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機械仕掛けのカプリッツィオ!  作者: 胡桃リリス
第三章 覚醒、シャンティーノ
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3-19 契約書

 その後、小机と筆記用具、そして紙束が運ばれてくると、自由になったワズラナ(周囲から槍や魔法で威嚇されている)が二枚の紙を取って、それぞれに同じ記載をしていく。そして、出来上がったうち一枚を、対面に立った団長へと滑らせるようにして渡した。


「お待たせいたしました。契約書が出来上がりましたので、内容の確認をお願いいたします」


 急に言葉遣いを変えてきたワズラナに動揺することなく、団長は彼女と自分の手元にある契約書を見比べ、それから二人で一緒に中身を読み上げた。

 その中で、一つ気になった部分があったが、中尉が何も指摘しないので、黙っていることにした。


「最後に、契約の魔法を施します。ショクテール様、ご署名の後に判を捺していただけますか?」

「あぁ」


 契約書の署名欄に、それぞれ名前を書いた後、団長がそれらの横に判を捺していく。


「最後に……」


 ワズラナは自分の左親指を、その鋭い八重歯で傷つけて血を出すと、二枚の契約書の自分の署名横に血判を捺した。


「おつかれさまです。これで、契約書は完成いたしました。ありがとうございます」

「あぁ。しかしなるほど。先ほどの契約書では、君の血判が消えていたな」

「はい。この契約に違反した場合や、契約の中身によりますが、署名した人物が死亡した場合などにも消えます」

「なるほど。そして今回の場合は、我々が死した後も契約は残る、か」

「はい。どちらかが裏切ることがなければ」


 裏切ることがなければ?

 ってちょっと待て。

 更新期ないのか、この契約。先ほど、読み上げの時にも気になってはいたが、誰も指摘しなかったし、黙っていた。

 しかし、俺が現代日本にいた頃の契約書では、更新期についてもしっかりと記載されていた。

 その辺りが気になり過ぎて、俺はついに挙手をした。中尉には止められなかった。


「あの、一ついいですか?」

「うむ? 何だろうか」

「はい、何でしょうか?」

「この契約に、更新期はないんでしょうか?」


 団長とワズラナから許可をもらったので、俺は皆の視線を感じながら、疑問点を指摘した。

 中尉が何も言わなかったから問題ないとは思うが、気になっている者は俺以外にもいたはずだ。

 現に、「うんうん」と頷いている騎士が視界で二人ほど確認できた。


「なるほど、確かに契約の更新期間がある場合もありますからね。安心してください。この契約では、先ほども申し上げましたような事態にならない限りは切れません。また、諸事情により一時的にどちらかが契約の履行が難しくなった場合も、ある程度、契約の猶予期間があるようにしております。その猶予期間を過ぎれば、契約は切れることになります」

「わかりました。失礼いたしました」

「いいえ。不明点ははっきりとさせておかないといけませんからね」


 ハスキーな声音の淑女と化したワズラナが微笑みかけてきた。

 うわ、破壊力あるな。戦闘中とのギャップが凄い。

 戦い方や考え方だけでなく、こういう一面もあって、彼女を慕っている者は多そうだな。


 微かに笑みを作ってワズラナに会釈した。


「他に、疑問や不明点はございますか?」

「……ふむ、ないようだな」

「かしこまりました。それでは、ここに、イーナ女性騎士団団長プロメテア・ショクテールと、ワズラナ傭兵団の契約を宣言します」


 団長とワズラナはどちらからともなく手を差し出すと、堅く相手の手を握り返した。


「今後ともよろしくお願いします、団長様?」

「あぁ」


 こうして、つい三十分前まで敵だった、大陸最強の傭兵団が仲間になったのだった。




 契約が結ばれてからすぐ、傭兵団とその魔獣を捕縛したファダサス竜騎士たちが帰ってきた。

 彼女たちは拘束が解かれ、団長と並んで立つワズラナを見て、目を丸くしていた。


「って、これはどういったことでありますか?」

「つい先ほど、私が彼女たちを雇ったのだ」

「は、はぁ!? え、いや、そう、なのですか?」


 声を上げ、どうにかその場で我に返ったファダサス竜騎士が、ワズラナに懐疑の視線を向けた。

 それに対してワズラナは、先ほどのような営業スマイルを浮かべて、


「はい。これからよろしくお願いいたしますね、竜騎士様」

「は、はぁ……」


 ファダサス竜騎士がおずおずと頷いたのを見届けたワズラナは、次に俺と中尉へと振り返り、


「ところで、先ほどから一つ気になっていることがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「え? あ、はい、我々ですか?」

