モブ、母と父。
「ヴィー?」
私の妊娠を告げるとヴィルヘルム様が固まりました、ピクリともしません。
「おーい」
顔の前で手を振っても、頬をぺちぺちしても無反応です
「ヴィー」
首にキスしてみますが、動き無し
耳朶をはむはむしても、動き無し
「ヴィー」
キスマークでも付けてみればどうですかね、かなり強く吸わないと跡付きませんから、流石に・・・
「ん・・・」
ダメです。
固まり過ぎじゃありませんかね、ヴィルヘルム様!?
揺さぶろうとしてもヴィルヘルム様の体格と私の力の差では全く持ってビクともしません。
ちらりと部屋の端に控える侍女のサラを見ても困惑しています
そうよね、ここまでフリーズされると私も困惑してるわ。
仕方ありません、あまりやりたく無かったのですが・・・
ガリ
「っ」
ビクンと再起動するヴィルヘルム様、襟首少し噛みました
平手打ちとどっちにするか迷いましたが、頬に赤いもみじを咲かすよりマシ、ですよね?
ごめんなさいヴィルヘルム様。
「リリー?」
「ごめんなさいヴィー、気絶?しているみたいで噛みました、痛かったですよね」
「あ、いや、大丈夫だ、それより赤ちゃん、とは」
「はい、ここに」
ヴィルヘルム様の手を取り、私のお腹に当てます
「リリーに子が?」
「はい」
「俺の?」
「はい」
「ここに」
「はい、居ますよ、おとうさん」
「父・・・、リリーが・・・」
「おかあさんですね」
「母・・・?」
「はい」
またもや固まるヴィルヘルム様、もう素直にいくらでも待ちますよ・・・
「リリー」
あ、再起動しました?
「はい」
「おめでとう、いや、ありがとう」
と言いながら抱き締めてくるヴィルヘルム様
この腕の中は本当に安心しますね、いつまでも居たいです。
「これから大変なので助けて下さいね、おとうさん」
「ああ、ああ・・・」
暫く抱き合っていると
「失礼します」
ジェレミアさんとアリアさんが入って来て
「ご懐妊おめでとうございます、奥様には先立って妊婦についてのお話をしています、旦那様には後程注意事項等のお話がございますので」
「ああ、頼む、所で兄上達とモブラック家に知らせを、」
「既に早馬を向かわせております、ヴィルヘルム様がここまで早く帰って来るとは思わなかったので、王家には入れ違いになりましたね」
「そうか、手間を掛ける」
「いえ」
「あ、アリシアさんの事は」
ちょっとマズいですよね?
私は安定期に入る迄、馬車に乗る訳にはいきませんし
タイムスケジュール、いいえ長期計画を見直さないといけないかな。
「リリー」「奥様」
「はい?」
「妊婦が優先する事など子をおいて他には存在しません」
「はい、えっと、つまり?」
「任せろ、俺が何とかする、リリーが懸念する様な事は全て解決しよう」
あーっと、そうなるとお仕事周りも調整しないといけませんね。
「分かりました、全てお任せします」
「奥様は当面屋敷でゆっくりして下さい、突然何もする事が無くなって落ち着かないとは思いますが、御友人に手紙でも書いては如何でしょうか」
「はい、そうします」
良い機会だから、積んでいた本をゆっくり読むのも良いかもね。
もうこうなると部屋から出るのも禁止されそうな勢いだし、予定は全てキャンセルになるでしょうから、ララ、ルル、ライラを呼んでお茶会でもして近況報告をしたり、まあゆっくりしましょうか。
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「旦那様」
「どうした」
「出来るだけ奥様の側に居て下さい、今は大丈夫な様ですが妊婦は何かと不安定になりやすく、ましてや奥様はまだ15歳ですので」
「何か、すまん・・・」
「いえ、そういう意味で言ったのでは有りませんが」
ふと、アリアに気になったことを聞いてみる
「アリア、リリーの妊娠について、心当たりがあったのか?」
「はい、いえ、はい・・・」
「どうして分かった」
「ここ数週間奥様が、」
「ねえ、お茶葉変えた?変えてない、そう・・・」
「料理の・・・、いえ、何でもないわ」
「と、口にするものに対して違和感や嗜好に偏りが出てきたようなので、まさか、とは思っておりました、他にもよく眠気を訴えていたり、細かく様子が変わっていたようでしたので・・・」
「何故言わなかった」
責めたつもりは無いが、少し当たりが強くなってしまった自分に反省する
「申し訳ございません、ただ奥様は若すぎるので、いくら何でも結婚半年もしない内にご懐妊為さるとは・・・、王家の御子様事情は旦那様もご理解しているでしょう?」
現在、王家2代に渡り男児2人しか産まれていないのは、かなり憂慮すべき事であった。
政治的に言えば、2男2女が理想ではあったのだが・・・
勿論、出来ないものは仕方ないのだ、天からの授かりもので、欲しいと言ってすぐに授かるものではない。
それら父と母、兄と義姉の苦戦を考えるに、リリアンの妊娠もそれなりに時間が掛かると思うのは自然な事である、妊娠疑惑があると言っても初期症状は様々な病気とも共通するものがあり、医師が診ても簡単に言えるものでなく。
特に、王族の血を引くとなると迂闊に「ご懐妊おめでとうございます」と言って実は間違いでした、などとは口が裂けても言えまい。
それが結婚半年経たない内に妊娠、時期を逆算するとそれこそ結婚してすぐに妊娠した可能性が高い。
つまり王家と王家に関わる人間にとってリリアンのスピード妊娠は「まさか」なのであった。
「・・・、いや、何か、その、本当にすまん・・・」
「旦那様、これは喜ばしい事です、謝られる事ではありませんよ、今後は奥様に関する小さな違和感も伝える様に致しますので」
「ああ、特にこれからは宜しく頼む」
女性でなければ対処出来ない問題も多く出るだろう、そこで出産経験のある侍女長アリアはとても頼りになる存在だ、俺にとっても勿論リリアンにとっても。
「はい、お任せ下さいませ、私にとっても奥様は第2の娘と思っていますから」
10年、絆を紡いで来たのは何もヴィルヘルムだけでは無い、この屋敷にリリアンを招くようになってから多く接して居たのはアリアだ。
その付き合いがリリアンが5歳の時からとなると、アリアが自分の子と思えるのも納得であろう、リリアンも普段の様子からきっとアリアの事は母のように思っている事は明白だ。
「頼りにしている」




