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破壊神と呼ばれた私は!  作者: 米田いすき
第一章 幼き母と子守唄
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第39話 泣かれるのが鬱陶しかっただけだ。


「いいか、明日の朝からいよいよグズリアに入る。詳しく流れを説明をするからちゃんと聞けよ。」


 お前のことだよ、という意味で女の顔を見たのだが腹の立つ顔で親指を立てて頷いている。その自信はどこから来るんだよおい。


 宿に帰ってから夜になった頃、ようやく起きたサーシャは最初落ち込んでいるように見えていた。だが纏められた髪に気がついてからは嬉しげにはにかんだ顔で髪留めを何度も撫でていた。

 まあ、気に入ったようで何よりだな。その後ろでニヨニヨ笑っている女は至極腹が立ったのでとりあえず身体強化して殴っといた。身体強化して殴って初めて痛がるなんてほんとにどんな体してんだか。


「いいか、グズリアは今はほとんど外界と接触を断っている。情報がかなり少ない。それを踏まえてどんな物事にも柔軟に対応できるようにして置いてくれ。」


 流石にふざけていられないと思ったのか少しばかり女の顔が引き締まる。いや、ちゃんと出来んなら最初っからしておけよバカ。


「サーシャ、俺は俺なりに最善を尽くすつもりだ。それでも完全に思い通りには行かないだろう。何かあってもまずは自分を大事にしろ。お前に何かあればそれは完全に本末転倒だからな。」


 サーシャは不安そうな、泣きそうな顔で、それでも何も言わずに頷いた。

 サーシャは賢いがそれでもまだ幼い。昨日の様子からみても精神的にもかなり追い詰められている。何をしでかしたとしてもおかしくは無いからな。

 そのサーシャを心配そうに撫でる女。俺としちゃぁ正直お前の方が心配だぞ。やっぱこの二人置いていった方が良いんだろうか…。いや、この女は力の部分ではかなりの戦力だし、サーシャは目醒めて無いとはいえ神子には変わりは無い。置いていく方がリスキーか…

 ここ数日悩んでいる事柄だというのにいまだに不安が拭えない。そりゃ今からすることは国家を揺るがす大犯罪になる可能性しかないわけで、それが大々的に世間に知れ渡ればどんな足枷になるかわかったもんじゃない。俺は顔を変えれば問題はないがこの二人はそう簡単に行かんだろう。最悪サーシャに二度と自由は与えられなくなることもある。

 もういいや。なんか失敗したら全部ほっぽって逃げてやろう。

 深くため息をついて二人を眺める。なんで俺は今こんなことになってるのやら…


 グズリアは10数年前から今現在まで鎖国状態が続いている。クモですら現在の明確な情報は持っていなかった。

 ただわかっているのは今の国王がかなりのゴミクズ野郎だという話。そのクズを裏で手を引いている更にやばいやつがいるらしい、と言ったところだ。

 十中八九、そいつら周辺がサーシャをこうしたんだろう。奴隷国家だけあって位が上のものになればなるほど奴隷の質を求める。魚人も獣人も妖精族も天人族ですら求める奴らだ。そんな国のトップにいる奴が持つ奴隷にサーシャは相応しい、って考えたんだろう。

 アホかバカか。自分で言ってて信じられん。神子相手にどうやったらそんな思考になるんだよボケ。


 色々考えていたら頭が痛くなってきた。そんないかれた国に今から俺らは喧嘩を売りに行くのか…。

 大きく息を吐いて前を見据える。もういい、何度目か分からない諦めに似た状態で腹を括った。


「いいか、よく聞け。これから先はできる限り迅速に最低限の行動で。逃げる手筈は整ってる。最重要事項はサーシャの奴隷契約の破棄、それも命あっての物種ってことも忘れんな。」


 実際に国の中に入って情報を集めないことには確実な作戦とは言えないが、あまり長期戦には出来ない。それに一々作戦を立てている暇は無いかもしれない。ここで立てた作戦を基本にしてその場で対応していくのが最善策だろう。


