メンタル強者、浅見
屁のかっぱだわ。そう思った。
早瀬さんの告白の後、焦っていたのは確か。合宿を提案した時、浅見はひとつ心に決めたことがある。この合宿で必ず告白すること。
当然イエスなんて貰えるはずがない。
断られるのは覚悟の上。大事なのは好きだという気持ちを伝えることにある。いつ告白しようかタイミングを見ていたけど、偶然にも流れはやってきた。
分かっていてもやっぱり期待はしてしまうもの。覚悟は決めていたけれど断られて多少傷ついてしまったのは否定しない。
彰くんの反応は概ね予想通り。部活を辞めるって言われた時はさすがに焦ったけれど、それもなんとか食い止めたし。
あとは提示された契約を守るだけでいい。あの契約は浅見にとってそれほど悪い内容ではなかった。
どうせ朝練のトリックはバレてしまったし、お弁当は体育祭の時くらいにしか作れない。ボディタッチをするなというのは少し酷だけど、そんなの彼女になってからいくらでもすればいい。
だって彼は言った。
「在学中に恋愛する気はないですから」って。
それって卒業したら解禁されるってことでしょう。つまり時間制限付きなのだ。もう一年目はほとんど終わってしまったから、あと二年待つだけでいい。
そんなのは浅見にとって屁のかっぱ。
毎日学校で会うことに変わりはないし、顔を見れるだけで十分しあわせ。それに彰くんが色々言ってきたのにかこつけて、ひとつ条件を付けることにも成功した。
「彼女を作らないこと」
それさえ守ってくれればいい。
その契約が生きる限り、何度彰くんが告白されても浅見は余裕を持つことができる。
在学中に女子を跳ね返す術は整った。これで夜な夜な彰くんが知らない女子とマイムマイムを踊る悪夢を見なくて済む。
告白だってそう。浅見の思惑は端からこの場でOKを貰うことではない。だから何度もする必要はないし、まったく問題はない。全ては彼が卒業したその時から始まるのだから。
ぶっちゃけ一番の問題は服装に関することだった。
確かに合宿では気合いを入れた格好をしていたけれど、浅見の私服はほぼ似たようなものばかり。胸が大きいため市販の売り物ではサイズが合わず輸入ブランドで購入していたのだが、そのブランドがセクシー路線だったのだ。
翌日は優里ちゃんの服を貸してもらったけれど、呼吸するのもしんどかった。学校に到着した頃には呼吸困難で変な汗が出ていたし。
だけど彰くんに約束を守らせるためには自分も守らないといない。その後の服はオーダーメイドで注文。地味なものを作ったつもりだったけど、彰くんは気づいてくれただろうか。
浅見は努力を惜しまない。契約に準ずること。それこそがこの学園で彰くんを守る唯一の手段なのだから。
触れ合えなくなった分、確かに寂しさは込み上げた。そこで大活躍したのが体育祭の時に撮った写真である。何百枚と撮った写真はすべて現像していたし。
ポスターに仕立てた彰くんを壁や天井に貼って、毎日おはようとおやすみを繰り返した。すると「おはよう玲香」「おやすみ玲香」と声が聞こえてくる。
完全なる妄想でしかなかったが、一度始まった妄想は止められない。
好きと言えば「俺も好きだよ」と返し。愛してるわと呟けば「俺の方が愛してる」と返ってくる。なんて素晴らしいポスターなんでしょう。愛を語る自動音声付きだ。
通勤前「行ってきます」とキスを落とせば「行くなよ」と俺様モードの彰くんが飛び出すこともしばし。ポスターの前でひとり身をくねらせ、キャーキャーと奇声を発して何度遅刻したか分からない。
運良く彰くんは二年生の時期だったので浅見の遅刻に気づかれることはなかったけれど。
ネット注文した抱き枕はいまや手放せないアイテムのひとつだ。ちなみに二つ注文した。寝る時両脇に置くために。右を見ても彰くん。左を見ても彰くん。興奮のあまりしばらく眠りにつくのが大変だった。
興奮のあまり鼻血が出たこともある。鼻にテッシュを詰めては抱き枕を眺め、テッシュを替えては眺め。飽きるほど眺めてようやく抱きつき眠る日々。
彰が悶々とした日々を送っている間、浅見は自己流の幸せを見出し、元気いっぱいに過ごしていたのである。




