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40.何が何やら

更新です!

2週間以上も開けてしまい、申し訳ない・・・。

ちょっとレポートてかテストとかバイトとかが忙しく、また難産なのも相まって書く暇が無くてですね、いやホント、言い訳にしかならないんですけど、申し訳ないです。


幸い、もうすぐテスト期間が終わるので、これからは高頻度で更新できると思います。なのでどうか、拙作を見捨てず、呼んでやっていただけると幸いです。どうか、これからも拙作をよろしくお願いします・・・ホントに。

嫌な匂いがした。


臓腑の奥が底冷えするような、嗅いだ途端に肺が焼け落ちるような、醜悪な匂い。暗く、昏く、『黒』い、鼻腔にこびりついた・・不快な匂いが、した。


「ーーシィーー」


獣神抜刀壱ノ刃ーーー『牙狼の構え』


瞬間、自然と身体は動いていた。


状況の把握も、周囲への被害も、何もかもを思考領域から追い出して。肉体は、これまで何千・何万と繰り返した、抜刀の構えを取る。


さながらそれは、牙を剥き出した餓狼の如く。ただ臭うままに、獲物を追い掛け、喉元に己が武器を届かせんと研ぎ澄ます。


極限集中


音も、色も、全てが欠落した灰の世界で、ただ一つ。その臭いにだけは『黒』が有った。

全ての色を混ぜ合わせ、結果的にそう成ったとでも言いたげなほど、混沌とした『黒』い色。

忌まわしき、母を殺した影の彩。


漂う色が像を結ぶ。『黒』い悪臭が線を刻む。


「ーーフッーー」


ーーー刹那、世界が両断(分か)たれた。


外壁と窓ごと、11階を刃が刻む。


「な、なんだァ!?」


上擦り、間が抜けた少年の声が耳朶を打つ。声に乗った不快な臭いが、鼻腔を焦がす。


「スー・・」


一呼吸。短く、身体を休ませるでは無く、次の行動への息継ぎのため、絞り尽くした肺へと新鮮な酸素を注ぐ。


刹那ほども間を置かずして、思考を放棄した身体は動いた。追い付き、戻った音を、色を、もう一度突き放すため、深い、深い集中がもう一度、体の奥底から呼び覚まされる。


「シーーー・・ッ」


獣神抜刀弐ノ刃ーーー『双牙の構え・八連』


踏み込み。11階の床を陥没させ、崩れた本棚が宙を舞う。一直線に前へと飛んだ肉体は、間を置かずして音に到達。紙が、木屑が、本が、棚が、室内を吹き荒れ、呈される様相は地獄と化した。


同時に、16閃。白光が少年へ向かって迸る。


一刀二刃が八つ。鍛え上げられた肉体と、卓越した技量により、殆ど同一の瞬間に八度刀を振るうことで、都合十六の閃光を世界に刻み込む神業は、正確無比な必殺の斬幕となって『黒』を刻んだ。


絶殺。必滅。確実に殺せるよう、反撃する暇どころか回避する隙すら与えないほどの密度で振るった斬撃を通し、手応えが去来する。


「ッ!?」


ソレは、人を刻んだにしてはあまりにも硬く、強い反発の感触。

追いついた聴覚が拾った音は、金属同士がぶつかり、擦れた耳障りな不協和音。


召喚魔術ーーー『召来:鉄刀白鞘×8』


「っぶね・・!!」


間一髪。同時に16の方位から繰り出された斬撃をいなしきったのは、少年の周りに召喚された、都合八本の白い刀。


恐らく、魔術陣で形成した射出口を陣ごと限界まで圧縮し、多めに魔力を流すという『縛り』を結んだことで、私の速度に追いつかせたのだろう。


一体どれだけの魔力を流したのかは分からないが、今の一瞬の攻防だけで、肩で息をし、顔が真っ青になるほどだ。それ相応の魔力を持っていかれた違いない。多分だが、もう一度あの速度で八本を展開することは、今の彼には難しいだろう。