「まず俺たちは商人のフリをして国に入る。そのフリができるほどの素材は有り余るほど持ってるし、商人手形も手に入れてるからな。そこは簡単に誤魔化せるだろう。そんで一番の目玉としてサーシャを差し出す。サーシャを逃した奴らは血眼で探しているはずだ。この世界で一番珍しい奴隷を返しにきた、とでも言えば必ず目的の奴は向こうから来る。そこからが勝負だ。サーシャ。」


 サーシャはビクッと体を竦ませたが目は逸らさなかった。よし、怖いのも辛いのも当たり前だ。この幼い少女は地獄に戻れと言われているのだから。


「サーシャ、俺は強要はしないしこれしか案が無いとも言わない。お前は頭がいいし自分で考えられる。この先が辛いことも…仮に失敗した時のことも、理解してるだろう。お前は、どうしたい?」


 必死で震える手を胸元で抑えている。隣の女もぎゅっと膝の上で拳を握って、我慢をしている表情だ。これはサーシャの戦いであることを流石のバカでも理解しているのだろう。

 ほんの少しの静寂のあと小さく深呼吸の音が聞こえた。こちらを見たサーシャは新緑の瞳を強く輝かせていた。


「…マイラスが提案した作戦なら、それが一番早くて確実なんでしょ?だったら私…行く。怖いけど、大丈夫。私、まだ一人だと弱くて何も出来ないけど…それでも…私、みんなを助けたいから!」


 胸元に握りしめていた手から蒼い焔が広がった。首からいつも掛けている小袋の中の不死鳥の卵がサーシャの意志に呼応しているのだろう。

 不死鳥の目覚めはガイアの神子の目醒めを意味する。ただしそれは身体よりも心の成長が大きい。過去の神子の中には心が成長せずいつまでも卵のままの神子もいたらしい。

 だがこの様子を見ると不死鳥の目覚めは近いはずだ。残念ながら今回の作戦には間に合うことはないだろうが不完全な目醒めといえ、不死鳥の癒しの焔が大きな力なことに違いはない。


「サーシャいいか、よく聞け。俺らはあくまでサポートだ。一番お前が頑張らないといけない。何かあれば必ず助けてやるからお前が今出来る精一杯の力を出せ。」


 蒼い焔に囲まれたサーシャは少し穏やかな表情になっていた。手の震えもいつの間にか止まり、血の気のなかった頬がうっすらと赤く色づいている。不死鳥は心の傷も癒すのかもしれない。

 そんな空気をぶち壊すように後ろの女が焔を突いて驚いた顔をしてるのは放っておこう。熱くない?とか小声で言っているのも聞こえるが無視だ無視。

少しして焔が落ち着いてから話の続きをする。


「おい、今回はお前にも役がある。かなり重要でお前にしてはかなり難しいとは思うが絶対にヘマすんなよ。」


 自分に役目があるとは思っていなかったのか、意外そうな顔でこちらをじっくりと見つめてくる。その後すぐに餌でももらった犬のような笑顔になった。

 この女は黙ってても表情も存在もうるさい。はぁ…いつものことだがそのアホヅラを凄く殴りたい。


「いいか、頭に叩き込めよアホ。」


 作戦としては単純だ。サーシャを引き渡した後に雑魚どもの相手を女が引きつけて、その間に俺が奴隷契約印書を探し出して壊す。ほら簡単だ。

 こんなにうまくいくわけがないだろうがこいつらに話す内容はこんなもんでいいだろ。

 最悪どうしようも無くなったら女に精一杯暴れて貰ってその間にサーシャと俺は逃げる。この女はそう簡単に死なないだろう。むしろどうやったら死ぬのか俺が聞きたいくらいだ。


「最悪今回失敗しても次はある、なんてあまい考えはやめろ。何があるかは分からない場所だ。もし次が必要になれば侵入すら難しくなるかもしれない。」


 サーシャも女も珍しいほどに険しい顔になる。気はどんなに引き締めても損はない。


「ま、あまりにガチガチの状態になってもうまくいかないか。どうなっても俺がサポートしてやるからお前らは自分のできる精一杯をやれ。」


 こんぐらいでいいか。あんまり下手なことを言うのも面倒臭いしな。


「さて、何故かここまで長かった気がするが…ようやく本番だ。いくぞ、奴隷国家グズリアに。」



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