「えぇ、そうです。見たところ、お二人とも、騎士でも、この辺りの人でもないようですし、何よりも男子禁制の場にいる殿方がいらっしゃるので、疑問を抱いておりました」


 あぁ、まぁ、ですよね。

 成り行きでここにいるだけなのだが、下手したらこの後、俺だけ普通に罰せられる可能性はある。その辺りどうなんだろう。

 何も考えずにおこう。

 いざとなったら、ゴーレム呼び出して逃げるべし。


 どう答えようかと迷っていたところ、中尉が先に口を開いた。


「私たちは、ただの客人。ワイバーンの大群と、貴女たちの襲撃を聞いて、様子を見に来た」

「左様でございましたか。失礼いたしました」


 ワズラナはにやりと、不敵な笑みを浮かべた。


「なんて言うと思ったか。最初から殺気だらけの目で見つめてきていたし、何より、オレ様が目覚めた事に団長さんよりも早く気づいていたじゃねーか。お前、ただの小娘じゃないよな。血の臭いはしないが……戦いを知っている面と気配がしやがる」


 素の状態に戻った彼女の指摘に、中尉は半眼になった。


「だったら何?」

「いや何、つい最近、似たような殺気と視線を感じたことがあってな。気になったもんでよ」


 まさかこいつ、中尉がゴーレムに乗っていた事を見抜いたのか!?

 それも、普通なら気付かないような気配や視線の感覚だけで!


「それと、そこの坊主もだ。……うん、坊主だよな?」


 俺を見て疑問符を浮かべるワズラナの年齢はわからないが、多分、俺の方が年上だと思うので、「成人してますよ?」と返しておいた。


「まぁいいや。アンタもただ者じゃねーな」

「いえ、この砦にいる人間の中でブッチギリの最弱だと自覚していますよ?」


 その瞬間、周囲から「嘘つけェッ!!」と言った意味合いの視線を受けたが、気にしない。団長やファダサス竜騎士からも何か言いたげな目を向けられたが、見なかったことにする。


「全員が、嘘ついてんじゃねーって顔をしているみたいだが……まぁいいや」


 ワズラナは踵を返しながら、団長に宛がわれた三名の騎士と共に砦へと向かった。


「これからよろしく頼むぜ、伝説ども」


 やっぱりバレてんじゃねーか!

 何アイツ、野生の直感半端なく強くねーか?!


 一人戦慄していると、肩を叩かれた。振り返ると、団長だった。


「これから、彼女と敵について話をするつもりだが、貴方たちはどうする?」

「そうですね……」


 重要そうな話だが、中尉が全部読んでしまっているだろうから、行く必要はない気がする。

 それよりも、ゴーレムの点検を行った方がいいだろう。

 何気に、初の自分たち専用機の整備だ。少しワクワクしてしまっている。


「俺たちは」

「わかった。着いて行く」


 中尉が、まさかの発言を!


「ゴーレムの方は整備しなくても問題ないレベル。それよりも、今は私の力をこれ以上さらけ出さないようにしながら、次に備えることが大切。多分、時間がない」

「そ、そうですか」


 日本語でやり取りして、待ってくれていた団長に、俺からも一緒に話を聞かせてほしいと願うと、一緒に着いて来るように言われた。

 彼女の後を追いながら、小声の日本語で中尉へと話しかける。


「ところで中尉、時間がないってどういうことですか?」


 次に備えると言っても、シーナを操り、ワズラナに依頼した奴らも、ゴーレムについて監視者から報告されれば、予想外の存在の出現に、色々と後手に回ることになるだろう。直接的な攻撃は、当分先になるのではないかと思うのだが。


「確かに、色々と手は回してくるとは思うけれど、この後に控えていた、暴走する傭兵たちを止めるべくやってきた『本隊』による攻撃・占領は先延ばしになる。普通なら」

「じゃあ……」

「ワズラナは、これで終わらないって思ってる。彼女も詳しくはわかっていないけれど、今日明日ではなくても、近いうちに『本隊』が攻撃をしかけてくると、野生の勘で察している」

「野生の勘、万能ですね」


 どうやら、百戦錬磨の傭兵団長が訳もわからないが危惧している事態に、早急に対応しなければならないようだ。

 やれやれ……できれば、ゴーレムの出現でおとなしくしていてくれれば、それがいいんだがなぁ。



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