加えて、先に召喚された八本の鉄刀は、二撃ずつ私の斬撃を受けたことで木っ端微塵に砕け散り、砂塵と化した。


・・・もはやコイツに、次の一撃を捌く手札は無い。


「・・今、此処でっ・・!!」


どうやら、私は強く成りすぎてしまったらしい。悲願であった母の仇討ち。幼い頃からその為だけに生き、鍛え、研いできた私の刃は、あの時、強大で手も足も出ないと思っていたコイツを、今、こんなにも呆気なく追い詰めることが出来ている。


心のどこかで、この仇討ちはもっと劇的に、華々しく終わる物だと思っていた。・・というより、そうあって欲しいと願っていたのかもしれない。母は優しく、強く、何より尊敬できる人だったから。


そんな母を死に追いやったあの『黒』い大敵は、母という人の死に見合うほど大々的に、惨たらしく、苦しめてから殺したいと、ずっと、心の奥底で思っていたのだろう。


けれど、その復讐心に溺れて、今ここで殺せる機会を逃すなんて馬鹿な真似は、私は絶対にしないだろう。


何より完遂すべきは仇討ちなのだから。何より優先すべきは抹殺なのだから。


故に、どれだけ呆気なかろうと、どれだけ劇的じゃなかろうと、私は此処で、確実にコイツを殺す。この『黒』く不快な臭いの元を断ち切って、冥府を歩く、母の(かたき)を討ち果たす!


獣神抜刀奥ノ()ーーー『陽喰の構え・餓狼』


「おぉぉおおおおお!!!!」


使う技は、今まで磨いてきた抜刀術・・その奥義にして必殺の技、『陽喰の構え』。また、その中でも最も荒々しく、速く、強い、『餓狼』の刃。


母の(あだ)を討つためだけに鍛え上げた、神殺しの一撃である。

当然、神ならざる人の身で、受け止められる一閃では無い。


今度こそ確実に、振るった刃は奴の首を叩き落とした。何故なら、生命を切る不快な手応えが、追い付いた聴覚が捉えた音が、何より、灰の世界を紅く彩る血飛沫が。雄弁に、私が奴を殺したことを物語っているのだから。


終わった・・これで・・・何もかも、全て・・・。


「・・・やったよ・・母様」


血と木片と紙が散乱し、地獄絵図と化した11階を、中天に輝く太陽が照らし出す。


これからどうしようか・・まず、父様に連絡・・いや、それよりもここの片付けを優先して・・・あぁ、エリザや校長先生にも伝えないと・・・。


やることは山積みだ。というのに、身体も思考も、上手く動いてくれやしない。莫大量の達成感と混沌とした感情。加えて、今後の立ち回りや殺したことで出てきた問題なんかも相まって、一気に処理すべき情報が増えたからだろう。これまでずっと張り詰めていた糸が切れた様に、集中が続かない。


だから・・だろうか・・・


「フフッ♪」


「?・・・ッ!?」


何か、奇妙な音が耳を撫でて行ったのに、私は、気付くことが出来なかった。


【⬛︎⬛︎魔法ーーー影⬛︎り】


瞬間、拘束される身体。『黒』い、『黒』い、触手のような影のような何かにより、一瞬にして四肢と胴体が締め上げられる。


「何処からっ・・!!」


「ゥ・・・ぁア・・あ」


攻撃の起点を探さんと視線を蠢かせば、目に入ったのはこちらに向かって右手を掲げる、首無しの身体。その左手に自身の頭部を掴み、だくだくと零れ流れる命と共に『黒』を首まで繋げている様は、容易にこちらの正気を削ってくる。


「生きてたッ・・!!」


否。前言撤回。ソレは既に生きてなど居ない。鼻腔をくすぐる死臭も、未だ流れ続ける血の匂いも、虚ろを向き開いた瞳孔も、全てが、目の前の存在が死に至っていることを理解させる。


「ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」


死した者の呻きが聞こえる。吐く息を用意する肺も、音を発するための喉も、切り離してあるというのに、掴まれた生首は依然として、まるでソレが生きているかのように苦悶を吐き続ける。


「ァァァ・・・ォ・・オオオオオオ」


召喚魔術ーーー『召来:黒刀白鞘』


「っ・・化け物がっ!」


ズ・・と、空気を割る音が響いて、漆黒の魔術陣から『黒』染めの鉄刀が現れる。波紋のごとく、刃をうねる『黒』い魔力は、およそこの世の物とは思えないほどおぞましく、妖刀・呪刀ともまた違う不穏な気配を醸していた。


