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菊地の汚名返上

「やるぞ、如月! 俺たちの輝かしい栄光を掴むためにっ!」

「いや、俺。栄光とかいらねーし」


 菊地は午前中もめちゃくちゃ動き回っていたはずだけど元気だな。足の紐はスタート前に結べばいいのに顔を見た瞬間に結ばれてしまった。


 開始までまだ時間があるのに、なんで俺菊地と肩組みながらグラウンド歩いてんの? どんだけ仲良しだよ。


「いつも二人三脚ってギャラリー少ないんだけどよ。今回は事前に宣伝しまくったから、結構来ると思うぜ」


 いらんことを。なにしてくれてんの、おまえ。菊地がどんなふうに宣伝したのかは知らんが、時間が迫るにつれて確かにギャラリーは増え出した。


 しかも女子が多いような。こいつ、絶対女子メインに宣伝したな。ウンザリする俺の目にクラスメイトの姿が映る。


 いま同時に行われているのはバスケの決勝だ。うちはバスケは敗退したから全員こっちに来てるな。


「菊地ー! 如月ー! 頑張れよー!」

「絶対一位ーっ!」

「おうっ! 任せとけ!」


 意気揚々と声援に応える菊地と肩を組む俺は、そのクラスメイトの後ろに浅見先生を見つける。


 なんかデッカイカメラ構えてるんだけど。あれって一眼レフ? すんごいの持ってるな先生。写真撮るの趣味なのか? 意外だ。


 じっとみていたら突然浅見先生が消えた。多分その場にしゃがみ込んだんだと思うけど。なんで隠れんだ?


「行くぞっ、如月!」

「はいはい」


 集合の合図がかかったので俺たちはゲートに向かう。五組ずつグラウンドを一周して、一位同士で決勝戦だ。決勝に残るのは八組。


 初巡、俺たちは第三チームに分けられた。結果は余裕の一位。クラスメイトも大喜びだった。


「菊地くーん! 頑張ってぇ!」

「如月ーっ! 頑張れーっ!」


 菊地の声援は他のクラスの女子が多かったが、俺の声援はクラスメイトが殆どだ。そして決勝のホイッスルが鳴り、俺たちはほぼスピードを落とすことなく猛ダッシュ。


 二人三脚の本気走りがどれほどの威力を発揮するか見せつけることになった。


 他との差が圧倒的過ぎて、ラインマンをしてる生徒や先生方はポカンとして猛スピードで駆ける俺たちを眺める。


 いつの間にかグラウンドの内側に移動していた浅見先生は、プロのカメランマンばりの低姿勢で一眼レフを構え、余す所なくシャッターを切り続ける。


 点数配分も低い二人三脚にこれほど本気走りをする奴は他にいないだろう。他のクラスは走りの苦手な奴が選ばれたようだ。


 本当なら俺もあいつら鈍足チームに紛れ、陰キャを貫く予定だったんだけど。


 やる気満々の菊地に誘導されるこの足は、俺の意思と関係なく歩幅とスピードを合わせてしまい、鈍足チームはどんどん背後に遠ざかっていく。


 少し振り返って、遠のいていく他チームを哀愁の眼差しで見つめる俺の目には薄らと涙が浮かぶ。


 ああ。さようなら、俺の陰キャ的体育祭。


 だいたい実力差があり過ぎるんだよ。あっちは運動音痴。こっちは運動神経の鬼だぞ。


 生まれたての子鹿にチーターぶつけてるようなもんだろ。


 後続に大差をつけて余裕の出来た菊地は、途中から凱旋した英雄のように先生や観客に向かって手を振り始めた。なんなら紙吹雪でも欲しいところだ。


 そうして大勢の歓声に包まれ、見事汚名返上を果たした菊地の顔には満足気な笑顔が浮かぶ。


 俺の思惑通りには進まなかったけど、そんな菊地の顔を見るのは嫌な気がしない。クラスメイトだし、協力して勝ち取る勝利ってやっぱり嬉しいもんだよな。


 だから自然と俺の顔も綻ぶ。


 ただひとつ誤算があったとするなら、今回の体育祭を機に我が校の二人三脚は本気走りが基本となったということ。


 鈍足チームが参戦することに変わりはないが、リレー選抜に選ばれた足の速い奴が二名。必ず参加するようになった。


 それによって二人三脚は今まで以上の注目を集めることになり、地味な二人三脚を行うこという俺の夢は在学中叶うことはなくなったのである。


「あとはリレーだけだね!」

「うちには菊地も如月もいるから余裕だよ」

「わりと足速いヤツ集まってるもんね」


 クラスメイトは始まる前から勝利を確信しているようだ。タイム順にメンバー揃えてはあるが、それは他のクラスも同じだろう。リレーの配点が一番大きいことはみんなが知ってるからな。

 

 リレーに選ばれた男子はみんなやる気満々で準備運動に余念がない。先生方もみな外に出てきて観戦しているし。で、浅見先生はというと。


「何してるんです?」

「みんなの写真を撮ってるの」

「みんなの? さっきからずっと俺の横にいるんですが」

「ここからのアングルが一番いいのよ。みんなの顔も入るし」


 ほんとか? 俺は瓶底メガネの奥でジト目になる。まるで俺の専属カメラマンみたいに真横からシャッター音が鳴り続けているんだが。


「先生俺も俺も!」

「わたしも撮ってー!」

「はーい」


 カシャッ


 そしてまた俺に向き直り、シャッター音の連続。


 一枚だけかよ! そう突っ込みたいが黙っていることにした。



どこまでも上手くいかない隠キャ生活。

ひとつ成功を手にするたび首が絞まる彰。

頑張れwwwと笑ってくれる方はブクマと評価をお願いします!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 頑張れwww でも、もう陽キャ生活でええやんw
[一言] 彰君ドンマイwww 今回も面白かったです✨
[気になる点] クラスメイトは始まる前から勝利を確信しているようだ。タイム順にメンバー揃えてはあるが、それは他のクラスも同じだろう。リレの配点が一番大きいことはみんなが知ってるからな。 誤字(間違え…
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