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第7番  人魚の歌を聞く方法


 サーシャが第二大陸の神子の場所を察知できたことも驚いたが、まさか夢を渡って会話をしてしまうとは更に驚きだった。

 俺の長い人生でも神子を直接目にしたことは5回ほど、その中でも会話らしい会話をしたのは2人だけだ。それほど貴重な人材が今は真横で安らかに寝息を立てていること、普通はありえないんだけどな。


「それで?サーシャがここの神子と話をしたってことが何かなんのかよ。」


 イヌが地面に半分寝そべるような態度で話をする。もうちっとシャキッとできないのかよ。


「貴様は本当にアホだな。いいか、この国の神子様との会合に偽物を寄越されたことを神子様から直接伺えたことが第一。神子様同士が顔見知りになったことでサーシャ様が神子様の判別ができるようになったことが第二。…と言っても元から神子様同士は判別できるようだからこれは然程重要ではないか。それよりも向こうの神子様はこちらの神子様に対して友好的であった。私たちの立場はこの国に対してマイナスだったのだ。それが陸一の有力者に気に入られたこと。それだけでもプラスになるだろう。これからの作戦にどう姫様を絡めて行くのかはヘビ殿次第ではあるが、神子様同士のみでほんの少しでも前向きに友好を深めたことが我らに大きいことは流石に分かるだろう。」


 ふーん、なるほどな。とイヌが崩れた体勢のままで何かを考えるそぶりをする。あの女がいないだけでこんなにも話が進むことに軽く感動しつつ話の補足をする。


「ああ、今キツネが言ったことも大きなことだが、俺的に向こうの神子様の力の進み具合が見えたことも大きい。ま、ここからは完全な俺の憶測だから全部を真に受けずに聞いてくれ。」


 俺の説明をきちんと聞くためにかようやくイヌが体を起こして正面に座った。キツネは…いや、別にメモは取らんでもいいんだが。あ?サーシャの側近として質問に答えられるようにするため?まぁ、お前がやりたいなら好きにしてくれ。


「まず一つ目、サーシャが相手の夢に潜った時にいつもと違い景色が鮮明だったこと。相手の年齢が14って言ってただろ。おそらく夢の操作はかなりできるようになっているはずだ。ポセイドンの神子は歌が歌える齢になった頃に選ばれる。言霊を使えるものの中で一番歌が上手い者が神子となるらしいが…まぁ、それは神のみぞ知る、ってやつだな。それでも4、5歳あたりで選ばれることが多いはずだ。そう考えればおそらくここの人魚は神子になってから10年近くは経ってるだろう。国の庇護下に入ってる状況で神子の教育をしないとは思えないからな。それなりに力を使えるはずだ。」


 少し前のめり気味に話を聞いていたイヌは自分なりに考えようとしているらしい。ただ答えが出なかったのか眉間に皺を寄せた。


「神子が力を使えたら何か良いのか?」


俺はその質問にニヤリと頬を歪める。


「サーシャの話を聞く限り、この国では神子様の扱いがあまりよろしくなさそうだからな。できれば俺たちの方に来てもらいたいと思って。来てもらった時に能力があるに越した事はないだろ?」


 どういう意味だ?とイヌは悩んでいるようだったが俺は答えなかった。別にお前は知らなくても問題ないだろうし。


「で、今後我々は何をすれば良いのでしょうか。」


 きっちりとメモを取り終えたキツネから質問が飛んでくる。丸い眼鏡をかけ直しながら語る姿は真面目そのものだが意外と中身が荒い事は皆んな知ってるぞ。


「おそらくだが、明日か明後日には俺らはこの大陸から無理矢理にでも追い出されるだろう。こっちの話を聞く気はない連中だ。最悪何かしらの濡れ衣でも着せてくる可能性だってある。嫌悪は容易く悪意に変わることを忘れるな。」


