第20話 うわぁ、この壁高いね〜
門から見えない程度の場所に降ろせとは言ったが流石に遠くねえか?とはなんとなく言い出せずにひたすらに歩く。
自分は今、周りから見れば青年の容貌に見えているはずだ。というよりも女の髪の毛のように魔法でそう見えるようにしているだけとは違い、俺は物質自体変えている。
女の髪は幻覚に近く、髪自体の質は何一つ変えていない。俺は自身の体積に魔素を練り込み物質の体積を一つ一つ増やしている。だから体重自体は前とほぼ変わらないが触った感じに違和感はないはずだ。今までが萎んだ風船なら風船の中に空気を入れて体積を量増ししているようなものだな。
いや、詳しい話は置いておいて。もう一度〈探索魔法〉をかけてみるもやはり城壁内の人数は変わらない。すこーしだけ嫌な予感もするが…あまりここで時間をかけたくない。これから先の方が大変なことは明確なんだ。それならいっそゴリ押しで切り抜けてしまいたい。まあぶっちゃけ面倒くさいだけだがな。
後ろについてくる女に目をやる。光るようなオレンジの髪ではなく今はありふれた茶色の髪をしている。流石にあの色のままは目立ちすぎて危険だ。できる限りのリスクを減らしてできることなら何事もなく帰りたい。そんなこと無理なのはわかってるが。
白い壁が目の前に広がり始めたのでそろそろ兵に見つかってもおかしく無い頃だ。後ろを振り返ることなく2人に声をかける。
「そろそろ相手様にも俺たちの存在が見え始める頃だ。作戦通り気を引き締めていくぞ。」
[そんでこっからは何かあれば〈思念〉で指示を出す。相手には聞こえてないから変な反応するなよ。]
2人の脳に直接言葉を送る。小さくうぉっ⁈というのが後ろから聞こえたが無視する。まあ脳みそに響くような声は身構えていなければ少々不快だからな。
[…言っとくが俺の声を届けてるだけでお前らの声は届かないからな?]
後ろは見ていないが恐らく肩を落とした女がいるだろう。見なくてもわかる。多分自分の声も俺に届くだろうかと挑戦してみたはずだ。この女はそういう奴だ。
豆粒のように見えていた門が相応のサイズになり壁兵の顔もわかるようになってきた。
〈遠眼〉という簡単な魔法を使って視力を上げる。やはり門兵はこちらに気が付いたのか訝しげな顔をしている。
「…おい止まれ!!」
疲れている風に見せるためにわざと少しよろけながら近づく。案の定止められたので大人しく立ち止まった。
格子状になった扉の向こうで門兵が訝しげな顔をしている。格子状のとびらを通り普通の重たい石の扉を抜ければようやく国の中に入ったと言えるだろう。
[お前らは何も喋るな。俯いて暗い顔しとけ。]
後ろを気にする余裕はない。ならば後ろに目が行かないようにすれば良い。そのために俺は疲れ切った不幸な青年になれば良いだけだ。
「…こんな森で何をしている。貴様…冒険者か?ギルド証を出せ。」
ここまでは普通のやりとりだ。何も問題はない。むしろこんな僻地の門兵が職務を全うしようとしていて驚くくらいだ。
「じ、実は、確かに冒険者なのですが…その…数日前に森に入ったものの…デーモンスパイダーに遭遇してしまい…仲間も、荷物も失って…今はもう…助かったのはこの彼女とたまたま森の中で拾った奴隷の娘しか持っていません。食べ物を採るのも一苦労で…ようやく、ここまで…」
そこまで言って体を震わせつつ体温を下げて顔を青白く見せる。まあ正直ここまでしなくても金で黙らせるからいいんだが雰囲気くらい作りたい。
チラリと門兵の方を見ると2人のうち片方は同情的な目をしてくれている。もう1人は眉を上げたまま。こんな怪しい奴に同情を向けるとは最初の奴は中々にアホそうだ。まだ訝しんでいるこいつの方が仕事できるだろう。
「…ここ数日そんなパーティが出入りしたという記述はない。それに小娘の奴隷を連れた奴も出入りしていないはずだ。」
チッ、似たようなパーティが通ってくれてたら簡単だったのに。つかこんな辺鄙な場所で働かされている兵ならもっと仕事が適当なはずだが…珍しいほどにまともな奴だ。
