モブ、休み。
それはアリシアさんの所へ行く日の事、基本は2日家庭教師して1日休み、また2日家庭教師して休みと言った具合の予定になっております。
アリシアさんに無理をさせない日程でもありますし、私の準備や抱えている事案に必要なギリギリの日程になります。
その日は目が覚めた時から身体が少し重く、本調子で無い事は分かっていました。
隣に居るヴィルヘルム様の温もりに心地良さを感じながら、二人とも起床
「リリー顔色が少し悪い、大丈夫か?」
「ええ、まあ少し、でも大丈夫です・・・」
「そうか、でも無理するな、今日は王城に行く日だったか?休んだ方が・・・」
「ん、ありがとう、でもアリシアさんに渡すものと話さなければならない事があるから」
「無理だけはするなよ」
「うん・・・」
先にヴィルヘルム様が立ち上がり、私もベッドから出ようと立ち上がった瞬間
「っ、」
目の前が真っ暗になり、血の気が引いていくのが分かります。
これはマズいと思い、何とか目の前にあるヴィルヘルム様の背中を掴もうとして、そのまま意識を失いました
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朝起きるとリリーの顔色が悪かった、心配なので休むように言ったがどうやら外せない用事なので王城に行く事にしたようだ。
「無理だけはするなよ」
「うん・・・」
と言い、立ち上がった直後、背中にトンと温もりを感じる
「リリー?」
声を掛けるが返事が返ってこない、おかしいと思いそのまま振り返ると顔を真っ白にしたリリーが居た。
立っていられないのか膝から崩れ落ちる、すかさず支えるが床に座り込んでしまい
「リリー!」
「ヴィ、、ごめ・・・」
絞り出すように言うとそのまま彼女は意識を失い、身体から力が抜ける。
これはいけないと判断し、身体に負担を掛けないように彼女をベッドへ戻すと
「誰か、誰かあるか!」
主の普段では無い声に、急ぎ侍女長アリアが来る
「リリーが倒れた、医者を」
その言葉を聞き、即座に近くに集まって来ていた者に指示を飛ばす
「ジェリー!お医者様の手配を、サラ、貴女はブランケットを数枚持って来て、あと厨房に言って白湯とお湯の準備」
普段、執事のジェレミアを職務中は愛称で呼ぶことは無いアリアも流石に動揺をしているようだが、ベッドに横たわるリリアンを見て、務めて冷静な判断を下せるよう内心落ち着ける。
リリアンの顔色は悪い、呼吸は浅く
アリアはリリアンから枕を抜き、脚の下にクッションを積み上げる
「どうだ?」
「分かりません、ただ貧血の症状だと思いますが、ブランケットと湯たんぽで体温調整を、体は冷やさないように、ですが温め過ぎもしないよう、私はお医者様ではありませんから」
「分かった」
「少し離れます、奥様の側に居て下さい」
と言うと、アリアは他に指示を出す為寝室を出て行った。
「リリー・・・」
出来る事も無く、手を握り締める。
こんな事は今まで1度も無かった、リリーは元気で病気もしない、初めて顔色の悪い彼女を見て不安だけが募る。
どれほど手を握っていただろうか、時間はかなり経った気もするが、とても言いづらそうに執事のジェレミアが言う
「旦那様、本日のご出仕は・・・」
「リリーが倒れているのに離れるなど」
「ですが、本日は国賓の、」
分かっている、自分でも分かりきった事で今日は王城に行かねばならない事、そして妻を心配しているその気持ちも理解した上でジェレミアも言い難い事を言っていると、全て分かっているのだ。
ジェレミアもそれ以上言わない、ヴィルヘルムも悩んでいる事をお互いに理解しているから。
「ヴィ・・・、」
リリアンの声が届く
