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破壊神と呼ばれた私は!  作者: 米田いすき
第一章 幼き母と子守唄
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第37話 ガキのくせに酒飲むのかとかは無しな


「そんでお前さんは急に何しに来たってんだ?ここ…70年くらいか?一回も顔を見せになんざ来たことないじゃねぇか。お前さんは一体何者ってんだ?」


 酒が回ってきたのか昔話に少々のケリがついたあたりから大分と饒舌になり始めている。俺も嗜む程度に酒を舐めているわけだが一応毒耐性で体にアルコールが回らないようにしている。これでもまだ年端のいかないガキなもんでな。


「そうか、そんなに経つか。お前もヨボヨボになるってもんだな。80近いジジイの動きじゃねぇけどな。」


 話を変えようとしたのに気がついたのかあからさまに嫌そうな顔をした。だてに歳を食っただけの生き方をしてきたわけじゃないらしい。


「…お前さんにも色々あるってこたぁわかるさ。こんな老ぼれよりも長い人生を生きてんだろうよ。何もかんも無理やり言えとは言わんが…ちったぁ、あの世に行く土産くれたっていいじゃねぇか。」


 そこまで言って勢いよく何度目か分からない酒を煽った。それを見た横に控えていた頭領(仮)が止めようとして頭を勢いよく叩かれている。それにしても顔がパンパンに腫れていて痛々しいなー。


「お前なぁ、ジジイの自覚あんなら酒もほどほどにしとけよ。…いやな、言いたくない訳じゃないんだよ。言えないことが多いだけで。でもまあ、言わないと始まんないことも多いし、出来る限りは話させてもらう。」


 そこまで言って俺も大分減った手元の酒を舐めた。俺も少しばかり酒に酔っているんだろうか。


「ここに来た一番の目的はこいつなんだよ。」


 楽しい昔話はここまでか。本来の目的、アイテムボックスからサーシャの呪印の写しを取り出す。


「こいつはここから流れて来たもんのはずだ。まずはどいつに売ったか、教えてくんねぇか。」


 俺の手元の紙をチラリと見てすぐに目を逸らす。その顔は随分と苦々しげだった。


「こいつは…お前さん、昔のよしみじゃから言うんだが、…首を突っ込まんほうがいいと、ワシは思うでな。この国に収まるものじゃない、えらい面倒ことじゃぞ。」


 今までの覇気がどこに行ったのか妙に暗い雰囲気だ。それだけの面倒ごとだという事が痛いほど伝わる。


「グズリアだろ。国を跨いでこんなもん売るなんざなんかあるのは重々承知だ。…だが親父はそんな危うい商売は嫌うタチだっただろ。なのにお前はなんでまた見るからに危ないもんに手ぇ出したんだ。」


 さっきまでの上機嫌はどこへ言ってしまったのか。何もないどこかを見つめて口を閉ざしている。


「…ワシも手を出す気なんざなかったさ。話を聞くまでもなく断るつもりじゃった。けどなぁ、あれは言葉では現せんものがあった。この依頼を断れば…ワシだけじゃない、こいつらはみんな、土に還っておっただろう。」


 未だに酒を止めようとしている頭領(仮)を鬱陶しそうに叩いている。顔や手足の見える肌全てがボコボコに腫れている上、泣きそうなのを見ると少々不憫な気もしてきた。

 そんな頭領(仮)のことなんか気にする事もなくガルダは手元の煤けた袋からタバコを取り出して火をつける。俺にも差出してきたがそれは首を振って断った。


「だから、現在のお前は死んだことになったのか。」


 タバコの煙が部屋をぼかす。煙越しの表情からは何を思っているのかよく分からなかった。


「…色々ワシもあったのさ。あのしょうもない戦争を終えても生き残れた分、まだまだ現役だと思っとったんだがな。」


 ここからの話はまぁ、概ね予想通りだった。やばい相手から断れない依頼を受けたこいつは消される覚悟で1人で全ての仕事を請け負うことにした。そのままそこの頭領(仮)にここの全てを引き継いだ形を取って自ら命を絶った風に見せたらしい。

 この事情を全て知っているのは(仮)含めて三人のみ。お前が四人目だと笑ってやがる。はいはいありがとさん。


 そんなヘラヘラ笑った後に一息置いて、何か腹でも括ったのか少しひきしまった表情に変わった。もうほとんど消えたタバコを足下にあった缶の中に放り込む。


「おい、あれもってこい。」


 今だタバコを取り上げようとして蹴られたまま涙目だった頭領(仮)に指示を出す。だがアレがなんのことなのか分からないのか困惑顔で佇んでいた。倉庫の一番奥、電撃トラップのアイテムバックだボケ。と蹴り出されてようやく部屋から出ていった。


