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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第十二章 初期衝動-Initial Impulse-
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第194話 レベル上げの誘い

 翌日、ヒカルがD組の教室までやって来た。

 以前は、A組の級長がわざわざこんな場所まで何しに?とざわついていたんだが、最近はヒカルが教室まで来ても誰も騒がなくなったな。


「一ノ瀬さん。これ……お父様から預かってきましたわ」


 ヒカルはそう言って、『一ノ瀬獅郎様』と表書きが書かれた、銀の箔押しが施されたいかにも高級そうな封筒を俺に手渡す。

 中を開けてみると、『毒消し薬事業説明会ならびに晩餐会のご案内』と書かれた招待状が入っていた。


「ああ、例の説明会の招待状か。わざわざ悪いな」


 ヒカルは俺の顔を覗き込むようにして、申し訳なさそうに口を開いた。


「……昨日、お爺様に会ったんですってね。お父様から聞いたわ。その、すごく失礼なことをしたみたいで……本当にごめんなさい」


「いや、お嬢が謝ることじゃないだろ。……まあ、確かになかなか癖の強い人だったけどな」


 俺が苦笑いしながら答えると、ヒカルはさらに肩を落とした。


「お爺様、昔からそうなの。自分の価値観が絶対で、特に私……女が探索者になるなんて、家系の恥だと思ってる。あの人にとって私は、ただの政略結婚の道具でしかないのよ」


 自嘲気味に笑う彼女の瞳には、諦めに似た色が浮かんでいた。

 俺は昨日のジジイの「女のくせに」という言葉を思い出す。……やっぱり俺は、ジジイの考え方が気に食わない。


「なあ、お嬢」


「え?」


「今週末、空いてるか? もし良かったら、一緒に新宿ダンジョンまで探索に行かないか」


 唐突な誘いに、ヒカルが目を丸くする。


「それって、私をまたレベリングしてくれるってこと?」


「ああ。あのジジイ……いや、総裁だっけか。あいつ、お前のことを散々バカにしてただろ。女のくせにとか、なんとか。俺、あれが最高に気に入らないんだよ」


 俺は、彼女の目を真っ直ぐに見据えた。


「だからさ、強くなろうぜ。アイツがぐうの音も出ないくらい圧倒的に、誰の目にも明らかな実力を見せつけてやるんだ。アイツが後生大事に抱えてる『伝統』なんて理屈を、お前のレベルで粉砕してやろうぜ」


「……お爺様を、見返す?」


「そう。お嬢にはその才能がある。俺が協力するから、アイツの鼻をあかす手伝いをしてくれないか」


 ヒカルは驚いたように固まっていたが、やがてその瞳に小さな、けれど熱い火が灯るのが見えた。俯いていた顔がゆっくりと上がり、唇が震える。


「……いいの?一ノ瀬さん、あなたも忙しいのではなくて?」


「別に、俺が好きでやってることだから気にするな」


「私も、先日入手した魔法スキルがどこまで通じるか、早く試してみたかったの。一ノ瀬さんが良ければお願いするわ」


 そう言ったヒカルの顔から、覚悟が決まったことが見て取れた。


「よし!決まりだな。それじゃ今週末できるだけレベルを上げて、再来週の懇親会で報告してやろうぜ」


「ありがとう一ノ瀬さん。でも、それならちゃんと正当な報酬を払わせてもらうわ。あなたの貴重な時間を拘束するんだから」


 生真面目な提案に、俺は思わず吹き出した。


「ハハ、金なんていらないよ。友達からレベリング代を取るわけにはいかないだろ?」


「友達……」


 ヒカルがその言葉を噛みしめるように繰り返す。

 白いの頬が、ほんのりと赤く染まった。


「お前だって、友達に協力した後にお金寄越せなんて言わないだろ?」


「フフ……そうね。」


「ああ。それとも、俺と友達なのは不満か?」


「……ううん、全然! むしろ、その……すごく、嬉しいわ」


 はにかむように微笑んだヒカルの顔から、ジジイの話をしていた時の陰りは消えていた。


「それにしてもあなた、早坂さんたちや、紫村さんたちの事もレベリングしたんでしょ?それに私まで。いくら友達だからって言っても、何でそんなに他人のために一生懸命になれるの?」


 確かに言われてみればおかしなことかもしれない。

 ユノたちだって、本当に嫌ならレベリングを断ることができた。だがユノから「一緒に行きたい」と言われた時、本音を言うとそんなに嫌じゃなかった。

 紫村たちに関しては俺から提案したし、お嬢にしてもそうだ。友達のためというよりも、俺がみんなのレベルを上げたい気持ちなんだよなあ。

 俺は少し考えて、ふとこの感情の正体に気がついた。


「ゲームでさ……」


「ゲーム?」


「仲間のキャラも育てるじゃん?仲間によって得意な事があって役に立つ時があるし、そもそも仲間も育てるのも楽しいじゃん?みんなのレベリングを手伝ったのは、友達だからというよりもそういう理由かな」


 俺はどや顔でそう答えた。

 よく分からないけど、ヒカルの顔から表情が消えていた。


 ……あれ?俺、何かおかしなこと言っちゃった?

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