鉄刀を掴むは右手。柄を潰さんばかりに握り締めた掌には、肩から腕を這うように伸びた触手が絡み付きーー何らかの強化を行っているのだろうーーギシリと、音が鳴る程に強く、腕に力が込められる。


「このっ・・!動けっ!!」


一度完全に油断し、弛緩した肉体は、そう簡単には快気しない。それが、悲願の成就によるものであれば尚更だろう。これまでずっと張り詰めてきて、それが日常となるまでに至った状態から、ようやく解放されたのだ。


自覚している・いないに関わらず、肉体的、精神的な疲労は相当な物となっているだろう。故に、普段であれば問題にすらならないこの触手も、今は引きちぎるどころか身体を動かすことすら出来やしない。


「ォォ・・・」


切っ先が向けられる。陽の光すら反射しない『黒』刀の先端が、首元目掛けて掲げられる。


「ッ・・・」


抵抗は無意味だろう。この触手を破る手立てが無い以上、今の自分はただここで吊るし上げられているだけの肉袋に過ぎない。両手も、両足も、口も、首も、頭も、尻尾も、凡そ抵抗の手立てとして挙げられるであろう全ての部位が、固く固く締め上げられているのだから。


極めつけはこの空間の異常な魔力の無さだ。呼吸することすら苦しい程に、大気中の魔素が足りない。それが何によるものなのか、魔術なのか、或いはもっと別の何かなのかすら分からない。


ただ一つ分かっているのは、今この状況で魔術は発動できないということ。


即ち、『彼ら』の助けは期待できない。


「く・・・そ・・」


意識が遠のく。触手の不快な感触と、万力よりも尚強い絞力が首元を這い回り、魔素が、酸素が、脳に巡るのを塞き止める。


一巻の終わり、絶体絶命、万事休す。


ありとあらゆる命の終焉を表す言葉が、瞬く間に脳裏を駆け巡った。


「ク・・・ァ・・・!」


「ゥゥゥ・・・ァァァアアア」


死。絶対的な『死』が、直ぐそこまで迫っている。 身体が竦む。思考が止まる。瞼が閉じる。

突きつけられた『黒』い死に、心底から肉体が恐怖する。


絶望を表す暗闇が、閉じた瞼に一際強く染み映える。死を待つ鼓膜の奥底には、ただただ深い、静寂だけが反響した。


そうして、一秒、二秒と、落ちた時計の針が刻む頃。


「「え?」」


いつまで経っても飛んでこない刃の冷たさに、漏らした疑問の声が重なる。


「・・・」


恐る恐る目を開けば、そこには、黒髪の少年が一人。黒刀を持ち、呆けた顔で立ち尽くしていた。


「「????」」


互いの脳内がクエスチョンマークで埋められる。


何故?どうして?切ったはず・・いや、そもそもどうやって?何が起きた?え?夢?幻術?だとしたらどこからどこまで?


なんて疑問が、矢継ぎ早に脳裏を過ぎり、その全てに明確な答えを見いだせぬまま、刻一刻と時間が過ぎていく。


眼前の少年も同じなのだろう。呆けた顔で斬られたはずの首を摩り、何がなにやら分からないと言った様子で周囲を見回すというのを、この短い間で5度以上も繰り返していた。


「「・・・・」」


気まずい沈黙が互いの間で波紋を作り、いい加減、何か話すべきかと両者が口を開きかけた次の瞬間。


バタン


と、静寂を突き破って扉が開く。


奥から現れたのは、青年が3人と女性が2人。


全員が走って上がってきたのだろう。若干息を切らせながら、今にも倒壊せんばかりの室内と奇妙な形で向かい合う私達を見て、唖然としていた。


それは傍から見れば奇妙な光景。かたや『黒』い何かに縛られ、吊るし上げられている少女、かたやそれを前に、同じく『黒』い刀を持って、自分の首を摩っている少年と、何が何だか分からない、混沌を極めた様相が展開されている。


不意に、5人の男女の内、ただ一人のエルフの青年が、陽光を受け照り映える金髪と、長く伸びた耳を揺らして口を開く。


「・・・えーっと、つまり、これは・・どういう状況?」


こっちが知りたい。


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