 そして悪意は他人が簡単に作り出すことができる。俺はそれは長い人生で何度も痛感してんだよな。悲しいことに。


「…追い出されたら何もできねぇじゃねーか。どうすんだ?」


 イヌが頭を掻きながら質問してくる。考えるのはやめたらしい。おー、やめとけやめとけ。お前もあまり脳みそが無い方だからな。


「簡単な話だ。俺らがヒーローになれば良いだけだ。ヒーローになるなら絶対敵な悪が必要だろ?」


 そこまで聞いてようやくイヌがうへぇと嫌な顔をした。理解が早くて素晴らしい。

 反対にキツネはニヤリと含んだ笑みを漏らした。やっぱりこいつはいい根性をしている。


「お前が考えることってえげつねぇよな。」


 吐き捨てるように呟いた言葉に俺はニコニコとしながら握手のように右手を差し出した。


「よろしく、悪役ども。」


 それから暫くの間、悪役が成敗される御伽噺を三人で考え込むことになった。





 部屋の入り口を叩かれる音で顔を上げる。作戦を詰めるのに集中しすぎて時間を忘れていたのか。

 宿の者の要件は晩飯か。時間を見なくても分かるほどにかなり遅い。…客人をもてなすとは思えない時間。本当に俺らのこと舐めくさってんなコイツら。

 にしても時間が経つのは早いもので。肩をまわしながら固まった身体をほぐす。

 そういえば静かだと思ったらあの女を追い出してたんだった。それなりに時間が経っているのにまだ帰ってきてないな。探すのは面倒だがあいつを置いて飯を食った方が面倒くさいことになりそうだ。


「俺はあの女を見つけてくるからお前らは先に食っててくれ。」


 立ち上がって伸びをすればバキバキと音が鳴りそうだ。イヌもキツネもそれぞれが体を伸ばしている。

 宿の者にそのまま部屋に食い物を運ぶよう頼みつつ俺は宿の外に出る。ったく、こんな時間に外に出て帰ってこないなんて何考えてんだあの女は。まぁ、追い出したのは俺だけど。

 あいつはいっつもフラフラしやがるので最近すぐに場所がわかるように俺の陣を込めたペンダントを付けさせた。イヌの首輪と同じだな。


 女の痕跡を追って街中を歩く。追い始めて早々に呆れた深い溜め息が漏れた。あいつなんでこんなフラフラしてんだ?ってくらいウロチョロしてやがる。流石にキレるぞ。

 長いこと歩くのは面倒だったので風魔法で上空を飛んで探すか。飛ばなきゃめんどくさいくらいウロチョロするあいつの体力は本当に化け物じみてやがることで。

 

 町外れの海に通じる道の途中、結構な人数の気配に気がつく。存在希薄をかけて草陰に隠れた。少し遠いが、何とか見えそうな距離だ。その連中を聴覚と視覚を上げて観察する。何か言い争いをしているのか。


「何であの女を撃ったんですか⁈ニンゲンだとしても!俺らはあの女が敵が味方かも分かってなかった!しかもあの女は俺らの目の前で同胞を守ったじゃないですか!それはあんたも見てただろ⁈なぁ!何で何も言わねぇんだよ!おい!リーダー!」


 ここからでは状況がよくわからん。若そうな人魚の青年が壮年の人魚に飛びかかりそうなのを何人かの人魚が止めている。

 少し離れた所には子供も含めた女の人魚が毛布みたいなものを被っているな。女、子供を含めても20人も居ないような集団だったが…嫌な予感しかしない。あの女を撃ったとか何とか言ったな。俺が探す女の余韻がそこらに纏わりついてやがるのは無関係じゃない…よな…。

 はぁ、と大きなため息を吐いてここから離れることを先決する。あの何があっても死にそうにない女に何かある方が考えずらい。どうせまた変なことに首でも突っ込んだんだろう。


「…⁈誰だ!」


 先ほどまで何にも喋る様子のなかったリーダーと呼ばれていた男がこちらに向けて魔水銃を撃ちやがった。うっそだろ、こっちは存在希薄してるってのに気がつきやがった。

 当たることはなかったがこれ以上ここにいるのはまずい。俺は近くに転移してそのままそこから離れた。






「…気のせいか?」


 草木の隙間から誰かがこちらに視線を向けている気がしたがただの思い過ごしだったらしい。このところ気の立つことばかりで少し敏感になっているのだろう。

 小さく息を吐いてリーダーと呼ばれる男は己の銃を下げると目の前の青年に向き直った。まだ若く愚かな青年。

 自分にもがむしゃらに突き進んだ歳があった。それがどれだけ愚かな事か、目の前の青年にはまだそれがわかるまい。

 もしも愚かな道を見てしまっているのなら目を背けさせるのは早い方がいい。俺たちの様になる前に。

 何人もの同胞にはがいじめにされたままの青年の目の前に立つ。


「おいリーダー!…グッ…⁈ガハッ……なん……で…」


 青年の腹に躊躇なく拳を叩き込むと倒れ込む様子を見ることもなく踵を返して歩き出す。


「そいつはアジトで寝かしておけ。今のままでは邪魔なだけだ。」


 若いというのは強みだが、一生を歪める歳でもある。リーダーは無意識に自分の顔半分を占める傷を触りながら暗闇を歩いた。

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