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原作者の異世界降臨~大人気アニメの世界に転生したけど、原作者だから今後の展開は読めます~  作者: 初凪 旭
葛藤

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012.実演魔法水球生成

 ルザが翳した手のひらから、薄っすらと靄が出ている。非常に薄い水色の陽炎のような靄だ。



「今、手のひらの前でもやもやしているのがわかるかな?」


「うん!へんなかんじ!」


「なに、これ?」



 オネネヴは興味津々、オネゥケプは恐る恐るといった風に返事をする。



「これはね、体の中にある魔力が、体の外にある魔力と混ざると見えるものなの」


「まりょく、ってなに?」


「魔力っていうのはね、魔法を使うための力なの。そこら中にいっぱいあるし、生き物の体の中にもある。だけど、目に見えないし、触っても何も感じないの」


「えー、でも、今まりょく見えてるよ?」


「そう。今見えてるのも、魔力であってるよ。そこら中にある魔力と、体の中にある魔力って、ちょっとだけ違うんだ。だから、体の中にある魔力を外に出してあげると、外の魔力と混ざり合って見えるようになるの」


「ほぇ~」



 理解しているのかわからない、気の抜けた返事をするオネネヴ。

 俺からすると相当噛み砕いて説明しているのがわかるが、ふたりからすると何が何だかわからないだろう。



「魔力の出し方とかは後で話すね。それで、こうやってできたもやもやを……形を整えてあげるの」


「「おお~……」」



 陽炎の様に不定形だった魔力は、凝縮され綺麗な正四面体へと姿を変えた。

 俺も内心で感嘆の声を挙げている。



「こうやって形を整えてあげたまま、神様の言葉で話してあげると、魔法が起こるんだ。じゃあ、見ててね……」



 神様の言葉。ラギツェヴニ司教も魔法を使う時に行った、詠唱だ。神代言語と呼ばれる言語体系で、厳密には神様の言葉ではないのだが……子供向けに、噛み砕いているだけだろう。

 ルザは目を瞑ったまま、言葉を紡ぐ。



「『zív kilettgem gnirek』」

「『bmög kiláv』」

「『daram』」

「『Esurafuomu tírobeb』」



 流暢な発音で流れるように詠唱する。

 正四面体は、透明な水の球へと姿を変え、空中に浮かぶ。



「「「おお~……!!」」」



 ついふたりと一緒に声を出してしまった。

 ルザは少し得意げな顔をしている。正直発音も完璧だし、正四面体の形が綺麗だったのも驚いた。



「これが、一番安全な『水球生成』の魔法だよ。わかりやすいようにちょっとだけ変えたけどね」


「やってみたい!」


「わたし、も」


「ふふ、じゃあ、今日は頑張ってこれができるようになろっか」


「「うん!」」



 微笑ましい光景だ。初めて目にする魔法に興奮し、元気に返事をするふたり。

 俺はそれを眺めるだけにする。いや、使いたいけど、流石に使ったら不自然だし……そもそも詠唱で舌が回らない。

 ルザが行った詠唱も、原理は俺が考えている。当然その内容も理解はできるが、詠唱は発音が大事だ。

 無詠唱の魔法なら出来ると思うけど、今後も目立つからやらない。出来る人は出来る程度の技術だが、ちゃんと学んでいるという前提が必要なのだ。



「じゃあまず、体の中の魔力を外に出す方法からだね。さっき言ったように、魔力は目に見えないし、触ってもわからない。だから、体の中にある魔力を自分で動かすのは、出来ないことだって言われているんだ」



 思わずドキッとする。ルザはこちらを見ていないので、俺に向けた言葉ではないだろう。

 ルザの言う通り、俺が今も行っている魔力操作は、この世界では現状知られていない技術である。

 こっちを見ているラギツェヴニ司教は俺が今も魔力を動かしていることに気付いているだろうが、今更である。正直そこはもう吹っ切れた。



「だけど、魔力を体の外に出すだけだったら、誰でも出来るの。考え方次第で簡単にね?魔力は体の中と外でちょっと違うって言ったけど、実は通り道を作ってあげたら魔力は外に行こうとするんだ。手を出してみて?」


「「こう?」」


「そうそう。そのまま、体の中にある水が外に飛び出しちゃう『穴』が、手のひらの先に開いているって想像してみて?」


「ん……あっ!出て、あれ?」


「こう……?」


 

 オネネヴの手のひらの先に、一瞬靄が出てきたかと思えば、すぐに消えてしまった。

 対するオネゥケプは、真剣な表情で靄を出して、先ほどのルザのように維持できている。

 実際にこれはルザの言う通り簡単な技術だ。だからこそ、維持に差はあれどふたりとも一発で成功した。

 

 体内の魔力、この世界ではそのまま『体内魔力』と呼ばれているそれは、肉体表面を外殻として内包されていると考えられている。だが実際には、『自己と外界を隔てる無意識下の自己認識』という概念が、実際の体内魔力の外殻となる。皮膚の下に魔力が存在する訳ではないのだ。

