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記憶の中の私


マクシミリアンに部屋まで送ってもらい、部屋の前でお礼を告げると一礼をする。

礼を習ったのです。と笑うとマクシミリアンもよく出来たねと笑い、頭を撫でた。

「また、時間のある時に。」

「はい、お兄様お元気で。」

あぁ。と片手を上げ笑うマクシミリアンが去っていくのを少しの間見つめ、ユリアナは部屋へと入る。

深く息を吸い込み、深く吐く。


(夢.......。そう、夢が本当に起きるのかを確かめなくては。思い出さなくては。小さなことも、いえ、小さなことだからこそ。)

疫病が本当に起きるのかを試す訳にはいかない。

ユリアナは机へと向かい、席に座る。

「キティ、紅茶を。出したら少し下がっていて。1時間ほど宿題に集中したいの。」

ユリアナがどこへでもなく声をかける。

「かしこまりました。」

少し経つと机には紅茶が用意され、メイドであるキティが部屋を後にする。

「1時間ほど経ちましたら、再度参ります。」

「えぇ。」

小さな音を立て扉がしまる。

そして廊下に響く靴の音がだんだんと遠く、小さくなっていくのをユリアナは耳をすましてしばしの間ただきいていた。


「さて。では早速。」

まず書き出すべきは大きな事柄。

思い出せる重要な出来事とその起こる時期について。

『今』と記入した後に続けて年齢を『7歳』と記入する。

そしてメモの下の方に『21歳』と。


1時間、思い出せる限り書き出したユリアナはそのメモを見つめる。


今 7歳

8歳 兄様とエミーリア様が婚約する

エミーリア様の弟のウィルと出会う

9歳 妖精バートと出会う

10歳 バートと遊ぶ

11歳 バートが旅に行ってしまう

私風邪をひく

12歳 淑女としての礼儀作法を身につけるため、女学院の中等部へ入学。

13歳 お兄様がエテルノ帝国へ留学。

お父様が5年後の退位を内々に表明される。

14歳 隣国の王子と婚約する。

お兄様が帰国。

15歳 婚約が破棄される。

たしかその地方ではドラゴンが暴れていて聖女を召喚したとかなんとか。

16歳 両親と兄が事故で亡くなる。

女王になり悪政を強いるようになる。

税を引き上げる。

19歳 疫病が流行る。

21歳 処刑される。


「こうして見るといろいろありますのね。お兄様達の婚約者が確か3ヶ月でしたわね。」

(たしか、私の誕生日の2ヶ月後でしたもの。婚約式の日はあの木に花が咲いて綺麗でしたわね。)

ユリアナは窓の外に立つ、今はまだ青々とした木を眺める。

「時期は、私の誕生日の2ヶ月後。お兄様の婚約がなされ、お相手はエミーリア様であること。そして弟君にウィルというお名前の方がいらっしゃること。それから.......。私の知るはずのないことが5つも重なれば十分でしょうか。」

メモを真剣に見つめているユリアナの耳にノック音が届く。

「失礼いたします。キティでございます。ユリアナ様、よろしいですか?」

「ごめんなさい、新しい紅茶をお願い。」

「かしこまりました。」

キティが去る音を聞きながら、ユリアナはテーブルの上にあるロウソクを入れるガラスのお皿を手元へとよせる。

(これも、ある意味では証拠になるのかしら?)

残っていた小さなロウソクに手をかざし、火がつく様子をイメージする。

手元に暖かい風が届いた気配に目を開けるとロウソクには火がともっていた。

メモをクルクルと丸め、端を火に近づける。

少しずつ燃えていくようすを眺め、残りが少しになったところで手を離す。

「失礼いたします。紅茶をお持ちしました。」

ドアのノック音とともに扉が開く、ユリアナは燃え尽きた紙を見つめ、ふっと息を吐いた。

火の消えたロウソクを机のすみに戻すと、キティの方へ向く。

「バルコニーで飲んでも?」

「えぇ、もちろんでございます。」

にこやかに頷いてくれる彼女も、最期にはいなかった。

辞めさせられたのか、それとも辞めたのかは知らないが。

今後いつ、いなくなってしまうのだろうか。

ユリアナは足元に大きな闇が迫ってくるような恐怖に襲われ、身をすくめた。

「大丈夫ですか?今羽織るものをお持ちしますね。」

それでも.......。

今の彼女の優しさはどうか本当に心からのものであると信じたい。

たとえそれがユリアナではなく、王族に向けられた忠誠心だとしても。

「どうぞ。こちらをお使いくださいませ。」

「.......ありがとう」

小さな感謝の言葉。

それでも王族が使用人に言うべきではないとされている言葉をユリアナはあえて口にした。

届かなければそれでもいいと口にした小さな感謝はキティの耳へしっかりと届き、彼女はユリアナに微笑んだ。

「いいえ。もったいないお言葉です。けれど.......ありがとうございます。」

白い頬を少し染め、柔らかく笑うキティをみて、ユリアナも微笑む。

こんな風に穏やかに過ごしていけたら、これ以上の幸せなんかない。

綺麗に染まる夕陽を見つめて、ユリアナはなににともなく、わけもわからず祈った。

(どうか、どうか、)

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