「えっ、その、かなり大変だったので森で迷っていた期間が違うのかもしれません…下手したら一月近いのかも…」
と言いつつよろよろと衛兵の前に立つ。不審がってはいるようだが剣に手をかける素振りはない。こんな青い坊主1人くらいどうとでもできると思っているのだろう。そちらの方が都合がいいのでそのままにしておく。
格子に顔がつきそうなほど近づいて仕事ができそうな方の門兵にだけ聞こえるように風を操り声を送る。
「…あなた達はボロボロになったパーティの生き残りを通すだけ、別におかしいことは何一つないですよ?若さゆえに力を過信して荷物も仲間も失った愚かな少年少女を哀れなものを見る目で見ればいいだけ。ね?」
いきなり変わった声のトーンにかなりびくついたが声を出すことはない。耳は貸してくれているようだ。よし、いける。
最後の一押しと言わんばかりに、男の前に懐から出した手のひらサイズの袋をチラつかせる。歪んでいた眉毛がピクリと動く。もう少しだ。
格子から手を伸ばし男の手に袋を握らせる。
「僕たちは少しでも早くこの森から出たいんです。…お願いします。」
疲れ切った雰囲気で懇願する。門兵は袋の中身を除くと口先を緩めた。
「…そのようだな。以後は己を過信せず鍛錬に励むといい。」
はっ、ちょっろい。まあ下っ端でこんな城壁の担当にされるような兵の賃金が高いはずはないからな。たまには高い酒のんで好きな女でも買いに行けばいい。
「ありがとうございます。」
我ながら寒気のする声だ。気色悪い。後ろを振り向くことなく目線だけ動かすと女もサーシャも俯いている。よし、良いぞ。下手な言動は矛盾を生みやすい。何もしないでくれるのが正解だ。
…おい、女、よく見たらその顔はなんなんだ。眉毛を下げて真ん中に寄せつつ口もキュッと中央に寄せている。干果物みたいになってるじゃないか。衛兵の方が身長高いおかげで見えてないのが救いだが…困り顔…にも見えなくはないがどう考えても馬鹿にしている顔だ。
[おい、変な顔しなくていいから普通の顔でそのまま俯いとけアホ。]
思わず思念をとばすくらいには腹立つ顔だった。
「よし、今門を開けるから少し待て。」
そう言って門兵がレバーに手をかけようとした時、それを制するように声が聞こえた。
「…一体何の騒ぎで…なんですかこの女。」
思わず舌打ちしそうになったのをかろうじて止めた。
門兵達の真横の薄暗い先にある扉から、茶と金の中間のような色に毛先が白の髪の男が出てきた。
歳は四十半ばに見える。丸眼鏡の奥に切長の目、短く整えた髪と顎髭。薄い鎧で固めた格好で特別体格が良いとは思えない。だが、左腕についた数ある腕章が階級の高さを表している。
位としては上から4番目か。まあそれ以上の実力は持っていそうだが…案外簡単に行きそうだったのに横槍が入った。めんどくせぇ。
「はっ!森の中を迷っていたハンターが通行を求めてきたようで…おそらく実力を過信しすぎた愚かな若者達でしょう。」
敬礼を崩すことなく門兵が答える。後半は少し声を落としていたが完全にバカにしている風だ。今はそれがありがたいけどな。
「…にしては……いや、まぁいい。とりあえず3人ともひどく疲れている様子です。そうですね、こちらでお話でもしませんか?」
言葉を濁しつつニッコリと微笑んだのを見て一瞬モノ言えぬ悪寒が身体を駆け巡る。普段の俺なら相手にもならないが今は少々手こずりそうだ。
あの距離から〈探索魔法〉した時に見えるのはせいぜい何人いるかくらい。その人間の力量は細かく推し量れるものではない。詳しく解析鑑定なんかしようものなら簡単に弾かれてしまうだろう。
くそッ、こんな辺境の地に来るやつなんてせいぜい将校止まりだろうとたかを括った自分をぶん殴りたい。
「おや、どうかしましたか?」
この先の行動を考えていた矢先、有無を言わさず手をかけて格子扉を開けられて思わず身構える。隙を見せるのは面倒くさそうだ。
