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夢の始まりと、予感

一日目

アオイは、案内された治験施設内を歩いていた。白く清潔な廊下は、どこか病院のようでもあり、研究所のようでもある。受付で身分を確認され、説明を受けた。

「被験者の方には、毎晩ヘッドギアを装着していただき、夢の内容を記録します。この治験は、人間の脳が夢を見る際の複雑な活動パターンや、記憶がどのように形成・処理されるかのメカニズムを詳細にデータ化し、より高度なAI技術、特に人間の思考や学習能力を再現するAIの開発に役立てることを目的としています。」

事務的な説明に耳を傾けながら、アオイは他の被験者らしき人々とすれ違った。皆、どこか疲れたような、不安げな表情をしている。高額な報酬に惹かれてこの治験に参加したアオイだったが、彼らの顔を見て、わずかながら胸に不穏な予感が広がった。

午前中、簡単な健康診断と問診を終え、自由時間になると、アオイは共有スペースに向かった。そこにはすでに何人かの被験者がいて、各々が本を読んだり、ぼんやりと窓の外を眺めたりしている。

アオイがソファに座ると、隣から気さくな声がかけられた。

「よお、俺ユウキ。お前もこの治験に?」

振り返ると、ガッチリしたとした体格の男が、人懐っこい笑顔でこちらを見ていた。その隣には、少し物静かそうな、だが人の良さそうな別の男もいる。

「アオイです。よろしくお願いします」

アオイがそう言うと、ユウキの隣の男が軽く頭を下げた。

「俺はケンタ。よろしくな」

三人で少し話してみると、ユウキもケンタも同じ高校生で、アオイと同じように高額な報酬目当てでこの治験に参加したらしい。お互いに自己紹介を済ませ、他愛のない話をしているうちに、少しずつ緊張がほぐれていくのを感じた。こんな場所で、共通の話題を持つ仲間ができたことに、アオイは密かな安堵を覚えた。


アオイは自分のベッドに横たわり、指定されたヘッドギアを装着した。ひんやりとした金属が額に触れる感触が、これから始まる未知の体験を否応なく意識させる。簡単なバイトだ、そう言い聞かせながら、彼は意識を暗闇へと沈めた。

次に目覚めた時、アオイは自分の部屋に立っていた。いつも見慣れた家具、壁に貼られたポスター。だが、どこか薄暗く、部屋全体が異様な冷気に包まれている。カーテンの隙間から差し込む光は鉛色で、窓の外の景色は、まるで夜明け前の世界のようだった。

「……夢、か?」

漠然とした不安が胸に広がる。その時、視界の端で何かが動いた気がした。振り返ると、クローゼットの扉がわずかに開いている。その隙間から、漆黒の闇が滲み出ているように見えた。それは、形を持たない「気配」とでも言うべきものだったが、アオイの全身を凍り付かせるほどの悪意を放っていた。

逃げなければ。反射的にそう思った瞬間、アオイは足がすくみ、その場に縫い付けられたように動けなくなった。冷たい気配が、クローゼットの奥からゆっくりと這い出てくる。その「何か」は、アオイの意識を深く、暗い淵へと引きずり込もうとする。全身の細胞が凍り付くような感覚の中、アオイはただ、その闇に飲み込まれていくのを待つしかなかった。どれくらいの時間が経ったのか、永遠にも思える時間が過ぎ去った後、アオイの意識はぷつりと途切れた。


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