「あいつもワシらとおんなじ、裏街に捨てられておったガキでなぁ。ガキの頃からグズでノロマで手のかかる阿呆じゃったが…」


 そこで言葉を切ったが続きは言わなくてもなんとなくわかる。俺にも遠い昔、息子と呼べる人間がいたからな。

 扉の向こう、ドタドタと足音を響かせて(仮)が帰ってきた。せっかくアレとやらを持って来たのにそのまま部屋から再度蹴り出されたのには笑ってしまったが。


「さて、普通はこんな仕事に関わる話を他人にゃせんのだが。おまいさんは…まぁ数少なくなった昔馴染みっちゅうことで。それにワシはもう死んだ人間じゃしな。」


 死人に口なしと言うじゃろ。と、薄く悪戯小僧のような笑顔を向けた。幾つになっても変わんねぇなぁクソジジイ。

 カバンの中から初めに取り出したのは細長い棒に小さな青い魔法石のついたもの。


「どうせおまいさんのことじゃし部屋に防音魔法でも貼っておったんじゃろうが、それだけじゃあ不安だからのぉ。元々軽めの魔法阻害陣も壁に埋め込んであるが…用心に越したことはない。」


 そう言って棒を俺らが挟んでいる小さな机の中心に立てる。魔力を棒に流した途端にそこから薄い膜のような何かが俺ら2人を包む。


「へぇ、高濃度の空間認識阻害の魔法具とは珍しいもん持ってんだな。」


 ワシの魔力じゃ長くは続かんがな、と苦笑しながらバッグからいくつかに折り畳まれた紙を取り出す。


「素性もわからんような怪しい人間のために自分の命まで危険に晒すなんざワシも耄碌したもんだが…お前さんはなぜか信用しちまう。これでも人を見る目は並大抵のヤツよりはあるはずじゃ。」


 これで騙されておったらお手上げだと両手のひらをこちらに向ける。安心しろ、騙す気は今のところない。


「さてと、お前さんさっきグズリアの名前を出したが、なぜそう思った?」


 俺も易々と他人の命を賭ける趣味はないが…目の前のジジイは殺しても死ななさそうだ。


「ここ十年ほど、ガイアの神子が出てないと聞いた。」


 言葉を選んだつもりだったが予想に反して神子の単語を聞いてすぐに反応を見せたことに驚いた。


「なんじゃお前さん。神子様絡みと知っておったのか。」


 いや、お前こそどこまで知ってんだよ。グズリアなんてゴミみたいな国がそう易々と神子なんて金の卵の情報を出すとは思えない。


「まぁ、神子絡みと知っているというか…神子は今は俺と居るというか…」


 シワシワの顔をさらにしわくちゃに歪めて丸くなった目が落ちるんじゃないかと思うくらい開いていく。


「な、な、お、お前さん!そうかそうか、良かった。良かった…神子様は無事なんじゃな?お前さんが保護しておるのじゃな??」


 狭い卓の反対越しに両肩を掴まれてガッタンガッタン強く揺さぶられる。うぉっ、なんなんだよ。


「ワシみたいな人間でも仕事くらい選ぶ。初め相手に仕事を依頼されたときにある程度まで調べたんじゃ。だがそれを逆に利用されてのぉ。そのせいで優秀な部下を2人も無くしてワシは逃げ場を取られた。それで仕方なく仕事を1人でやってそのまま死んだように偽装したんじゃ。」


 そう言ってまくって見せてくれた腕には纏わりつくように黒い線が沢山這っていた。この存在希釈陣の刺青は腕だけじゃなく全身に入れられているらしい。

 体に陣を直接入れるとは…失敗すれば体が塵になってもおかしくないのに無茶やるな、と呆れたが前も後ろも死ぬならワシは前に進むだけじゃい!と、謎に自信ありげにされれば苦笑いを返すしかなかった。