眼鏡兵の後ろには2人、その後ろの扉の向こうに残り3人が気を張って立っているのが分かる。おそらくそれなりの手練だ。こんな僻地に一体何の用があってきたというのか。
まあいい、これは簡単には抜けられないな。
そうあっさりと結論をつけた。
[おい女。サーシャ連れて逃げろ。]
思念を送る。この女とサーシャさえいなければ俺は1人になる。そっちの方が身動きしやすい。
だが後ろからは一向に動く気配を感じない。それどころか戸惑うような気配を感じる。
[おい、何やってんだ。さっさと行け。]
少しイライラしつつ思念を送るがそれでもなお動く気配がない。何をしてんだよこいつは。
「おや、思念だなんてつれませんね。私もよろしければお話に混ぜさせていただけませんか?」
眼鏡の言葉に今度は本当に身体が跳ねた。魔力の流れでバレたのだろう。大丈夫、会話の内容まではバレてない。
眼鏡の視線から逃げることなく視線を向ける。そんなピリピリと肌を刺すような空気を割ったのは気の抜けた女の声だった。
「…あのぉ…」
おいバカよせ、話しかけてんなアホ!
と、声が出かかるが眼鏡の眉毛もピクリと動いたので止まることができた。
「どうかしましたかお嬢さん。」
いかにも爽やかなジェントルマンのような立ち振る舞いが気色悪い。こういう奴は大抵、腹の底では物言わぬ獣を飼っている輩だ。
「いや、その…気がつかないのかなぁ…と。」
意味がわからないことを言いながら森を指さす女。妙にそわそわしていて何が言いたいんだと…そこでようやく気がつく。
遅れて眼鏡も気がついたのか明らかに表情が変わった。
「…なっ、なんだこれは⁈こんな…ありえない!まだ早すぎる!!こんなこと…撤退だ!早く壁内へ避難しなさい!」
手早く部下に丸眼鏡が指示を出していく。周りの兵達は困惑している様子だが、ここまで近づいて何故この気配に気がつかないのか俺は疑問だ。
「おい、あなた達も早く来なさい!この壁には最古の魔法が宿っていて安全です!それとも死にたいのですか⁈」
そう言って俺の方に伸ばしてきた手を軽くいなす。それを見て丸メガネはギョッとした顔をした。なんだ意外と簡単に冷静を崩すのか。
だがすぐに正気を取り戻したのかそのままサーシャに手を伸ばしてきた。あーあ、それはやめた方がいいと思うぞ。
「ゥグッ…!!」
一瞬で押さえつけられた丸眼鏡が地面に突っ伏す。そりゃ、こいつはサーシャのことずっと気にかけてたからな。そんな女は当たり前のように丸眼鏡を地面に叩き落としていた。
「あぇっ⁈うわっ、ごめん…なさい?」
相手からやった事なのに慌てて退けて謝るのがこの女らしいっちゃらしい。そんな女を見てどうしていいのか分からず俺と女の顔を交互に見るサーシャもサーシャらしい。
「お、お前ら!リンデル様から離れろ!!」
城壁内に居たはずの残りの5人が顔を出した。あーあ、丸眼鏡はまあまあ手練れっぽかったがその部下はやはりその程度だったか。
「なっ、お前達こんなことをしてる場合じゃない!こいつらは諦めなさい!早く城壁内に!」
そう言って身体を起こした。女の一撃食らって立つとはやっぱコイツまあまあ強えな。咄嗟に〈障壁〉張ってたし。
「チッ、あー、めんどくせぇことになった。」
何かもう全部どうでも良くなったので取り繕った体裁を全てぶん投げた。
あ、最初の衛兵2人の目が丸くなってる。そんなに俺の演技はうまかったか?ありがとさん。
「おい女、さっさとサーシャ担いで逃げろ。」
顎でしゃくって指示をする。
「えっと…マイくんはどうするの?」
それでも動かないのか。頑固だなコイツ。
「俺は適当に逃げるだけだ。」
パチンと指を鳴らして身体を巻くように風魔法を発動する。ただの脅しだ。これ自体になんの効果もない。少しくらいの盾にはなるかもしれんが雰囲気づくりにはちょうどいいだろ。
「…サーシャちゃんおいで。…サーシャちゃん?」
そう言ってサーシャに近づいた女が止まる。
