第145話 朝練
昨日は須佐の邪魔が入って紫村のレベリングも中途半端になってしまったし、今後もやっぱり俺自身のやりたい探索は休むしかないと思った。
だが自衛隊と言えど、さすがにあれだけの高レベル探索者に何の発見もないまま、いつまでも学園ダンジョンの調査をさせることはないだろう。
少し待っていれば帰るはず。それまでの我慢だ。
仕方ないので、あいつがいなくなるまでは探索よりも部活を優先することにした。真面目に第二剣術部で練習をするつもりだ。
というわけで、一部の部員たちによる朝練に、今日から俺も参加することにした。
さすがに講師のイオリは来ていない。練習大好きの紫村、千堂、そしていやいやながらも付き合いの良い二年の高山部長たち数名が参加している。入部したばかりの八戸もよほど強くなりたいのだろう。朝練にも出てきていた。
俺はみんなに交じって木刀の素振りをしていた。
以前は相手がいないのに木刀を振り回しても意味はないと思っていたのだが、目の前に敵がいると想像して素振りをすると何かが掴めそうな気がする。
だがどうも俺には雑念が多い。
黙って剣を振っていると、すぐに違うことを考えてしまう。俺たちの姿を横目で見ながら登校していく生徒たちの姿が目に入ると、そちらに気を取られてしまう。
他のみんなは無心に素振りをしているが、どうしたらそんなに集中できると言うのだろうか?
そういえば今週末の探索はどうしようか。
毎週末に新宿ダンジョンへ行き、レベルアップ及び階層更新をしてきたが、もしまた須佐に監視されていたら、新しい実験や発見をした時にすぐにその情報を盗まれてしまう。
はぁ~、早く帰ってくんねえかな?
今週は引きこもって部屋でゲーム三昧で過ごそうか?しかし、中学まで大好きだったゲームもこの学園に入ってから全くやらなくなってしまった。だって、迷宮探索の方が楽しいからだ。
ゲームならクリアしたら終わりなのに、現実世界は生きている限り終わりはない。楽しいに決まってる。
階層を更新しなければ監視されてても大丈夫かな?アイテム集めでもやろうか?第二階層で魔物の皮を集めてオーダーメイドの防具でも作ってもらおうか?第三階層のゴブリンはショボい武器しかドロップしないし、第四階層はキュアジェムだから、毒消し薬がただでもらえる今手に入れても意味ないし……。
そんなことを考えていた時に、すぐ近くで素振りをする紫村の姿が目に入った。
思わず俺の口から言葉がもれる。
「紫村……、今週末一緒に新宿ダンジョン行くか?」
「え?」
驚いた紫村の素振りをする腕が止まった。
「あー、レベル2になる道筋は見えたじゃん?でもまたレベル3になるには違う努力しないといけないだろ?怪我する可能性が増えてちょっと危険なんだけど、俺がやってる戦い方を教えるから、それでこれからのレベル上げの参考になればいいかなって思って……」
なぜあれだけ苦手にしていた紫村を誘ったのか、俺自身も分からなかった。なので慌ててそれらしい理由を考えて伝える。階層更新を休むなら、こいつのレベリングを手伝ってやってもいいかなと思えたのだ。
すると紫村は俺が想像していた以上に嬉しそうな笑顔を浮かべて返事をしてきた。
「いいのかい?ぜひお願いするよ。実は二学期からのレベル上げも、他のみんなに遅れないようにするにはどうしたらいいか悩んでいたんだ」
「一ノ瀬、良かったら僕も一緒にいいかな?」
そんな俺たちの会話を聞いた千堂も、一緒に行きたいと申し出てきた。
「もちろんだ。紫村一人が強くなるより、お前たちパーティーで一緒にレベル上げした方がいい。あと赤石も誘ってみてくれよ」
こいつらは普段は紫村、千堂、赤石の三人パーティで探索をしている。三人一緒にレベル上げをした方が、パーティーでの戦い方、役割分担などを経験するのに良いだろう。
「ああ、赤石君も週末はバイトに行ってるみたいだけど、せっかく一ノ瀬君がレベリングしてくれるというならバイト休んで一緒に行こうって誘ってみるよ」
赤石はバイトしてんのか。平日も放課後バイトしてるって言ってたな。勤労学生か。
俺も今でこそポーションで荒稼ぎできるようになったけど、普通に探索してるだけじゃまだ全然稼げないもんな。お金が欲しかったらバイトしてる方がましかもしれない。
まあとにかく、今週末はこいつらと新宿ダンジョンに行くことが決まった。まぁ、たまにはいいだろう。
「ありがとう一ノ瀬君」
まだ何も始まってないというのに、お礼を言う紫村。まだ感謝するには早いと思うのだが。
紫村の顔を見て、思わずまた俺の口から言葉がもれる。
「おまえ変わったよな?」
「え?」
「ほら、入学式のころとか、お前は自分が全部正しいっていう感じで、考えの違う他人に対して攻撃的だっただろ?最近は全然雰囲気違うよな?」
「それは多分……自分が間違っていることもあるかもしれないって思うようになっただけで……」
「そうだよ。完全な人間なんていねえよ。間違ってることなんてあって当たり前だし、自分が正しかったとして、考えの違う人間が間違いというわけでもねえんだよ」
「え?」
「世の中にはいろんな考えの人間がいるってこと」
「あ、ああ……。心に止めておくよ」
以前はあれほど苦手意識を持っていた紫村に、俺はなんだか親近感を覚えた。
お互いそれ以上話すことなく、再び素振りを始める。
朝の清々しい空気。木刀を振る音。仲間たちの息遣い。
悪くない朝だ。
そう思っていた時だった。
「だからこんなところで練習なんてするんじゃねえよ!目障りなんだよ!」
この平和な空気を引き裂くような、耳障りな声が響いた。
声の主に対して俺たちの視線が集まる。
毒島と沼部だった。




