閑話 ヴィルヘルムの一日
アリシアさんの所へ行っていたサラが帰って来ました。
妊婦について食事管理から何から色々本当に助かります、食欲が落ちて来ていまして、匂い立つ物は概ね怪しく、でもそれなりに食べないといけないとなると中々辛いものがあります。
サラのお陰でかなり改善されたので、少しストレスを感じていたのも解消しました。
とても気分が良いので、日々穏やかに過ごしております。
今日は暖かく、ヴィルヘルム様の執務室のソファーでウトウトしてしまいます
「リリー、リリー、寝てしまったのか」
遠くて近いような声が聞こえてきます、起きてますよー、ただ瞼は重くて開かないですー
「寝室に運ぶぞ」
そっと背中に手が回される感触が
「やぁ・・・」
此処が良いです
「うん?、此処で良いのか?」
「・・・ん」
「そうか、靴を脱がせるぞ」
履き物を脱がせて、ソファーに横に寝かせてブランケットを掛けてくださります
ヴィルヘルム様が席に戻り執務を再開したような音だけが聞こえてくる
サラサラとペンを走らせる音と、誰か側にいる安心感が眠気を加速させていきます
「んふふっ」
暖かくて温かくて、幸せです
「ん?リリー笑っているのか」
・・・
意識を保っていられません・・・
「ヴィ、」
「どうした?」
「すき」
「ああ、俺もだ愛している」
――――――――――――――――――――――――――
妻リリアンの妊娠が発覚してから、それなりの日が経つ。
体調不良から始まり、食欲の不振、また彼女は決して言わなかったが精神的にも不安定になっていて稀に感情を持て余していたようだ、アリアが何か相談を受けていたがその事を聞くと
「妊婦はそういうものです、旦那様はどっしり構えていて下さい」
と何も答えて貰えなかった、女性だけの話と言うものだろうか。
ある日妻が泣いた、衝撃的だった。
理由は俺が側に居ないと、見えないと不安で寂しいと言う。
俺は勘違いしていた、彼女なら何でも自分で解決すると思い込んでいた、事実彼女は大抵の事はやって来ていたが今回は違う、妊娠など未知の事だ不安で当たり前だ、そして彼女はまだ15、父や母にもすぐ会える訳ではない、よく出産の為に実家に帰ると聞くのはそう言うことかと納得する。
早速リリーの為に取り掛かる、二度と涙など見たくない。
執務室でゆっくり過ごせるように彼女専用のソファー、本棚、家具を設置。
隣の部屋を寝室に改装し執務室との間の壁を抜く、扉は付けない、そして俺の執務机の位置からベッドが確認出来るようにする、勿論俺から見えるという事はベッドで寝るであろう彼女からも俺が確認出来る。
一度だけリリーから
「私が側に居て気が散らない?」
と心配そうに言われたが
「俺もリリーが見えていないと不安だから」
と言うととても嬉しそうに笑っていた。
王城への出仕も相談して減らしてもらった、兄上からは
「高々人生数十年の内の一年だけだ、側に居てやれ、それに今妻の為に尽くさないと一生言われるぞ」
兄上達は何かあったのか、と思えば
「一般論だ、学園の同期でそうなっているのが意外と居る」
「そういうものか?」
「そういうものさ」
義姉上からは
「言うまでも無いわね、出産するまで、いえ出産しても当分顔を見せなくて良いわよ、ずっと側に居なさい」
いや、それは流石にどうなんだ・・・
「だからと言って構い過ぎちゃダメよ、息がつまるわ」
どっちなんだ、と反論したくなるもリリーに関して義姉上の話は信頼出来るので黙るヴィルヘルム、尚、構い過ぎた後ではある。
その後のリリーはとても穏やかに過ごしていた
ソファーで本を読み、本を書き、子供のお包みや前掛けを繕ったり、俺にも刺繍を贈ってくれたり、とても安心したようでうたた寝したり。
だが、体調は良くもなく悪くもなくで、食事に関してはアリアも苦労しているようだった、食べられる物の選定、だが身体のことを考えると食べなくてはならない物も、こればかりは個人差が大きく人によるとの事だ。
それもリリー付きの侍女サラがアリシア嬢の所から帰って来ると、みるみる良くなりホッとする。
必要な栄養、食べ難いものは食べ易くして、特に塩には細心の注意を払っているようでリリーの食事は薄味になっている、どうやらリリーにはそれが食べやすかったようで食欲が戻って来た。
また適度に運動も必要で散歩を頻繁にするようになった、籠りきりにしないようにする、あまり極端に外部と遮断するのも心の健康には良くないと。
良かれと思ってやっていた事が、逆に心身の健康を損なう事になっていたとは反省するばかりだ。
抑えはするがリリーには多少仕事をさせた方が良さそうだな。
当初アリシア嬢が医療知識あると聞いた時は不安だったが、リリーの言う通り信頼出来るものであったようだ。
心身共に安定を取り戻したリリーは本当に幸せそうで、俺も安心する。
今もソファーでうつらうつら眠そうにしていたので、寝室に運ぼうとしたが
「や・・・」
嫌がったので、此処で良いのか?と聞くと
「ん」
短く答える彼女の靴を脱がせ、ソファーに横にしてブランケットを掛ける
リリーの穏やかな寝顔を見て心が温かくなる。
執務に戻り、10分程経っただろうか、
「んふふっ」
寝言?
側に行き、そっと髪をかきあげると指をキュッと握って来て
「ヴィ、」
「どうした?」
多分、寝ていると思うが
「すき」
夢うつつでも、そんな可愛い事を言うリリーを愛しく思い
「ああ、俺も愛している」
そう答えると、微笑み、穏やかに寝息をたて始めた。
起こさようにベッドへと運び、キスをして離れる
仕事の進みは早い、リリーが見えない所でどうしているかやきもきしているより集中出来るし、環境を変えて効率を落としてしまうとリリーが気にするから。
何はともあれ過去最高に集中して仕事に取り掛かれたヴィルヘルムであった。




