悪夢、強まる気配
『二日目』
「ハァッ、ハァッ……!」
身体を起こすと、見慣れない白い天井が視界に飛び込んできた。
呼吸は荒く、全身からは冷や汗が噴き出している。ひどい悪夢だった。
アオイはヘッドギアを外し、ベッドから降りた。
部屋を出て廊下を進むと、他の被験者たちとすれ違う。
皆、顔色が優れないように見えた。治験が始まってまだ一日だというのに、早くも疲労感が漂っている。
共有スペースには、すでに数人の被験者が集まっていた。
その中に、昨日知り合ったユウキとケンタの姿を見つけた。
「よお、アオイ。お前もか?」
ユウキが声をかけてきた。彼の顔にも、疲労の色が濃い。
「ああ。ひどい夢見た」
「だよな。俺もだ。なんか、得体の知れないもんが追いかけてくる夢でさ、マジで心臓に悪い」
ケンタも同意する。
アオイは、彼らと同じ悪夢を見ていることに、少しだけ安堵を覚えた。
その日の日中は、治験施設内の設備を案内されたり、簡単な問診を受けたりした。
食事は提供され、自由に使える共有スペースもある。
規則正しい、だがどこか監視されているような日常。
午後の休憩時間、共有スペースの隅で一人、黙って本を読んでいる少女の姿を見かけた。
透き通るような肌と長い黒髪。
おそらく同じ年くらいだ。彼女もこの治験の被験者の一人なのだろう。
『二日目・夜』
その日の夜も、アオイはベッドに横たわり、指定されたヘッドギアを装着した。
昨日よりも深い眠りへと落ちていく。
次に目覚めた時、アオイは物置小屋にいた。
薄暗く、埃っぽい。ガラクタが山積みになっている。
窓からは月明かりが差し込んでいるが、それすらも不気味さを増幅させていた。
昨日と同じ、冷気が肌を撫でた。
そして、棚の陰から、漆黒の『染み』のようなものが、じわりと地面を這うように広がり始めた。
それは、明確な形を持たない。
だが、その存在は、昨日感じた『気配』よりも遥かに濃密で、アオイの心を直接掴みにかかるような恐怖を放っていた。
「やめろ……!」
声にならない叫びを上げ、アオイは物置小屋の出口へと必死に這い寄った。
染みは、ゆっくりとだが確実にアオイの全身を覆い尽くそうと迫ってくる。
必死にもがくアオイを嘲笑うかのように、染みは物置小屋全体を覆い尽くし、アオイの足首、膝、腰と、じわじわと身体を浸食していく。
呼吸が苦しくなり、全身が冷たい粘液にまとわりつかれるような不快感に襲われた。
意識が薄れていく中、アオイは抵抗する術を失い、完全にその漆黒の染みに飲み込まれた。
染みが身体を完全に覆い尽くすと、視界は真っ暗になり、アオイは底の見えない暗闇へと沈んでいった。
どれほどの時間が経ったのか、途方もない時間が過ぎた後、アオイの意識はぷつりと途切れた。




