2-5 ゴーレムのコア
大佐と別れて、格納庫でデワデュシヂュ中尉と合流すると、第二格納庫へと連れて行かれた。
この基地のゴーレムたちが横たわっているのが第一格納庫で、そこから少し離れた場所に第二格納庫がある。
ここにはまだ入ったことがないな。鹵獲したゴーレムや運び込まれたパーツの整備や調整などを行うところだったか。
中に入ると、左半身と右腕を失った元敵ゴーレムが壁にもたれている姿が目に入った。鉄塊に変えたのは俺なのだが、何だか、痛々しい気がした。
「祝は変な事を考える」
「すみません」
「謝る必要はない。同情するくらいなら、このゴーレムを有効に使うべき」
そう言うと、中尉は近くで作業をしていた技術士官に一言、二言声をかけ、ゴーレムを触る許可を得た。
「こっち」
中尉の後を追って梯子を登ると、彼女はコックピットの少し上を指差した。
溶け、所々焼け焦げた跡やガラス化したフレームの間に、綺麗な球体が埋まっていた。俺が両手で抱えられるくらいの大きさだろうか。
しかし、周辺がこのありさまなのに、この球体には損傷は見当たらない。
「もしかして、コアですか?」
「そう。ゴーレムには、このコアが存在する」
「もしかして、魔動具……ですか?」
「違う。貴方の考えている方が近い……のかもしれない」
俺が考えていたのは、機械生命体のコアだ。
「でも、この子たちに思考や生命は存在しない、とされている」
「では、近い、というのは?」
「前にも少しだけ、話したけれど、ゴーレムは一から人の手で造られたものじゃない」
言語学習や空いている時間に、中尉へゴーレムに関する質問を行った際、そのような返答があった。
ゴーレムは、どこかの遺跡や僻地から発掘された、古代兵器を改修しているものらしい。
その話を聞いた時、実はこの世界は、未来の地球なのではないかと考えたが、中尉によって否定されてしまった。だが、ここが未来の地球でなくてよかった、とも思っている。
思い出しながら、俺は頷いて続きを促した。
「特にこのコアはその象徴。著名な研究者や魔法使いでも解析できない。地球で言うところのブラックボックスやオーパーツ。そして、これがないとゴーレムを動かすことはできない」
中には、魔力や大がかりな絡繰りを用いて無理やり動かしたりしている者もいるそうだが、思うような結果には至っていないと言う。
「でも、貴方がエレナを助けた時から、あの子のゴーレムのコアに変化があった」
「まさか、意志が宿ったとか?」
「コアが、貴方に反応した」
無表情のまま淡々と中尉は続ける。
「理由はわからないけれど、貴方がゴーレムを動かせるのも、新しい兵器が出現したのも、コアが反応しているから、と考えられる」
なるほど、つまり俺はゴーレムのコアに干渉できる力、もしくはそう言うカラクリあるかもしれない、ということか。
最初に考えていた動かせる理由の一つがこれに該当しているが、まさか現実で異世界あるあるが使えるとはなぁ。今更だが、ちょっとだけ感慨深いかもしれない。
「けど、ゴーレムは他の機体も動かせますけど、技は全然搭載されませんよ?」
「そう。そこで、コアが貴方の考える命に近いかもしれない、という話しに戻る」
何かしらの核心に触れるという予感に、心が高鳴った。
「祝、他のゴーレムにメルティング・ブラスターが発現しないのは、貴方がストッパーをかけているせい」
「俺が?」
「そう。貴方が動いて欲しいと思うから、ゴーレムは動く。これ以上は嫌と考えているから、ゴーレムはそれ以上動かない」
「じゃあ、俺の意志を汲み取って、ゴーレムはその通りにしてくれているってことですか」
「そのように受け取っている。実際、祝が乗ったゴーレムたちのコアは、エレナのゴーレムと同じように、何かしらの変化が起きている。私も、よくわからないけれど」
「じゃあ、エレナさんがメルティング・ブラスターを使えるのは?」
「それもわからない。けれど、貴方やエレナ以外ではあのゴーレムに乗っても使えないということは、コアが貴方たちを認識している証拠」
認識、か。
もしくはプログラムか。
だが、中尉だけがその反応を感じているのであれば……。
俺の思考を読んだ中尉が微かに頷いた。
「祝、貴方は自分やエレナたちを助けるための力を願った。さっきの実験でも、遊び心とエレナに喜んでもらいたくてやった。それにゴーレムのコアは反応した」
中尉は俺を見上げる。
えと、何か怒ってます?
「怒ってはいない。貴方は心のどこかで私たちを信用していない」
「結構えぐい事を言ってくれますよね……」
「もちろん、それは私たちもそう。人間としてはある程度している。ただ、祝の場合は、エレナ以外のゴーレムに力を与えた結果を恐れている」
まぁ、この人には最初からバレてるから、別に今更どうとは思わないはずなんだが、こう言葉にして聞かされるとなぁ。
「大佐には報告していない。今回のここに案内したのだって、実験の一環として許可を出されただけ。この話は、私が貴方にしておきたいと思ったからしている」
「怒られません?」
「祝が黙っていてくれれば大丈夫。日本語を理解しているのは、私と貴方だけ」
「翻訳魔法はないんでしたっけね。意志疎通の力がないと、この世界にやってきた奴らは大変そうだ」
「思ってもいないことは言わない方がいい。それより明日、実験の後、またここに来てほしい」
「このゴーレムを改修して、実験機にでもするおつもりですか?」
「違う。けれど、貴方は……」
途中で言葉を区切り、中尉は機体の傷をなぞった。
「なんでもない。……祝は、ゴーレムをスーパーロボットだと思う?」
「リアル系ロボットだと思いますよ」
と言うか、中尉の口からその単語が出てくるなんて想像だにしていなかった。なんか可愛い。
「……祝はロリコンだと思う」
「ちょっ、ロリコンじゃないんです!」
「冗談」
この人は……。
そう言えば、この世界にはロリコンって単語、あるのかな……。
どうでもいい思考で気を紛らわせた。
「私は、祝の世界の文化を知らない。生まれた時からゴーレムが存在していて、その所持している数の多い国が争っている。貴方から読み取れたリアル系ロボットのイメージは、ゴーレムみたいに軍用の巨大な機械人形たちが、国家同士や魔族みたいな者たちと戦っているものが多い。いっぱい人が死んでいる。主人公のゴーレムに特別な力があっても、それだけじゃどうにもならない。この世界と同じ」
「まぁ、そうですね」
この駐屯地であれば、エレナさんのゴーレムに強大な威力を持つ特殊な武装が追加されても、それだけではどうしようもない時があるから、他のゴーレムにも同様の力が付与できないかを実験している訳だ。
「でも……もし、スーパーロボットがあれば、話は別」