常であれば拝見することすら叶わぬ。ましてや貴様らに宛てられたものであるのだぞ。それがどれだけの誉か……。ああ、想像もできぬとは」
続けられたセリフと共に、無表情のまま両目から一筋ずつの涙を流すブリャ・ルミヴを見て、仲間たちはドン引きだ。
こういうタイプの敵はマンガで見たこともあるが、リアルだとこうも不気味なのかよ。
「さて──」
「ああぁぁいぃっ!」
何かを言いかけた不気味野郎の声を遮り、先生お得意の叫びが響き渡る。
石畳を踏み抜くズドンという重たい音と共に先生が前方に飛び込み、右腕を斜め下から上に向けて一瞬で振り抜いた。
軌道の読みにくい先生の変則右アッパーだったのだが、ブリャ・ルミヴは一歩退くことでそれをスカす。マズいな。アレに反応してくる敵か。
牽制程度で先生も本気で撃ち込んでいたわけじゃないのはわかるけど、今は『戦女神』なんだぞ。十四階位相当の、しかもこの世界では喧嘩ならまだしも、通常の戦闘で使われない『パンチ』を初見で躱したのは驚きしかない。
「ショウコ・タキザワ。たしか【豪拳士】、だったか。中々であるな」
一瞬の交錯を経てからバックステップして距離を取った先生に向けて、ブリャ・ルミヴは余裕ぶった口を利く。
だけど俺には見えていたぞ。飛び退く瞬間、流していた涙と一緒に汗が水滴になって散っていたのを。
決してアイツは余裕で避けたのではない。
反応速度こそ大したものだったが、パンチの軌道を読んだのではなく、先生の踏み込みに対応しただけだ。
それにしても、相手がこちらに明確な攻撃意思を示す前に先生が先に手を出したのって、初めてじゃないか?
「私は【閃拳士】である。貴様の技が通じるとは思わぬことだ」
何も言わない先生に対し、ブリャ・ルミヴは随分と饒舌だ。
そしてなるほど、【閃拳士】ときたか。【閃騎士】のニューサルといい、本来カッコいいはずの『閃』という文字に悪印象が被っていくな。同じく【閃騎士】のジェブリーさんと【閃剣士】のラハイド侯爵には申し訳ない。
要するに【閃拳士】だからブリャ・ルミヴは素手格闘に長けているというわけだ。
未だ後方で控えてくれている【強拳士】のティアさんが目をギラギラさせているのが視界に入る。
どうせなら階位自慢もしてほしいところだが、十三ってことはないだろう。十五か十六か、そんなところなんだろうな。
「とはいえ、腕比べをするためにこのような辺境まで赴いたわけではないのでな」
やはり薄っすらと頬に汗を貼り付けたブリャ・ルミヴは平坦に言い切る。実は焦っているんじゃないか?
『ソド・ラ・ヴェオ!』
ヤツは『六本の尾』の名を叫ぶ。敵は仲間を呼んだってヤツだ。
◇◇◇
「なるほど、そうきたか」
「足音が小さいわ。そういう敵だと思って」
俺のセリフに中宮さんの注意が被る。
追加の敵。ブリャ・ルミヴのブラフでなければほぼ確実に聖法国の特殊部隊『六本の尾』の『五』なんだろう。
そいつらは左右の家の裏手から現れた。この辺りは高級住宅街なので、前庭が大きくとられている豪邸が多い。こういう潜伏のされ方では、草間の【気配察知】では探知外になる。
当の草間はステルス中なので、余程の緊急事態でもない限り声を出せないんだけどな。
「キモっ!」
チャラ子な疋さんが嫌そうな声を上げるが、同感だ。
ぞろぞろと登場した『尻尾』の面々は総じてペルマ=タにいる普通の人たちと似たような服装をしている。ただし真っ当なのは服だけだ。だからこそヤツらの違和感がハッキリと表に出る。
まずは武器だが、確認できる限りでは一見普通そうな短剣と、背中にチラチラと見え隠れする短弓があって、腰には警棒みたいな三十センチくらいの棒が二本差し。長剣や槍の類を持っている敵はいない。どうやら本当にメインの目的は拉致であって、少なくとも初手で殺しにくるつもりはないようだ。
防具として盾は持たず、手甲と脚甲を装備している。一般人の恰好なのに手足だけそれっていうのがなあ。
何よりの特徴は全員が濃灰色の仮面を付けているということだ。目と鼻の部分にだけ穴が空いた、たぶん木製だと思われるソレはのっぺりとしていて、目立つ装飾はされていない。
『七号』の人たちは覆面で目から下を隠していたけれど、こっちは完全にお面だ。特殊部隊ってこういうのが定番なんだろうか。
全体的な感想としてはペルメッダの特殊部隊『七号』を、かなり怪しげな方向にアレンジしたってところだな。
そんなのが右にある邸宅の庭から五人、左からも五人。ブリャ・ルミヴの両脇に路地から進み出た二人。これで十三人か。
「あれ、さっきの人たちなんじゃないか?」
「だよな」
