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陽キャ大好き告白イベ

 俯いていた顔を上げて力の籠もった声を発する早瀬の目は至って真剣そのものといった感じだ。その熱意はきちんと伝わるが、俺は瓶底メガネの奥で冷ややかな目を向ける。


 このパターン……いや、まだ決定付けるには早い。カマをかけてみるか。


「話ならいまここで聞くけど」


 催促すると早瀬は顔を真っ赤にして首を横に振った。


「ここでは言えないので。屋上に来てください!」


 決定だな。そう確信した途端、俺の表情も心も北極の氷山より冷たくなった。答えるべき言葉はひとつしかない。


「悪いけど……」

「オッケー! 必ず行くから待っててな!」

「……はあ!?」


 ガシッと肩を組んできた菊地がデカイ声で答える。いいかけた言葉の破片は一瞬で霧散してしまい、目を丸くした俺は菊地に噛みついた。


「おまえ! なに勝手なこといっ……」

「ありがとう! じゃあ、また後でね!」

「は!? ちょっと待て。おいっ!」


 その間に嬉しそうな顔をした早瀬はスキップを踏んで逃走。伸ばした手は虚しく宙を切る。肩に腕を回した菊地は、早瀬の背中を呆然と見送る俺にボソッと耳打ちをした。


「おめでとう、如月。これでおまえも男になれるな」

「……俺は元から男だ」

「ギャハハ! 彼女ができるってことだよ! おまえ見た目はそんなんだけど運動神経も性格もいいし、見る目のある女子は惚れると思うぜ〜。良かったじゃん!」


 デカイ声で笑ってバシバシと肩を叩く菊地に俺は心で異を唱える。


 良くない。なにも良くないぞ! 見る目のある女子ってなんだ。どっちにしろ女子じゃねーか。女は嫌だ女は嫌だ。恐怖しかねえ。俺はもはや、告白で浮かれるほどピュアな人間じゃないんだよ。


 いや、待て。さっきはつい確信してしまったが、告白とは限らないじゃないか。いままではこの見た目で言い寄られてきたが、いまは隠してる。確かに色々ボロが出たのは認めるが、全てじゃない。ちゃんと陰キャ的なモブとして生きているはず。


 陰キャ的なモブが屋上に呼び出されるパターンとしては、あれだ。


「〇〇くんに、この手紙渡して欲しいの」的な。使いっ走り的なヤツ。そうだ! きっとそれだな! 最近菊地と仲がいいから、多分狙いはこいつだ。


 俺は菊地に向かっていまにみてろと悪魔な笑みをこっそり向ける。いまにみてろというのは少し違うか。菊地なら大喜びしそうだし。おまえにちゃんと春を渡してやるよ、任せとけ。


 ふっふっふとほくそ笑む俺とは裏腹に、菊地のバカでかい声に振り返った女子が騒ぎ始めた。


「え? なに? 如月に彼女できたの!?」

「チッチッチッ、これからできるんだよ」

「えー嘘ぉ! 良かったじゃん、如月ー!」


 いつも思うんだけど、彼女ができるってなると「良かった」と言われるのは何故なんだ?


 俺にとっては地獄の扉が開いたのと同義なんだが。一度クラスメイトを集めて「なぜ女子は怖いのか講座」を開く必要があるな。24時間ぶっ通しで話せる自信がある。


 周囲の盛り上がりとは裏腹に菊地に生暖かい目を向ける俺。だけどこの「告白」的な噂ってのは陽キャの大好物なのだ。それを知ってるからこそ、あの場でキチンと断っておきたかったのだが。菊地のせいでその機会を逃してしまった。


 その結果。


「如月が今日告白されるんだって〜」

「マジ? 相手誰?」

「E組の子らしいよ」

「E組? 可愛い子いたっけ?」


 俺に彼女ができると言いふらし始めた菊地を筆頭に噂を聞きつけたクラスの女子。そこからあっという間に噂は学年全土に伝わった。


 授業中もヒソヒソと話し声が聞こえる。本当に告白イベント大好きだよな、おまえら。特に女子。だから嫌いなんだが。


 菊地はまだ告白されるかどうかも分からんのに、如月に春が来た!! と自分のことのように喜んでいる。それが単なる冷やかしではなく本気で喜んでいると分かるから、俺も強くいわない。こいつ、基本的に良い奴なんだよな。


 冷やかしで噂するのは女子が大概だ。だけど時には変わった女子もいるようで。


「如月ぃ〜! わたし嬉しいよぉ。あんた、そんな見た目だからさぁ。めっちゃ良い奴なのに一生彼女できないんじゃないかって、心配してたんだよ〜」


 まるで飲んだくれオヤジのようにクダを巻くクラスメイトに乾いた笑みを漏らす。心配してくれてたのか。そりゃどーも。陰キャになると嫉妬ではなく、心配される側になるらしい。初めて知った。


 そしてその「飲んだくれオヤジ的女子」は、俺の知らないところに結構いたようで。


「心配だよね。あいつ、告白されても意味通じないんじゃない?」

「ありそう。経験なさそうだし、鈍いかも」

「むしろテンション上がりすぎて、上手く返事できないかもよ」

「「ありそ〜!」」


 遠巻きにチラチラ視線を送ってくる女子がそんな話をしていたとは、知る由もなかった。



いつもご覧頂きありがとうございます。


彰の手を離れ、盛り上がる周囲。

さて、早瀬の目的とは。告白かモブ的扱いか。

運命はどちらに傾く?


続きが気になる方はブクマをして追いかけてね☆



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― 新着の感想 ―
[良い点] こんな話があったら盛り上がるのも無理はないっすわwww 高校生だもの。
[一言] 今回も面白かったです✨
[良い点] おもしろかったです 毎日の楽しみです
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