「…あ゛…ぅ…」
少し顔をかがめていたサーシャから酷く苦しそうな声が漏れ出ていることに気がついた。
「サーシャちゃんどうしたの⁈マイくん!」
異常だと分かる雰囲気に、身体に纏った風を消してサーシャに駆け寄る。なのにサーシャは俺らに意識を向けるそぶりすらなく、頭を抑えて今にも崩れ落ちそうなほど身をかがめていく。
「おいどうした、サーシャ。」
原因がわからない。見るとかがんで肌けた首元に紫の奴隷印が戻っている。慌てて魔法で誤魔化したがあの衛兵にはばれたかもしれない。
女の髪も2人の姿も変化のままなのに奴隷印だけ見えたのは何故だ?いや、それよりもサーシャの様子が明らかにおかしい。頭を両手で抱えるように抑えている。
「頭でも痛いのか?」
青白い顔で冷や汗を流す顔は苦痛に満ちている。
「…うる…さ…い……誰…なの…?」
うめき声に混ぜて小さな言葉を発している。何を言っている?
「…お…う?わ…が…おう…わが………るじ…われ……ら…は……」
そこまで行って糸が切れるように膝から崩れ落ちた。
「サーシャちゃん!!!!」
真横にいた女がそのままサーシャを抱える。
「ま、マイくん!どうしよう!サーシャちゃんが!!!」
騒ぐんじゃ無い鬱陶しい。今見てるからそんな泣きそうな顔してんじゃねぇよ。
「落ち着け。…気絶してるだけだな。いや、ほとんど眠りに近い。呼吸も魔力も安定している。原因はわからんが、多分大丈夫だ…」
おでこに手を当てて鑑定してみたものの何の変化もない。顔を見ても普通に寝ているだけにしか見えない。まだ少し青白い顔と流れている冷や汗が今のサーシャの異変を残しているだけだ。
「おいサーシャおぶってやれ。」
そう言って女の背中にサーシャを乗せて大きめの布で体全体を女に括り付けてやる。これでとりあえず落ちはしないだろう。
そして大きめの黒いスカーフをサーシャの首に巻き付ける。一応また魔法が解けた時に首元が見えないようにしておこう。
「おい、おっさん達。騙そうとして悪かったな。俺達は弱くともなんともねーからさっさと逃げた方がいいぞ。」
あほヅラ晒したまま動く気配のない眼鏡どもを風魔法、と言うよりも突風で壁の中に押し込んでそのまま扉を閉める。おーおー驚いてんな。いいリアクションだ。
「な…この中は…魔法が…」
メガネが口を開けて閉じるばかりで声が出ていない。そりゃ不思議だよなぁ、壁の中のレバーを魔法で動かしたんだからよ。
「それ以上はやめとけ。」
ニヤリと口を歪める。お前らごときに俺の正体がバレるわけがないだろ。
さぁてと、森の方を睨む。何がどうしてこうなった。…いや、これは確実に女王が目覚めたか、あるいは目覚める寸前か…何にせよめんどくさいことになった。
森の中に散らばっていた数多の魔獣の気配。それが一斉にこちらに向かって来ている。いやぁ、壮観だ。普通はそこらに散らばっていて同じ行動をすることなどはあり得ない。だが事実こちらに向かって来ている。その理由が何だろうと流石にやばいのは明白だろう。
…逃げるか。この中心にいるであろうこの群れの主に会うのだけは避けたい。
かといって壁を壊すどころか登り抜けることは今の俺だと中々に厳しい。原初の魔法が施されたものだから無駄に力が強いんだよなぁ。
やっぱ死ぬ気でどうにか越えるしかないか…?風で飛びこえるか…身体能力上げて跳ぶか…
空の彼方に見える壁のてっぺんを見上げてげんなりした。前に越えた時は既に成人だったにも関わらず中々にキツかった。上に行けば行くほど風は強くなるし自然の強風は俺の魔法との相性が悪い。
かと言って身体能力を上げて駆けあがろうにも壁に触れ続けなければいけないのがキツい。
その時は結局両方使ってゴリ押ししたが…もうやりたく無いのが本音だ。
どーすっかなぁ…
〈無作為転移〉を使っても消費する魔力に対してほとんど移動できない可能性が高いし下手すれば変な方向に弾かれる。
あー、どうすかっなぁぁああ!!!!!