「親父さんの時代は陣に関わる仕事はよそに依頼してこっちは仲介するだけだったよな。その陣は誰に任せたんだ?人体に直接彫るなんて芸当、並大抵の奴にはできねーだろ。」


 こっちは至極真っ当な疑問だったのだがなぜか複雑そうな顔をしていた。チラチラと扉の向こうに目をやる姿に衝撃を受ける。まさか…


「…あいつは本当に覇気もなくて指示も判断もできんダメなんじゃが…その…なんでか陣を描く才能だけは高くてのぉ…」


「…頭領(仮)か?」


 (仮)ってなんじゃ?と言われたが無視。人は見かけによらずとは言うが、まさか見るからにダメそうなあいつにそんな才能があったとは。


「じゃあ尚更なんであいつを頭領にしたんだ?そこまで裏方の能力があるなら表面に出すのは些かリスキー過ぎないか?」


 ワシよりも長生きしとる割には考えがまだまだひよっこだのぉ、とニヤニヤし始めて少々イラッとした。ジジイ相手でも俺はしばくときはしばくぞ。


「だからこそ表面の見えるところに置いたんじゃい。さっき2人殺されたと言うたじゃろ。その2人はワシの手だっただけあって上に置くに相応しい力があった。なのに簡単にやられてしもうた。だから隠すより大々的に世代を変えてあいつを上に置くことで手を出しにくくしたんじゃい。現にまだあいつの首は繋がっとるじゃろ。」


 あー、なるほどな。アレだけの才能を持つ者なら命を奪うには惜しいか。それに裏の世界にも仁義ってもんがある。仁義が通らないことには反感が出やすい分、流石に国絡みでもすぐに手を出されることはないのか。

 ガルダの場合は歳もあるし死んだとしてもそれほど疑問もでないか。裏社会の棟梁をやってるだけあってそういう知恵はあるんだな。


「ワシが依頼されたのは神に関わる者にでもかけられる高等奴隷印と、それを隠せなくする陣の二つじゃった。そりゃぁどんな相手にかけるのか気になるじゃろ?そんで調べてみれば神子様かけるつもりらしい。まさか神に関わる者の中でも神子様本人とは夢にも思わんかったわい。流石に断ったんじゃがその瞬間にワシの指を取られた。」


 ほれ、と差出した左手の小指はなく薬指の根元には深そうな傷跡があった。


「ここらではうちの陣術に敵うやつはおらんからの。相手も必死じゃったんじゃろう。」


 だからといっておい先短いジジイの指はとらんでもええじゃろうにとカラカラ笑う。いや、笑い事じゃねーし。


「ちなみにだがその陣はこちらから解くことはできるか?」


 ほとんど期待はしていなかったがやはりその言葉には力無く首を横に振った。


「最初は保険として契約破棄をこちらからもできるようにしたかったんじゃが、バレてしもうてのぉ。結局は契約破棄できるのは主人のみにされてしもうた。」


 チッ、ここで破棄ができるなら楽だとは思ったがやっぱそう簡単には運ばないか。神子に奴隷印をつけるとは本当にアホでバカで大愚か者なゴミとしか言いようのない所業な訳なんだが、


「一体そんなアホなことをしたのは誰なんだ?」


その俺の言葉にも力無く首をふる。


「口結びで縛られておる。ワシの口からはどうしても言えん。」


 やっぱそうだろうな。でもあらかたの目星は付けられる。ここまで口を閉ざさせることがある意味証拠だバカめ。


「貴族よりも…上、か…?」


 コチラをじっと見つめるだけで何も言わない。俺はその目に頷き返した。


「何かあったら俺に言え。まぁ、手を貸してやらんこともない。」


 古い顔馴染みとしてな。その俺に対して意外な事にガルダは深々と頭をさげた。


「ここの奴らを。バカ息子を、頼む。」


 それはガルダに何かあったとき、と言うことは何も言わなくとも互いに理解はしていた。ガルダも悪ガキから1人の親になったんだな、とほんの少し時の流れに寂しさが吹いた。


 薄く部屋に広がっていた認識阻害魔法が解かれていく。おそらく体に入っている陣に常時魔力を吸われているはずだ。その上でこんな魔法を使えばかなり身体がキツいだろう。顔に疲労が浮かんでいる。仕方ないので軽めの回復魔法薬を渡した。つかジジイが酒飲んで無茶すんなよ。


「そういえば、お前なら最近オーバードーズした魔獣が増えてるのは知ってるよな。何か原因に心当たりはないのか?」


 マジックボックスからコップに水を入れて渡す。もう流石に酒はやめとけって。少々渋い顔はしたがそのまま受け取って煽った。


「…いろんな情報を集めてワシらなりの考えじゃがな。おそらく、なくなってしまったカナロム国とカナロムの木が大きな要因じゃろうな。」


 …ま、そうだよな。俺も自分用に水を用意して煽った。カナロムのもう見ることはできない赤い大きな美しい葉を思い出す。


「あくまで老いぼれの世迷言として聞け。いいか、この大陸には大地の神がおる。ガイア様が大地を育てている分、大地には強い魔力がある。蜘蛛の森とここらの土地とで魔力濃度に違いがあることは皆が知っておる常識じゃ。だからこそ魔力が高いあの森の魔獣は手におえんしワシらはここで生きていける。それはここの土地だけが元々魔力が少なく、初代の国を建てた神子様がそういう土地を選んだから、と言うのが定説じゃったが…ワシは違う気がしてならんのだ。」


