モブ、寝る。
妊娠発覚から次の日の朝
うーん、昨日に引き続きあまり体調がよろしくありませんね、身体が重く、起き上がると昨日の二の舞になりそうです。
「おはようリリー、起きられるか?」
「おはようございますヴィー、あまり、動きたくありませんね・・・」
「そうか、今日もあまり顔色は良くない、朝はもう少し寝ているといい、アリアにも伝えておくから」
「ありがとう・・・」
「俺は1度王城に行って報告して来るから・・・、すぐ戻るが」
「うん、待ってる、いってらっしゃいませ・・・」
「行ってくる」
軽くキスを交わし目を閉じるとすぐに寝息をたてはじめるリリアン、やはり体調は良くないようである。
この小さな身体には新しい生命が宿っている。
だが彼女が抱えている案件は多岐に渡り、また少なくない量である。
ひとつひとつの案件は大した手間ではないのだが、手広くやっており、指揮管理している案件が多数、兎に角沢山の人と話す。
これらはまだ問題ない、流石に多数の人と顔を合わせるのはこれから避けていきたいので手紙と書類のやり取りに切り替える。
彼女は人との繋がりを大事にしているから出来るだけ直接話したがるであろうが、子と母体の為と納得してもらおう。
現在主たるものは王子妃候補への家庭教師だ、これは早急に対処しなければならない、今後の人の人生が懸かっているとあってリリアンは綿密に計画を立て、指導にも細やかな心遣いをして当たっている、実際屋敷に戻って来てからも調べ物や資料作りに大きく時間を割いていた、これを何とかしなければ彼女は必ず無理を重ねるだろう。
1度兄上義姉上と話し合わなければならない、勿論これから妊娠の報告で会うので都合は良い。
「兄上」
「おおヴィー、リリアンの事は聞いた、おめでとう」
「おめでとうヴィル、リリアンの様子はどうなの?」
「ありがとうございます、リリーは貧血の症状が出ているので屋敷でゆっくり過ごさせています」
「そう、周りに頼れる人は居るの?」
「はい、侍女長が出産経験もあり、リリーも頼りにしているのでひとまずは」
「なら、大丈夫か、必要ならこちらからも人を出すから遠慮なく言え」
「ありがとうございます兄上、早速ですがアリシア嬢について」
「それについてはマイヤール夫人に遣いを出している、流石に妊婦に負担を強いる訳にはいかないからな」
「返事は」
「落ち着けヴィー、昨日の今日で遣いを出したのも先程の事だ、夫人にも理解して貰えると助かるのだが」
「ヴィル、焦っても仕方ないのだし、リリアンを現状維持のままで使うつもりは無いわ、取り敢えずそれで良いでしょう?」
む、それもそうかと思い直し落ち着く。
「それより父上と母上に会って話をして行け、昨日の早馬が有ってから公爵邸へリリアンに会うと言ってきかないのだ」
「それは母上、ですよね」
「そうだ」
「俺に止められると?」
「思わん、が、当事者のヴィーから話を聞けば少しは気が紛れるだろう」
「ラファエル様は相当お気に入りみたいね」
苦笑する義姉上。
確かに以前にもリリアンを置いてお前は帰って良いとか、息子より娘よ、とか言われた
「・・・」
絶対止まらん。
「今日も体調はあまり良くなかったのだろう?
ならば、取り敢えず様子を伝えてリリアンから手紙を送らせると言えば、流石に伏せている所へは行かないだろう」
寧ろ、それ以外に言う事が無い、とも言える。
「分かりました、今すぐ行った方が良さそうですね」
「ああ、頼む、アリシア嬢の方はこちらで全てまとめておくから、リリアンに伝えておけ」
「分かりました」
離宮へと向かう、兄上の話を聞く限りは母上は飛んで行きそうな勢いを感じる。
「ヴィル!リリアンちゃんは大丈夫なの!?貴方妊娠している妻を置いて何しに此処に来たのよ、いいえ丁度いいわ一緒に行きましょう」
俺にどうしろと言うのだ・・・
可能であるならリリーから離れたく無かったのだが、遣いを出して、はいおしまいとは行かないだろう。
「母上落ち着いて下さい、リリーは未だ体調が優れません、今日も貧血の症状で伏せているのでもう少し時間を下さい」
「そうだよラファエル、リリアンさんも大変なんだ体も心も落ち着くまで迷惑を掛けてはいけないよ」
父上の加勢も得てほっとする、俺一人では上手く止められない。
「何よ二人とも、可愛い娘が心配じゃないの?
初めての妊娠できっと不安もあるし、わたくしも心配なのよ」
それはそうなのだが
「母上、リリーはベッドの上で母上を迎える事を良しとしないだろう、無理はさせたくない、直ぐに手紙を送らせるから・・・」
と言えば、口惜しげにしながらも
「、、、分かりました、リリアンちゃんに無理はさせられないものね、手紙も急がなくて良いわ、ゆっくりさせてあげて」
と諦めたラファエルを見て、ふう、とひと息ついたのはヴィルヘルムかガウェインか。
用事を済ませて早々に屋敷へ戻る、現在妻の顔を見ていない間は常に落ち着かないヴィルヘルムである。
「ただいま」
「おかえりなさいヴィー」
未だベッドの上であるが笑顔で迎えてくれるリリアンに安堵する、そのままベッドの端に腰掛ける
「気分はどうだ?」
「大丈夫よ、朝だけ弱いみたいで、起きてから2.3時間位ベッドで横になっていればいつも通りみたい」
「そうか」
「あ、はいこれ!」
「手紙?」
「ええ、ラフィー義母様飛んで来そうな気がしたから、あとエリザ義姉様にはアリシアさんの事についての」
正に先程やり取りして来た事を見ていたかのような準備の良さに笑ってしまう
「くくっ、ああ確かに渡しておくよ」
しかし、2通ともかなり厚みがある、書くのに結構時間が掛かった筈だ
「リリー、無理はしてないだろうな」
「してないわ、と言いたいところだけど、何故か疲れちゃった・・・、」
ふう、ひと息吐いて寄り掛かって来る、肩を抱き撫でる
「リリー、きっと子を産む準備の為に身体が変化していて体力を使っているんだ、これからはもう少し抑えて余裕を大きく取ろう」
「うん、ごめんなさい、普段通りのつもりでいたけど、そうも行かないみたいね」
「気にするな、これから知る事も沢山あるさ、な」
「ええ、そうね・・・」
短く答えると、眠気が襲って来たのかウトウトとし始めるリリアン
「ごめんなさい、眠気が、、、」
「良いんだ、よく眠るといい」
「うん、ヴィー、手握っててくれる?」
「ああ・・・」
横にさせ、そっと布団を被せて手を握ると
「ふふっ、あったかい」
と、一言笑顔になり、静かになった。
スー、スーと寝息をたてて穏やかに眠るリリアンを小一時間程眺めていただろうか、ふと手から力が抜けたので、そっと部屋から出る。
「奥様は少し前から眠そうにしていたのですが、もうそろそろ旦那様が帰って来そう、と待っていたのですよ、出迎えには出れないけど帰宅の挨拶はしたい、と仰って」
優しい笑顔のアリアに言われ
「そうか」
一言答えたヴィルヘルムもとても優しい顔をしていた。