色々考えすぎてイライラし始めたのを察しているのか話しかけたいけれど口を挟めない様子の女になおさらイライラが募る。
「おいなんだ、何か言いたいのか?」
短気なのは人生何度目でも治らない。もう魂に刻まれた性格だ。諦めている。
「…えっと…どこに逃げるのが正解?」
眉毛の角度と置き場のない手の動きからこいつなりに悩んでいるのが見て取れる。これを見ていると悩んでいるのも馬鹿らしくて一瞬で苛つきなどどこかへ行ってしまう。
まぁこの中での優良の正解は壁に沿ってこの女の全力で走り抜けるのがいいとは思うが…
「…壁を駆け上がって越えてみたらどうだ?」
せせら笑うような冗談のつもりだった。どれほど化け物クラスの身体能力を持った女でも流石に出来ないと思ったからな。
こいつならやりかねないと今なら分かる。
「わかった。」
は?ちょ?おい、と何か言う前に目の前に近づいてきて咄嗟に身構える。
「マイくん。前に言ってた身体強化魔法?とか、いうやつ。今、出来る?」
全く読めん。こいつが何を考えてるのか理解できる日は多分来ない。
でもジリジリと近寄ってくるこの女が不安なのでとりあえず言われた通りに自分に身体強化をかける。あ、すげぇ嫌な予感しかしない。
「一体なにする…んぁ⁈は⁈お、ま⁈⁈」
俺は今、無様に口をパクパクさせるだけ。言葉が出なかった。いきなり体を掴まれたかと思ったら横向きに抱えられた。
…お姫様抱っこってやつだな。
「どうせなら一緒に行こ。」
くそっ!力強いし全く振り解けない。顔が近い!やめろ!!!今俺は大人の姿してんだぞおい!!!にっこり笑うな!腹が立つ!!!!
「サーシャちゃん、もう少しだけ我慢してね。」
その気遣い俺にも向けろ!!
抱えられて魔法を使うこともできず、なすすべなくされるがまま。
もういいどうにでもなれ。
壁からある程度離れた場所まで行くと女は体制低く構えた。
その時後ろから金切音を上げた蜘蛛が飛びかかって来たので咄嗟に魔法で弾く。
そんなことも気にすることなく女は静かに構えている。
「…2人とも、いくね。」
何する気か分かりたくないが早くしろっ!さっきから既に3匹ほどの蜘蛛が攻撃してき。ぅぉおおおお⁈⁈⁈
「ちょ、おまっ!!」
「マイくん舌噛むよ。」
何でそんなに、いや、もう…あぁあああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
途中から声が出てしまっていた気がしたがそんなはずはない。この俺が無様に叫ぶはずがない。
女が足を出した瞬間、世界が消えて凄まじい衝撃が身体にぶつかる。薄目を開けることが精一杯で無様に女の体に縋り付いた。あー、死にたいチクショー。
急に衝撃が軽くなって目を開けるとあまりに近い太陽に目が痛くなる。
下を見渡せば真っ白な壁には真上からでも分かるくらいに点々と凹みがあり、地面には一際大きいクレーターができていた。そしてそのクレーターに群がるように蜘蛛の大群が押し寄せているところだった。
俺は何を見ているんだろうか。全く理解できないし、したくない。
このまま気絶できたら楽だったかもな、とほんの少しだけ現在意識がないサーシャが恨めしくなった。




