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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第九章 遅咲きの雷 -Late Blooming Thunder-
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第144話 駆け引き

「なんで分かったって、いくら離れててもそんな殺気出してちゃ丸わかりでしょ?」


 須佐の問いに俺は冷静に答えたが、内心は冷や汗ものだった。

 この人は犬や猫なんかじゃない、巨大な虎だ。そんな捕食動物が獲物を見る目でこちらを観察しているのだ。平然としていられるはずがないだろう。

 須佐タツノリ。レベル43。自衛隊特殊探索部隊。

 そして、俺の秘密を嗅ぎ回っている男。


「殺気……完全に消していたはずなんだが……」


 それでも須佐は納得がいかない様子だった。

 まあ千堂もマイカも完全に気づいていなかったようだが。

 そんな俺たちの姿を見た紫村も、スライムを倒す手が止まり、こちらの様子を見ていた。


「いつから監視していたんですか?」


 俺は先手を打つように質問した。


「人聞きが悪いな。別に監視していたわけじゃない。たまたま君たちに気付いたんだ」


 どうだか?

 もしかしたら最初から尾行してたんでしょ?

 俺は信用できない目で須佐を睨んだ。

 須佐はそんな俺から視線を逸らすと、辺りを見回した。

 そこには、マイカの撒いた水に集まる無数のスライムの姿がある。


「それで……すごいな。これはスライムが水に集まってきているのか?」


 見られてしまった。

 これまで俺たちの秘密にしていた攻略法の一つだったのだが、部外者にばれてしまった。

 くそ、せっかく見つけた方法だったのに。

 スライム集めを目にした須佐は語り始める。


「私も長いこと探索者をしているが、スライムにこんな習性があるなんて知らなかった。君たちが見つけたのか?これが広まれば、レベル1探索者がレベル2になるための時間が大幅に短縮されるし、一日で倒せる数も増えるのだからスライムが落とすランク1ポーションの入手率も高くなる。もしかしたら11階層のポイズンスライムや21階層のクイックシルバースライムでも試せるかもしれない」


 くそっ。せっかく見つけた俺たちの攻略法が盗まれる悔しさ。

 レベル43もあるこいつが、まだレベル6の俺やそれ以下の仲間たちが見つけた発見を盗んでいく。

 とんでもなく悔しい……。

 俺の拳が自然と握り締められる。


「そう怖い顔するなよ」


 須佐はニヤリと笑いながら俺にそう声をかけた。

 ムカつく。


「別に君たちの発見を盗もうだなんて思っちゃいないよ」


「え?」


 俺の心が読まれたのか、それともそれが須佐の素直な気持ちなのか?

 予想外の言葉に、俺は戸惑う。


「正直、私たちもランク1ポーションが多く手に入るのだから、この方法をすぐにでも真似したい。だがこれは迷宮ナレッジに該当する事項だ。君たちが登録する前に私が広めるわけにはいかないだろう。発見した君たちの名前で登録して、相応の報酬を手にする権利がある。もし登録方法が分からないなら手伝うが……」


 俺は戸惑っていた。

 こいつの狙いが分からない。

 俺たちの仲間のふりをして、高ランクポーションの出どころを聞き出そうとしているのだろうか?

 それとも、本当に善意で言っているのか?


「警戒されているみたいだな……」


 本当に俺の心を読んでいるんじゃないか?

 何か言い返さないと。俺は言葉をひねり出した。


「俺たちの味方のふりをしても信用しませんよ」


「別に私は君たちの敵というわけじゃない」


「そうやって俺たちから高ランクポーションの入手経路を聞き出そうとしてるんでしょ?」


 須佐の表情が固まる。

 図星だったのだろう。


「ということはやはり君は知っているんだな?」


 しまった。口が滑った。

 だが、もう遅い。ここは押し通すしかない。


「さあ?知りません。いくら俺たちを油断させようったって、何も出てきませんからね」


 俺は釘を刺しておく。

 須佐は肩をすくめた。


「A組の億本君にも同じことを言われたよ。自分の家族を救ってもらった人の情報を話すわけにはいかないとね」


 億本?

 ……そうか。俺だけじゃなく、俺がお嬢に譲ったランク3が億本の手に渡った話も知っていて、億本に聞いたのか。

 あいつ、ちゃんと口を割らなかったんだな。ありがとう、億本。


「実を言うとね、君がいくら隠そうとしても、調査に入る前からある程度の情報は入手しているんだよ。君がA組の九条ヒカルさんにランク3ポーションを売るところを、同じA組の生徒たちが見ていたという話をね」


 あの時か……。

 億本に見せつけるつもりでわざと目立ってしまったけど、やりすぎだったか……。

 俺は焦りを顔に出さないよう気をつける。


「君はどこでランク3を手に入れたんだい?」


 須佐の目が、俺を真っ直ぐ見据える。

 この男は、諦めない。

 だが、俺も譲れない。


「さあ?知りませんね」


 俺は短く答えた。

 須佐と俺の視線がぶつかる。

 数秒の沈黙。


「……そうか。どうしても話したくないというのなら仕方がない。君の気が変わって話してくれるのを待ってるよ」


 須佐はそう告げると、来た道を戻って行った。

 その背中を見送りながら、俺は思う。

 まだ諦めたわけではないようだし、今後もまたことあるごとに監視されるのだろう。

 やっかいな相手だ。

 と、紫村のレベルアップが中断してしまっていた。


「悪い……」


 そう言って振り返ると、千堂、マイカ、紫村が俺のことを心配そうに見ていた。


「一ノ瀬君、君は……」


 紫村が何か言いかけたが、俺はそれを遮る。


「あー、深く詮索しないでくれ。それよりもスライムの続きを……」


 と、見るとスライムが合体して大きくなり始めている。


「おい紫村!スライムが合体してる!このままだとヒュージスライムになるから、早く倒せ!」


「え?合体?そんなことが?」


 紫村が驚いた声を上げ、慌てて再びスライムに向かっていった。

 須佐の邪魔が入ったせいで、この日のスライム倒しはあまり順調に進まず、まだ紫村のレベルが上がらなかった。

 バタバタして集中できなかったのも影響しているだろう。

 それでもまあスコア200っていうなら、明日には上がるだろう。

 問題は、須佐だ。

 あいつがいる限り、迂闊に迷宮探索もできない。

 どうしたものか……。

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