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機械仕掛けのカプリッツィオ!  作者: 胡桃リリス
第三章 覚醒、シャンティーノ
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3-18 騎士団長と傭兵団長

 中尉の魔法で気絶した傭兵団員や魔物たちを拘束した後、そちらの処理は騎士団の方に任せ、俺たちはワズラナをゴーレムの手に乗せて、砦まで連れて帰った。

 砦の前で待っていたプロメテア団長の前でワズラナを降ろし、ゴーレムを消して、俺と中尉は団長のすぐ傍へ駆け寄った。


「シャデュ殿、イワイ殿、ご苦労であった。いやしかし、あのワズラナと一味をたった一騎で倒してしまうとは……」

「プロメテア、その話は後で。それよりも、貴女に提案がある」

「む? 提案?」

「そう……でも」


 中尉がチラと寝転がされたワズラナを見下ろした。


「本人が起きたから、できなくなった」

「…………くはっ! バレたか」


 一笑し、ワズラナは器用に体を捻って起こし、豪快に胡坐をかいた。

 表情も態度も、捕まっているとは思えないほど余裕に満ちている。


「プロメテア・ショクテール……となると、ここはイーナ女性騎士団の砦、か。こりゃ、年貢の納め時かねぇ」

「あぁ、お前とその一味を討伐したいと思っている者は、大陸にところせましといる。もちろん、私もその一人だ」


 団長が殺気を乗せてワズラナを睨む。

 ワズラナは不敵な笑みを浮かべて睨み返した。


「いいねぇ。じゃ、私の首をその剣で跳ね飛ばしてくれるのかい?」

「刑罰用の剣を使うに決まっている。戦場でもないのに、お前如きの処刑に私や部下たちの剣は豪華すぎる」

「だったら早くしてくれよ。謎の巨人に全滅させられ、生き恥晒して大通りを練り歩くなんざ、オレ様はごめんよ」


 本当に肝が据わっているというか、潔いというか、漢前というか。

 脳みそが筋肉でできているような馬鹿でないことは、先ほどの戦いで思い知らされた。大胆不敵な態度に、何か秘策でも持っているのかと勘繰りたくなるほどだ。


「枷を嵌めたお前たちを引き回してやりたいのは山々だが……その前に、お前に尋ねたいことがある」

「何だい?」

「お前たちは、悪行の限りを尽くしてはいるが、最強の戦闘手段だと認めている」

「へぇ……? あのショクテール団長様からお褒めの言葉を頂けるとは、恐悦至極」


 ワズラナは、本当に一瞬だけだが、目を丸くした。すぐに元の笑顔に戻ってしまったが、多分、素直に驚いたんだろう。


「ワズラナ。お前たちを雇いたい」


 周りの騎士たちが驚きの余り団長へ振り返るが、彼女は無視して話を続けた。


「金額は、お前が此度の依頼主から受け取った前金の二倍をまず払おう。報奨は月に一度、正騎士の給料で八割分に相当する額を払う。それと……お前の部下や魔獣たちの身の安全も保障しよう。また、お前がこれまでしてきた違法行為も、我が国に関するものだけは全て取り消す。もちろん、私に雇われる気があるなら、だが」

「そいつはぁ、正気で言っているのかい?」


 ワズラナが、先ほどよりも大きな動揺を見せた。開いた口が塞がらないとは、こういう事を言うのだろう。

 周りの騎士たちも、ついに声を出す者が大勢出たくらいだ。

 俺もびっくりしている。多分でもなく、ぶっ壊れクラスの条件を、砦を襲おうとしてきた敵に送っているのだ。

 言った本人と、中尉だけがこのざわめきの中で平静そのものだった。


「私は大真面目に言っている。私、プロメテア・ショクテールは、お前たちワズラナ傭兵団を雇いたい」

「……おい。おいおい。おいおいおいおいおいおいおい」


 ワズラナはついに笑いだし、後ろ向けに倒れ込んだが、まだ笑い続けていた。地面の上を右へ左へ転がり、ひたすら爆笑していたが、やがて落ち着いたのか、ゆっくりと起き上がって座り直した。

 そして、深呼吸をすると、顔を上げ、殺気を滾らせて団長を睨んだ。


「傭兵舐めてんじゃねーぞ! こちとらしっかりと依頼主から前金をもらっているし、報酬だって約束されているんだ。敵からそれよりもいい条件を提示されたから、ハイ、鞍替えします、って裏切ってみろ。今後戦場で他の傭兵連中から指をさされて笑われるし、仕事も入らなくなる。あっという間に完全なお尋ね者になって、いつか捕まって、惨めな見世物になってあの世行きだ! そんなの御免だね!」


 啖呵を切ったワズラナの気迫は凄まじいものだった。

 中尉へ、「本当ですか?」と目で問いかけたら、小さく頷き返してくれた。


「オレ様たちは悪党のレッテルを張られているし、あぁ、確かにその通りの生き方をしてきた自覚はある。けどよ、雇い主を裏切って生き残りました~、なんて不名誉を背負ったらよ、傭兵は終わりなんだよ」


 め……滅茶苦茶自分勝手な奴だ……。

 だが同時に、本気でそう思っている彼女の信念に、納得もしていた。

 やってきたことは決して許されることではない(らしい)が、かなり熱いハートを持った人らしい。


 ちなみに、中尉は零点下の眼差しをもっと下げた。あれは絶対零度の目だ。

 自分勝手な事を言っていい加減にしろコイツってくらいは思っているに違いない。ワズラナをワイバーンごと消し飛ばそうとしていたくらいだ。ワズラナを含めたこの場にいる全員の心を読んで、終始心の中で激怒しているのだ。彼女を倒すべき悪党として、決して許すことはないだろう。