ついでに背後から登場した三人は古韮が言うように、さっき大通りで先生や中宮さんが警告した服装のままなんだ。ちゃんと手甲とかは付けているけどな。
「正体を隠す気があるんだか、無いんだか」
軽口を叩きながらも俺は状況のマズさに心の中で悪態をつく。
『一年一組』は正面からの戦いはワリと得意にしているが、複数方向から攻められると途端に弱体化する。理由は明白。後衛柔らかグループの存在と盾の少なさだ。
ましてや今回はそれぞれの数こそ多くはないものの、四方向から包囲された形での戦闘開始ときた。嫌な初体験だな。
この状況、結局俺はまんまと『尻尾』の手のひらで踊らされていたわけだ。時間経過が敵の有利に働くっていうブリャ・ルミヴの言葉は嘘じゃなかったってことか。
だけどな。考えようによって、この状況は好都合でもある。
ここでキッチリと聖法国とのイザコザに決着をつけ、安心して冒険者活動に勤しむチャンスとも言えるんだ。
それだからこそ先生はブリャ・ルミヴに先制の一撃をカマしてあわよくば倒し、それができなくても敵の実力と出方を確認する算段だったんだろう。
今のところ見えている敵は合計十六人だ。この数はアウローニヤからの連絡とウィル様による情報とほぼ一致する。それでもこれで総勢とは確定していないと心に留めておこう。大丈夫、俺は冷静だ。
数はこちらが優位だけど、相手は手練れ。しかも囲まれてしまった。
それでもな、こっちは四日の迷宮で階位を上げて技能を取り、そして新技を追及してきたんだよ。
「さっき使った煙幕とか、遠くからの不意討ちとかはしないんですね」
「私は貴様らを勇者の雛と言った。我が聖法国アゥサの誇りに賭けて、まずは正々堂々と対峙するものである」
ここで俺は初めて自身からブリャ・ルミヴに声を掛ける。返ってきたのは今までの暗躍が何だったのかというような、ふざけた返事だった。
戦いが変な方向に傾いたらなりふり構わないって言っているようなものじゃないか。
「貴様も保護対象ではあるな。コウシ・ヤヅ。【観察者】という神授職、興味深いものがある」
こちらを向いたブリャ・ルミヴの言葉を聞いて、俺は身震いをする。
アウローニヤで経験したハシュテル副長との戦い、ヴァフターによる拉致騒動、そして近衛騎士総長戦。そのどれとも違う気持ちが悪い外連味があって、さらには不気味な男。
「『できる限り』多くを迎え入れたいものである。中でも候補として格別である者はとくに、な」
ひとしきり俺をねめつけたブリャ・ルミヴは、ヤツらの基準で『勇者』としての価値を見出している【聖導師】の上杉さん、【熱導師】の笹見さん、【聖騎士】の委員長に無機質な視線を送った。
さらには【雷術師】の藤永、【霧騎士】の古韮、【奮術師】の奉谷さん、そして許しがたいことに【鮫術師】の綿原さんにまで……。
それが全部【観察】で見えてしまう自分が悔しいくらいだ。
こちらの世界で超レアジョブ、もしくは未知の神授職を持っているメンバーは顔と名前を一致させて認識済みってことか。
ちょっとした救いは、ヤツの視線からして姿を消している【忍術士】の草間が見えていないようなのが確定したくらいかな。まあ総人数でウチの忍者が欠けているのは気付いているだろうが。
なんにせよあちらは余裕をぶっこきながらも、獲物を絞り込んでいる。
◇◇◇
「八津クン」
まるでこちらの出方を探るようにじわじわと包囲網を狭めてくる『尻尾』に対しみんなが俺の指示を待つ中、『魔力を温存』するために会話の途中から【冷徹】をカットしていた栗毛の深山さんが声を掛けてくる。
顔色こそ優れないが、それでも彼女らしくもなく決然とした表情に俺は小さく頷き返した。
深山さんが覚悟を決めてくれたんだ。俺はそれに合わせてやるさ。
「ありがとう深山さん。藍城委員長」
俺はぽつりと『トリガーワード』を口にした。
深山さんと敢えて普段は使わない藍城という二人の名前。これで『一年一組』の初手が全員に伝達される。
「あのですね、僕たちもかなりイラついているんですよ。ここ五日、感情が乱れてぐちゃぐちゃなんです」
メガネをギラギラと光らせた委員長が口を三日月みたいに開いて笑う。言ってることと表情が真逆だな。
「その結果が大通りで大騒ぎを起こしてからのコレですか。正直、呆れてものも言えません。言っていることと、やっていることが滅茶苦茶じゃないですか」
台本があったんじゃないかとも思えるくらい、委員長の語りは流暢だ。
「これならアウローニヤの女王陛下の方が余程マシでしたよ。いえ、比較対象にしたらリーサリット陛下に失礼ですね」
あれ、委員長、もしかして本気でキレてるのか? 本当に演技で煽っている?