 ゾワリとした嫌な感覚が背中にのぼる。この大陸のほとんどのものがそれを定説に生きている。何が事実だろうと安寧に暮らせればそれが事実だからだ。

 その安寧が消えた今、事実に気がついたものはどれだけいるんだろうか。


「もし、もしもじゃ。今までもよく議論に上がっておったろう。色は違うが、あのカナロムの木に茂る葉は魔力喰いの木のトワルの葉と形がよう似ておる。色も大きさも違えどあのカナロムの象徴が何か大きな役割を担っておったのなら…ワシらは何か大きな過ちを、二度と取り戻せぬ何かを犯してしまったのかもしれん。」


 俺は何も答えずに手元の水を揺らした。国一つが消え取り返しがつかなくなってようやく結論を出す者は多いだろう。

 失って初めて気がつくなど、それはあまりにも愚かな事ではないだろうか。


 そんな思考を遮るように体に信号が走った。これは部屋に仕掛けてきたトラップに誰かが引っかかったことを表すものだ。チッ、俺の時間を邪魔しやがって。


「悪りぃガルダ、ちょっと用事ができちまった。そう遠くないうちにまた来たいが…お前今は存在を隠してんだろ?」


 そう言ってアイテムボックスから手のひらサイズのメモ帳と形だけはペンに見える石のような手触りの棒を渡す。


「なっ、お前さんこれは。」


 コチラを見たガルダはまた悪い顔になっていた。


「むか〜しは、これでよくいたずらをしたもんだよな。まさか忘れたとは言わないよな?」


 この魔道具は俺が昔作ったものだ。二対に分かれたこれはどちらかに書いた文字が相手のメモ帳にも浮かび上がる。単純な構造な分、距離関係なしにいつどこに居ても使えるように作るのは大変だった。


「それとこれ、持っててくれないか?」


 ついでにもう一つ、手のひらサイズの薄い木を真ん中で割って本のように開いたり閉じたりできるようにしたものを渡す。陣書と作りは似ているが俺の特注品だ。


「それを持っていてくれればある程度の距離なら少々のズレはあってもそこに座標を定めて転移ができる。何かあったらメモで言え。暇だったら来てやるよ。」


 手のひらのそれらをしげしげと眺めていたガルダは悔しそうに舌打ちをした。


「チッ、伝言帳はお主が昔に見せてくれてからワシも作りたくて頑張っておったのにこんな技術の高いもんできるわけがなかったわい!この天才めが!!死ぬまでに作ってやるから待っておれ!」


 おーおー、そりゃ楽しみにさせてもらうよ。そう時間は残ってないだろうしなぁ。

 そんな見えすいた煽りにまた鋭い杖が襲ってくる。何でこいつといいお転婆姫といい口より先に手が出るんだよ。スレスレで避けながらこいつらの部下は大変だなとしみじみ思う。

 じゃ、俺は早く宿に戻らねえといけねえから。と転移を発動しようとしたとこで待ったをかけられる。


「お前さん、今はなんと名乗っておるんだ?」


 そうか、今の名前はまだ名乗っていなかったか。なんとなくニヤリと笑う。


「マイラスだ。じゃーまたな。」


 転移するあたりでガルダが体の陣を発動したのが見えた。なるほど、あんだけ存在希釈できれば同じ部屋に入るまで気がつけないわけだ。

 昔馴染みと当分は連絡が取れそうな事にほんの少しだけ安堵した。


 青白い光が消えて宿の中に転移が終わる。思ったより長いこと話し込んでしまっていたらしい。外は真っ暗で部屋の中に備え付けの魔光石だけでは薄暗くなってしまっている。

 手持ちの魔光石に光を灯してようやく部屋の中に目が行き渡る。


「あ、マイくんおかえり〜。」


「マイラスぅ…」


 壁に逆さの状態で張り付く女とその前で半べそをかいているサーシャがいた。あ〜…女が帰ってくることを考えるのを忘れていた。

 トラップにかかった獲物は呑気な顔で逆さのまま手をひらひらと降る。その耳には見知らぬ飾りが光っていた。あれだけ渋ったくせに結局外は楽しんで来たらしい。

 じゃなかった、その…なんだ、とりあえず…


「すまん。」


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