「リリー!大丈夫か」
「だいじょ、、ひんけつ・・・」
まだ具合は悪そうで、その瞳はしっかり定まらない
「行って、、ね」
「しかし、」
「ただの、、貧血、だから・・・」
と言うと再び眠ってしまった。
「・・・、出来るだけ、早く戻る」
ヴィルヘルムはリリアンの額にキスを落とすと出仕の準備を始めた。
王城に来ても落ち着かない、だからと言って国賓に対して失礼などあってはならないし、リリアンの事で失敗したとなれば彼女は気にするだろう。
目の前の事以外頭から追い出して集中する
「ヴィー、何があった」
そうしても兄上にはお見通しのようで聞かれる
「、、、リリーが倒れた・・・」
アリシア嬢の所へ今日はリリアンは来れないとだけ遣いをやっていたが、他には伝えていない
「何っ!?」
「ヴィル、貴方何故此処に来ているのよ」
「リリーが行けと言ったのだ、自分のせいで何か迷惑があれば彼女は気に病む・・・」
「そう、なら今すぐ帰りなさい、ルーク、ヴィルの役割は殆ど終えたわね?」
「ああ、主要な視察は終えたし、後は個別の対談だけだから問題ない」
「だが・・・」
「ヴィル、リリアンは行ってと言ったのよね」
「ああ」
「ならば、1度此処に来たのだから、いつ帰っても何も問題無いわね」
「む」
へ理屈だが、いち早く帰りたいヴィルヘルムにとっては渡りに船ではある。
「リリアンの言った義理は果たしたわ、それにそうは言ってもヴィルに側に居て欲しい筈よ、帰りなさい」
「・・・ありがとうございます、御前失礼します」
「ええ、リリアンに宜しくね」
「ヴィー、落ち着いてから話に来い」
「はい」
頭を下げて、退席する。
丁度、午後に回ったくらいの時間に公爵邸に到着し、出迎えを受ける
「リリーは」
「医師の診察を終え、お部屋で食事を摂っています」
「容態は」
「特に問題ないようで、医師の診察によると貧血、現在は元気に過ごして居られますが」
が?
「なんだ」
「いえ、これは奥様から直接お聞き下さいませ」
言葉を濁す執事ジェレミアの態度に不安が大きくなる
(なんだ、まさか何か病でも・・・)
着替えを済まし、埃を落としてスグにリリアンの私室へと行く。
ノックをすると
「はい、どうぞ」
と、いつもの声色で返事が聞こえてくる、部屋に入ると彼女はベッドの上で出迎えてくれる
「ヴィー!おかえりなさい、早かったのねお仕事は大丈夫でしたか?」
普段の調子の彼女を見て、一安心
「ただいまリリー」
「おかえりなさい」
ニコニコと笑顔でいる姿を見ると、義姉上の言う通りスグ帰って来て良かったと思う
「仕事は無事終えた、それよりリリー、身体は、何処か異常は、今朝は肝が冷えた、いや元気になって良かった、大丈夫か?」
思った事を全て口にすると彼女は目を丸くして驚き、そしてクスクス笑い出す
「やだヴィー落ち着いて、貧血だって言ったじゃない、大丈夫よ、今ベッドに居るのも私は大丈夫だって言ったのに、誰も此処から出る事を許してくれないのよ?」
大袈裟なのよ、と笑うリリーに心底安堵する、だが
「ジェレミアが何か意味深にリリーに直接聞けと・・・」
「あ、そ、それはね、」
様子がおかしくなるリリアン
「ヴィルヘルム様、あのね、落ち着いて聞いて欲しい事があるの・・・」
また不安が顔を出す
「リリー、なんだ・・・」
「あの、、あの、ね、、、、ゃんが、・・・たの」
俯いて、蚊の鳴くような声で言われ内容を聞き取れない
「なに?すまない、もう一度言ってくれるか」
とベッド上の彼女の横に寄り添う
・・・
「赤ちゃんが、出来たみたいなの・・・」
「・・・」
「ヴィー?」
その時、ヴィルヘルムの世界は確かに停止した。




