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夢から奈落に転落した浅見

『E組の早瀬ミナミちゃんだって』

『誰それ。可愛いの?』

『みてきたけど、普通に可愛かったよ』

『性格とかどーなんだろー』

『さあ』


 ピクピクッと器用に耳が反応する。


 三限目の授業の時、なにやらクラスがザワザワしていると思った。あっちでもこっちでもヒソヒソと誰かが耳打ちをしてるし、みんなの視線がチラチラと彰くんに向けられている。


 なにかあったの? そう直感するには十分だった。


 それでわざと教室内を動き回り、耳をそばたてた。そうしたら、なんと驚くべき情報が耳に飛び込んできた。


『如月が今日、告白されるらしいよ〜』


 その時のショックといったら。奈落の底に突き落とされた感覚だった。底の見えない暗闇に堕ちていきながら、遠く見上げる青空には笑顔で手を取り合う彰くんと顔にモザイクのかかった女子生徒。


 彰くううううううんっ!!


 手を伸ばしても届かない。どんどん彼との距離は離れていく。妄想にトリップした浅見は目に涙を浮かべて縋りつくように片手を天に伸ばし、教科書を落としてしまった。


 生徒たちが物音に振り返る。ハッとした浅見は慌てて表情を取り繕い、震える手で教科書を拾った。


 告白!? 彰くんが!? なぜ!?


 その三つのワードがグルグルと頭を巡る。


 確かに体育祭での彼の活躍ぶりは素晴らしいものだった。瓶底メガネをかけていても、その体から溢れるイイ男の資質。それに気づいた女子が他にもいたというの!?


 浅見は愕然とする。


 せっかくあのダンスパーティーで距離が縮まったと思ったのに、朝練のトリックはバレるし今度は告白ですって?


 いったいどうすればいいの。


 彼の優しさが他の女子に向けられるなんて、想像するだけで胸が張り裂けそう。根が優しい彼は嫌いな女子に対しても所々でその優しさを見せつける。


 体育祭の準備の時もそう。あのダンスパーティーの時だって。


 せっかくのダンスを遮って突然上着をかけられた時は驚いたけど、それが気遣いだと分かるまでそう時間は要さなかった。さっと閉じられた上着の下で、ブラトップがズレているのが見えたから。


 周囲の男子生徒から邪な視線を向けられていたことに気づいた時は羞恥で顔から火が出そうだった。そのことを彰くんに気付かれたことが一番恥ずかしくて。


 この豊満な体はただでさえ視線を集めやすいし、そんな目で見られてきたことは数知れない。


 それが彰くんの気持ちを引ける武器になるのなら良かったけれど。彰くんは見た目で判断するタイプじゃない。


 だからこそ努力した。彰くんと楽しい時間を過ごしたくて。


 それなのに……こんはずじゃなかったと何度悔やんでも悔やみきれない。


 彰くんと顔を合わせるのも恥ずかしくて逃げるように壁際に佇んだ。クラスメイトと楽しそうに踊る彼を遠目で見ることしかできない自分が情けなくて、そして一緒に踊るみんなが羨ましかった。


 でもそんな浅見に彼は手を差し伸ばしてくれた。あの言葉にどれだけ救われたか。


 ラストダンスは気後れしながらも声をかけた。ダンスは結局失敗に終わったし、もうだめかもしれないと思っていたけど。どうしても諦められなくて。彰くんのことだから、スッパリ断ってくるじゃないかと覚悟もしてた。


 だけど……


 浅見はうっとりとあの出来事を思い浮かべる。


 あの時間は夢のようだった。自分を見つめる瓶底メガネの王子様。メガネがなければ更に素敵だけど、あの日の彼の行動が完璧すぎてメガネさえも愛おしい。


 夢心地から冷めない浅見は帰宅後も彰くんから借りた制服を相手にダンスを踊り、または羽織って抱きしめられている妄想にトリップし、制服についた彼の匂いをなんとか保存できないかネットで検索したりもした。


 制服に対して「彰くん」と名前を付けて、夕飯や風呂上がりに制服に向けて会話をする浅見は端からみたら痛い女でしかなかったが。思う存分疑似「彰くん」と同棲ごっこを楽しんでから、「彰くん」を抱きしめて眠りについた。


 翌朝起きたら老後の彰くんみたいにしわしわになっていたので、慌ててクリーニングに出したけど。


 彼を知れば知るほど完璧すぎて、ちょっと気を緩めると狂気的な含み笑いが口から漏れてしまう。


 今朝の職員会議でも何度か先生方から突っ込まれてしまい、いけないいけないと自重するのだが、気づくと不気味な笑い声が漏れている。


 それほどあの日は幸せだった。それなのに。


『放課後、屋上に呼び出されたって〜』

『ベタだね〜』

『でも他に告白できる場所なんてないよね』

『トイレとか?』

『男子トイレで待ち伏せしたら、単なる痴女じゃん』

『あははっ』


 そんな女子の会話を浅見は白目を剥いて耳にする。


 彰くんが女嫌いなのは知っているし、イエスとは言わないはず。わかっているけど落ち着かない。もしかしたら彰くんのタイプかもしれないし。万が一ってこともあり得る。いったいどうすれば……


 魂が抜け落ちた浅見は終礼の鐘がなり、クラスメイトが不審な目を向けてそろそろと動き始めても、ただ茫然と白目を剥いて教室の真ん中に立ち尽くしていた。

 


いつもご覧頂きありがとうございます。

励みになる感想をくれる読者様、本当にありがとうございます。モチベアップです!


メンタルの落ち着かない浅見先生。

夜中の行動も不審すぎるw

想像して笑えた方はぜひブクマをしてね。


次回はついに運命の時。

今夜22時に更新します。


続きを楽しみにしてるよ〜!って方はぜひ評価をお願いします★★★★★

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― 新着の感想 ―
[良い点] 浅見先生ピンチ!!www いや、でも多分大丈夫! 多分、おそらく‥‥‥
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