 そして団長は、落ち着いた様子でワズラナの言い分を聞いていた。


「つまり、例え拷問を受けようと、雇い主は裏切れないと」

「あぁ。でも拷問はされるのは好きじゃないんでね。舌を噛み切らせてもらうけど」

「なるほど。わかった」


 団長は剣の柄に手をかけた。

 砦の戦力を上げたかったが、やっぱりダメか。

 しかし、俺が想定した結末にはならなかった。


「ところで、ワズラナ。君たちは、今どういう状況か、理解はしているか?」

「あ? 喧嘩売っているのかい?」

「いや、事実確認をしたいだけだ。君たちはあの巨人に負け、君はこうして私の前に連れてこられている。そうだな」

「それがどうしたってんだい?」

「君たちは、負けた。つまり、君は依頼を失敗した。違うか?」


 団長の言い分に、ワズラナは怪訝そうにしかめていた顔を、徐々に真顔変化させていった。


「いや、だがオレ様はこうして生きているし、部下たちも、サッと見たところじゃ皆生きていた。こんな束縛さえなけりゃ、今からでも戦える、はずだ」


 この人、あの状況で仲間たちの安否を確認したのか。目もいいし、仲間の心配もちゃんとするんだな。


「うむ。そこは私も驚いた。最初の一撃で、君も部下も全員消し飛んだものとばかり思っていたからな。つまり、どこかにいただろう君たちを監視していた、依頼主側の監視者も私と同じように考えたと思わないか?」


 言われて、ワズラナは目線を下げて押し黙ってしまった。

 殺気は消え、思考を巡らせているように、瞳が僅かに揺らいでいるのがわかった。


「君たちの傭兵団が、相手と自分用に、二つの契約書を作成することはあまりにも有名だ。それも、勝敗条件や報酬の中身も細かく来ているしているほど、しっかりしている、とな。そこで問いたい。君はその依頼書に、どういった場合に依頼失敗と見做すように書いてある?」


 問いかけられたワズラナは目を閉じ、大きな息を吐いた。


「……団の全滅、目標への損害が規定を満たされていない場合、作戦行動前や最中に雇い主を裏切るような行動をした場合、敵前逃亡や戦闘行為の八百長を働いた場合、内通者がいた場合、依頼主の領地への立ち入り、依頼主の名や作戦を口にした場合、私が敵に捕まった場合……だったか。あぁ、そう言えば依頼が達成された後も、雇い主の名前と作戦の中身を口にしないとか、作戦達成後も依頼主の領地への立ち入り禁止とかあったね」

「ふむ。ならば、団の全滅、及び君の捕縛を、監視者は確認したことだろう」

「……私のズボンの、右ポケットに依頼書がある」


 ワズラナがそう言ったが、罠があるのでは、と皆が警戒する。

 その中で、中尉が真っ先に彼女へと近づき、言われた通りに右ポケットから折りたたまれた書類を取った。


「アンタ、中々度胸があるじゃない」


 ワズラナからの軽い賞賛をスルーし、中尉は団長へと書類を渡した。

 団長は開いた書類に目を通してから、ワズラナが見えるように、彼女の目の前へと差し出した。


「確かに、君の言った通りの内容が書かれている。それで? 何がしたいんだ?」

「あぁ。確認したかったのさ。魔法の判子が押されていてね。私が依頼に失敗した場合は、依頼主側が押してある印を消す。すると、私の方に押されていた同じ印も消えるってことさ。団長さんなら、見たことがあるんじゃないかい?」

「あぁ。だが、あれはどの国でも、それなりに大きな貴族か、それこそ商業ギルドしか持っていないはずだ」

「おっといけねぇ。依頼主の情報が……って、もう依頼失敗と見做されてるんだった」


 おどけた口調で肩を竦めると、ワズラナはまた仰向けに倒れ込んだ。


「あー、負けだ負けだ! 負けたことはあるし、依頼だって失敗したことはあるけど、今回みたいな惨敗は初めてだ! やられたぜー!! かーっ、悔しいー!」


 そうは言うが、どこか彼女の様子は楽しそうだった。

 何というか、見覚えがある。

 そう、例えるなら、残業が終わった仕事仲間だとか、重大な仕事を終えた同期が「肩の荷が降りた!」と肩を揉みながら苦笑している、あの時と似ている気がする。


 どうなっているんだ、と首を傾げていると、他の騎士たちも困惑している様子が目に入った。

 団長と中尉だけ、相変わらず静かにワズラナの事を見下ろしていた。


「あーあ! ま、いいか。アイツ、嫌いだったし」


 よっ、と声を出しながら、なんとワズラナは腕を使わないヘッドスプリングじみた動きで飛び起きて、団長の前に立った。

 団長も中尉も微動だにもしなかった。


「団長さん、一ついいかい?」

「何だろうか」

「もしアンタらに雇われるとして、食事について相談があるんだけどよ」

「わかった。お前たちと魔獣の分の食料も与えよう」


 マジか、団長。

 俺と騎士たちの心が一つになった感じがした。


「但し、一日三食だ。当然、仕事を怠った者には罰がある」

「そりゃ当然だわな。その辺は、オレ様の傭兵団も同じだ」

「では、どうする?」

「決まってるだろ。ワズラナ傭兵団を雇っていただき、誠に感謝いたします、お客様」


 まるで悪友と話すような、人懐っこい笑顔を浮かべた後、ワズラナは器用に団長へ会釈をした。



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