ユリアナ 7歳
「なぜ、こんなことになったのかしら。」
ユリアナは呟いた。
「なぜって、ユリアナが転んだからかな?」
マクシミリアンが困り顔で笑うのをユリアナは見るともなくみた。
ことの発端は今朝のことだ。
久しぶりに午前の授業に空きがあるからと久しぶりに妹であるユリアナの部屋を訪れたマクシミリアンに、ならばと庭園への散歩を提案したのはユリアナだった。
そしてその結果、庭園をマクシミリアンと話しながら散歩している最中、ドレスに隠された足元に偶然あった石につまづいて転び、おでこを打ち付けたのだ。
幸いにも、青々と茂る芝のおかげで大した怪我もなく、意識もすぐに取り戻すに至った訳だが。
(わたしくは.......21歳のはずでは?)
あまりにも今までの現実と酷似したユリアナという人物の、21歳で悪逆女王として処刑されるまでの日常という長すぎる夢をみた7歳のユリアナは混乱していた。
(あれはこれからの私なのかしら。それとも1度起きたことなのかしら。)
長すぎる夢で読み漁った書物の中にもこういった現象についてかかれているものがいくつかあった。
転生というよりはタイムリープだろうか。
もしくは予知.......にしては日常の描写が細すぎる気がするが。
予言者に話を聞かないことには、どのように見えるのかはわからない。
(.......いえ、この際どちらでもそう代わらないわね。)
たとえそれが実際に起きた未来だったのだとしても、それが起こりうる未来なのだとしても。
そう万が一、ただの夢だとしても。
その1日1日を確かにユリアナは生き、体験したのだから。
(7歳の女の子には重すぎる夢だったわ。)
ユリアナは細くため息つくと、マクシミリアンを見据え口を開く。
「ごめんね、兄様。もう大丈夫よ。」
やっぱり外を歩くより、部屋で本を読んで欲しいわ。お願い。といつものユリアナらしく笑顔で告げる。
「なら絵本を取りに行こうか。」
マクシミリアンに伸ばされた手を取り、ありがとうと告げながらユリアナは周りを見渡す。
庭園にはお母様が好きなピンクのお花が咲き誇り、ユリアナとマクシミリアンから少し距離あけてついてくる近衛兵がいる。
なにもかもが、昨日と変わりない。
そのことに安堵しながら、引かれるままにマクシミリアンの後ろをついていった。
「なににするんだい?」
穏やかな笑顔を浮かべたマクシミリアンは問いながら後ろへと振り返る。
「あちらの本が見たいわ。」
お兄様の勉強していることを少しだけユリアナにも教えてくださいな。そう言って、可愛らしくみえるようにユリアナは笑顔で歴史書や地学、語学などの本がある棚を手で示した。
「うーん、あっちは面白いとは言えないかも知れないけれどいいのかい?」
「ええ!お兄様のいつもを教えてくださいな。あんまり会えないのだもの。」
一冊の本を手にマクシミリアンとユリアナは庭園の見えるバルコニーへとやってくると机を前に並んで座り、本を開いた。
「僕達のセラータ国はここだよ。」
歴史書を開くと、1ページ目には大きな地図が乗っていた。
(私が記憶しているよりも、前の地図だわ。)
じっと地図を見つめ、頷きながらユリアナは思った。
「こちらの国は?遠いのかしら?」
「あぁ、エテルノ帝国だね。そうだなぁ、馬車で5日くらいかな。1年を通して、比較的暖かい土地だと先生から聞いたことがあるよ。」
ぱらり、ぱらりとめくりながら、マクシミリアンの話を聞いていく。
そうして何枚かめくったとき、開いたページある1枚の絵が目に付いた。
「この絵は.......。」
「あぁ、これかい?何に見える?」
数十年前にこのセラータの地で起きた疫病と当時の様子を描いたと言われているその絵をユリアナは静かに見つめる。
(私ははじめて見るけれど、見たことがあるわ。)
ページの左端に描かれた悪魔と倒れた人々。
健康に描かれた人も幾人かいるが、悪魔に近づくほどに苦しみ、もがき、倒れ、そして死んでいく。
(きっと、私が悪政を強いた時もこうだったのでしょうね.......。)
「大丈夫かい?」
マクシミリアンの心配そうな声音に、苦い思いに胸が支配され、重すぎる枷によどんだ闇に沈みそうになっていたユリアナの気持ちが浮上する。
「怖い絵ですね。これは.......病気?」
マクシミリアンの顔を見つめ問う。
「そう、疫病と言ってね。数十年おきに流行する大きな病気なんだよ。人から人へあっという間に広がるから多くの犠牲がやすくて、だからこうして気をつけてくださいって絵を書いて後世に残してるんだ。」
「何十年かおきに.......なぜなのかしら?」
(流行を予測するのは難しいとされていたわね。流行する要因がいくつもあるからだとか。寄生虫、隣国との交流によって風土病が持ち込まれることや魔物を介しているものまで。原因がありすぎて特定しづらく、予測もままならず、1度流行れば終息するまで長い時間を要する。)
「いくつもの原因があると授業で習ったよ、セラータ国にも多くの研究者がその知識や魔力をもって調べているけれど原因がいくつもあるからね、分からないんだよ。」
辛そうなマクシミリアンの表情と声に、ユリアナは確信をもってその手をそっと握る。
(私が見たのは.......知るはずのないこの知識は紛れもなく正しい事実なのだわ。)
「.......きっと、いつか。」
気休めと分かっているだろうにマクシミリアンは微笑むとユリアナの頭を撫でる。
.......もしも、ただの夢ならば。と
もしそうならば、無闇に信じてしまえば夢の二の舞になる。
盲目的に信じることの怖さを、私は知ったから。
試すような形にはなってしまったけれど、歴史書に書いてある説明のいくつかを読んで、そしてマクシミリアンと話をしたことで確信にかわった。
現実だったのか、予知なのかは定かではないけれど。
少なくとも、知識はホンモノ。
(あとは、本当に起きるのかを確かめなくては。)