 そこに意識して穴を開けるイメージをすることで、体内魔力の通り道が出来上がる。

 後は、体外に存在する魔力、『外魔力』と呼ばれるそれとの性質の違いによって、通り道を通って体内魔力が外魔力の方へ流れていくから、魔力の動きは把握しなくても良いという仕組みである。



「穴が開いている想像を続けないと、今みたいにすぐ閉じちゃうの。で、閉じちゃうともやもやが維持できなくなっちゃうんだ」


「わかった……むむむ」



 オネネヴは難しそうな顔をしながらも、靄を維持することに成功した。

 オネゥケプは続く指示を無言で待っている。



「次に、このもやもやの形を整えてあげるの。ちょっと、反対の手で触ってみて?」


「おお……」


「わっ!変な感じ!」



 ふたりは言われるままに、靄を出しているのとは反対の手で靄を触り始める。不定形のそれは、ふたりの手に触れて変形する。『触れた感覚はほとんどしない』という設定ではあるが、どんな感触なのか気になる。触ってみたい……が、今は我慢だ。

 体内魔力と外魔力が混ざって出来る靄は、この世界で『魔力固体』と呼ばれている。この魔力固体は、体内魔力の外殻である自己認識を通過しない。つまり触れれば動くのだ。



「慣れないうちは、こうやって手で形を整えてあげると良いけど、慣れたら触らなくてもできるの。形が変わるように意識して……こんな風に」



 ルザはそう言って、魔力固体の形を正四面体へと変形させた。

 体内魔力よりも、維持している魔力固体の方が、本人の意思を反映させやすいという特徴がある。

 そのため、魔力を動かせなくても魔力固体の形状を変化させることができるのだ。

 また、魔力固体は最初に出した場所へ留まろうとする性質がある。そのため、手で押しても大きく移動しないので、反対の手で形状を整えることができるのだ。


 俺が前世で設定した通りの魔力理論が、今目の前で繰り広げられている。

 その事実に、俺のテンションは非常に高くなっていた。表情には出さないが、内心が早口で説明するオタクのようになってしまう。

 その理論を提唱したのは私なのですが……みたいな、大学教授が学生の発表を見守る気分になるのだ。少しくらいは許してほしいものだ。


 

「こんな、感じ?」


「え、すごい!もうできるようになったんだ!」


「……すごいね、ここまでとは……」



 オネネヴが魔力固体を揉んで形を整えている間、オネゥケプは真剣な顔をしていた。

 かと思えば、オネゥケプの維持していた魔力固体が、ひとりでに形を変えていく。

 完璧とは言えないまでも、四面体がそこに形成されていた。

 闇の神の注目を受けているオネゥケプの才能の一端に、ルザも目を見開いている。圧倒的な才能を目の前にして、彼女が何を思うのか。

 オネゥケプとオネネヴは気付いていないようだが、ルザが少しだけ眉を顰めたのが分かってしまった。



「うん。形はそんな感じ。オネネヴちゃんも、慣れたら触らなくてもできるようになるからね」


「うん!オネゥケプ、ほんとすごい!ぜったい英雄オルゲンみたいになれるよ!」


「それは、わかんないけど……えへへ」



 気だるげで無表情に近いオネゥケプは、褒められて頬を緩めていた。

 可愛いものである。



「次に、この形を維持したまま神様の言葉を話せば、魔法が発動するの。私がゆっくり一文ずつ言うから、それに続いてね?」


「わかった!」


「わかった……」


「それじゃあ……ズィーヴ、キレッテゲム、グニレク」


「「ずぃーぶ、きれってげむ、ぐにれく」」


 その言葉で、魔力固体は青く変色する。


「ブモグ、キラーヴ」


「「ぶもぐ、きらーぶ」」


 変色した魔力固体は、球状へとその形を変えた。


「ダラム」


「「だらむ」」


 ゆらゆらと動いていた球は、その一言で動きを止める。


「エスラフオム、ティーロベブ」


「「えすらふおむ、てぃーろべぶ」」


 最後にその言葉を発した瞬間に、球状に変形した魔力固体は、水の塊となった。



 ルザが維持する水球は、揺らぎのない綺麗な球をしている。

 対するオネネヴたちが出した水の球は、最初こそ水の球として現出したものの、すぐに形は崩れ地面に落ちてしまった。

 だが、それでも魔法が使えたという喜びが大きいのか、ふたりは目を輝かせている。



「できた!」


「これが……まほう……!」



 オネネヴは無邪気に飛び跳ね、オネゥケプは何かを掴んだかのように手を見つめる。

 教わり始めて初日、それも最初の詠唱で魔法を発動できるとは……オネゥケプはともかく、オネネヴまで魔法を簡単に使えている。



 剣一筋で生きていたオネネヴは、その剣術で魔物を切り裂く。

 魔法を扱わぬ、美麗な剣技を持った薬師を目指す少女。

 そんな原作の流れが変わろうとしていることに気付き……俺は、背筋に冷たい汗が流れる感覚を味わった。

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