2-3 必殺技の追加
「やはり、威力の高い武器となると、大砲や専用六連発の破壊力を思い浮かべてしまいますね」
「そうですね……あ、そうだ。エレナさん、お風呂でお湯を手で飛ばす遊びってしたことありますか?」
「え? まぁ、幼い頃にした覚えはありますが……」
「あれのイメージを浮かべればいいんです。圧力を加えて、細い発射口から押し出せば、勢いよく水が出る……試してみましょう。大佐、水場に移動してもいいですか?」
『あ? ……許可する』
「イワイさん、何をするんですか? ゴーレムの手で同じような事をしても、人間のように密着しませんから、水は飛ばせませんよ?」
「まぁ、見ていてください」
デワデュシヂュ中尉、俺の考え、わかりますよね?
お願いですから種明かしはやめてくださいよ。
さて、演習場の近くにある溜め池へ移動し、水面に左掌をかざしてもらう。
水面が揺らぎ、左掌を中心に、水が波立つ。
よっしゃぁっ、予想通り!!
「これは……」
「じゃあ、戻りましょうか」
演習場に戻り、次の的へ右腕を向ける。
『おい、イワイ? まさかとは思うが……』
「すみません、技術士官殿たちのブレーキはお願いします」
『てめっ、気軽に言いやがって! ……て、デワデュシヂュ中尉、何で布を被ってんだ?』
『ウォータースプラッシュ、来ます』
『はぁ……?』
さて、イメージするのは水鉄砲……いや、アレだな。
「発射カウントをお願いします」
『これで失敗したらお前、酒の肴にして弄り倒してやるからな!』
『は、発射十秒前……五、四、三、二、一』
瞬間、脳裏に浮かぶ名前を詠唱する。
「ナイアデス・カッター!」
何も起きない。
静まり返る演習場。
エレナさんが操作し、モニターが拡大されるが、的には穴が空いていない。
「失敗ですか?」
「いえ、成功です。見えませんか?」
更に拡大、拡大……ふっ、大成功。
「嘘……?!」
『おいイワイ、今週いっぱい昼飯おごれよ。それでチャラにしてやる』
「いえ大佐、昼食はご自分で会計してください。デワデュシヂュ中尉、ゴーレムの視覚にアクセスしてみてください」
『もうやっている……大佐、これを』
『あん? ……っんなぁっ?!! こいつは……』
的の表面の傷や汚れも確認できるほど拡大した画面に映っているのは、と真ん中に開いた、小指の先にも満たないほどの小さな穴だ。
「イワイさん、これは一体なんですか?」
「鬼○爪、とでも呼んでおきましょうか」
「いえ、先ほど『ナイアデス・カッター』と呼んでいたではありませんか」
流石エレナさん、異世界の言語をしっかりと覚えていらっしゃる。
「ですが、まさに魔物の鋭利な爪で貫いたかのような……これを、貴方が?」
「先ほど話した水鉄砲のお化けです」
ウォーターカッター。
現代地球人類が生み出した、リアル斬鉄剣だ。斬れないものはあんまりない!
「まぁ、こんな感じで、メルティング・ブラスターも威力を……」
エレナさんを見ると、口を大きく開いたまま俺を見上げていた。あ、犬歯の先がちょっと丸い感じで、可愛い。
大佐たちからも通信が入らない。
あれ?
まさか、この流れはもしかして。
『言わせない』
「俺、また何かやっちゃ」
『だから言わせない』
ちぃっ、デワデュシヂュ中尉が言わせてくれない。
とりあえず、エレナさんを再起動させよう。
「エレナさん、エレナさん、おーい、エレナ中尉―?」
「イワイさん」
「細い発射口から圧力をかけて発射するイメージで撃つと……エレナさん?」
「貴方は……一体何をしているんですかぁぁぁぁぁぁ!!!」
『イワイ、テメェ、ちょっと、こいつら抑えるの手伝えやゴルァァァァァッ!!!』
『イワイ、ちょっと、今の魔法、それとも魔術? 凄いけど何やってるの……?』
エレナさんと大佐から、めっちゃ怒鳴られ、マリス中尉からも呆れられた。
後、研究職の人たちが大騒ぎしたせいで、クリス大尉がゴーレムに乗って駆けつけるまでに至った。
「祝は自分の力と扱い方をもっと慎重に考慮するべき」
「すみませんでした」
余談だが、その後に行われた新型盾の強度実験で、俺もエレナさんも、メルティング・ブラスターとナイアデス・カッターで全て鉄塊に変えたことを追記しておく。