「商人を装って密入国っしょ? その服を隠して、カッコ悪いよねぇ~」
「あんたらはマクターナさんみたいにおっかないか!? ベスティさんとウィル様みたいに狡猾か!?」
こちらの苦し紛れとでも思っているのか無表情を崩さないブリャ・ルミヴに向けて、委員長だけでなく疋さんや海藤も言葉の追撃を加えていく。
「はっ、大の大人が暴力で子供を拉致ってか」
「無表情がキモいデス!」
多数の煽りの声を繰り出しつつ、『一年一組』の一部メンバーがゆっくりと位置取りを入れ替えた。
俺の傍にいた古韮が中央に向かい、中宮さんとミア、メーラさんはすでに『戦女神』となっている。
「そちらには余裕があるようですけどね。ウチにも八津がいてくれるんですよ」
委員長のご指名だ。無茶ぶりっぽいけど、さて、俺も言ってやるか。
「ブリャ・ルミヴさん」
なるべく落ち着いた声色になるように気を付けながら、俺は敵の首魁をさん付けで呼ぶ。罵詈雑言を受けても無表情で黙ったままの男が瞳だけをこちらに向けた。
『こんばんは。良い夜ですね』
最初に突き付けられたセリフをそのまま日本語でくれてやった途端、ブリャ・ルミヴの口元がピクリと揺れる。
『どうしたんです? せっかく日本語で会話をしようとしているんですから答えてくださいよ。あれ? おかしいな。どうして通じないのかな』
「貴様、なにを言っているのだ?」
「あんたらのいうところの『古アァサ語』だよ。なんで理解できないんだ?」
今の俺はたぶんドヤった顔になっているんだろうな。言ってやったって達成感が気持ちいい。
エセ日本語を有難がる連中め、ざまあみろ。
『国語の授業受けてないのかよ』
『ばーか、ばーか』
『本当に勇者って日本人なのかな』
『聖法国の転生者が嘘ってのは間違いねえんじゃないか?』
ここぞとばかりにクラスメイトたちは日本語で言いたい放題だ。だけど委員長と田村、ここで妙な考察を始めるなよ。
聞いたこともない、そして理解することができない言葉を投げ掛けられた『六本の尾』が動揺しているのが俺には見える。判断に迷っているのか微妙に動きが挙動不審になっているぞ?
ブリャ・ルミヴにしても姿勢こそ崩していないが、お得意の無表情が口の歪みで台無しだ。
これぞ先生の提唱する、口でも何でも使って敵を揺らがせる攻撃ってな。
「そろそろ、わたくしにもわかる言葉を使いなさいませ!」
どうやら我らが悪役令嬢リンパッティア様も、会話が通じないことにお怒りのご様子だ。もちろん彼女はここからの作戦を理解しているんだけどな。
こちらの準備は完了している。会話の時間はここまでだ!
「やるぞ!」
『え~いえぃ~。あ~いえぁ~。い~いえぁい……、いぃえあいえさあぁっ!』
俺の合図と同時に白石さんの【奮戦歌唱】が始まった。
ゆっくりしたテンポで始まる、アニメの所謂処刑用BGM。いいチョイスだよ。さすがは白石さん、良くわかってる。
次回の投稿は三日後(2026/03/03)を予定しています。




