第14話 第一階層
ダンジョン学園にある全10階層の低層ダンジョン、通称チュートリアルダンジョンの第一階層は、だだっ広い洞窟という感じの場所だった。
初めてダンジョン内に足を踏み入れて興奮しているのだろう。騒ぎ出した新入生たちを教師が危険なダンジョン探索は遊びではないのだと注意する。
だが実際この第一階層に出るスライムという魔物に関しては気を付けることはほとんどない。
酸性でできているスライムの体に触れ続けると軽い火傷になるが、そうならないために全員肌の露出を極力なくすような装備を着ているし、もし触れてもすぐに洗い流せるように水を入れた水筒を所持している。スライムに殺されるにはじわじわと体が溶かされていくのを我慢し続けるしかなく、逆に難しい。そんな第一階層だからこそ、教師の注意も軽くすんでいるし、地下迷宮というものに慣れるまで探索するにはちょうど良い階層なのだと思う。
少し移動して、担任が岩陰を指差して言った。
「あそこに一匹いるな。今から試しに倒すから見ているように」
地面に水たまりのような水色の塊があり、波打つようにゆっくりと動いているのが見えた。
担任の真島は、そんなスライムに近づいていくと、手に持った木刀で軽くたたいた。
次の瞬間、スライムはいとも簡単に消滅した。
「こんな感じだ。だれでも簡単に倒せるはずだ。残されたジェムは一応拾っておくように。スライムのジェムは一個百円くらいにしかならないが、倒した証拠にもなるからな。運がよければポーションもドロップする。倒した跡はしっかり確認しとけよ」
スライムが消えた場所には、黒い石のようなものが残っていた。
真島はそれを拾いみんなに見せる。
「それじゃ各パーティーごとに分かれてスライムを狩りに行ってくれ。今日は全員が一人1体以上倒すのが目標だ。全員が倒し終わった後も、余裕があったら時間内はなるべくたくさん倒してみるように」
クラスメイト達はそれぞれのパーティー別に分かれて移動していった。
俺も紫村たちと一緒にスライムの狩り場を探して移動してゆく。
洞窟の中を歩いているが、なかなかスライムの姿は見つからない。これでは倒すよりも探す方が大変そうだ。
歩行中の沈黙に耐え切れず、俺は紫村に話しかけた。
「そういえば紫村のスキルの雷魔法ってどうなんだ?」
「どうとは?」
急に張り詰めた雰囲気になる紫村。あまり聞いてはいけない話題だったか?
でもユニークスキルというのだから非常に気になる。
「いや、授業の時紫村だけスキル見れなかったからさ、どんななのか興味あるんだ」
「大したスキルじゃないよ」
「なんだよその言い方?大したことあるだろ。ユニークスキルだろ?俺なんかスキルがないから、羨ましさしかないぜ」
すると紫村は突然立ち止まり、俺の方へと振り返った。
「な、何だよ?」
紫村の怒った表情に若干戸惑う俺。
だがその直後、握手のつもりだろうか、紫村は右手を差し出した。
「?」
仲直りということだろうか?
俺はおそるおそるその手を握り返した。
次の瞬間
「痛て!」
触った右手にビリっとした痛みが走り、思わず手を引っ込める俺。
「まさか、今のが雷魔法か?」
俺の言葉に黙ってうなずく紫村。
「おまえ、スキルを見せてくれるのはいいけど不意打ちは止めろよ!危ないだろうが!」
「危なくないよ」
「何が危なくないだ!スキルだぞ!魔物を倒す時に使うものだろ!」
「僕の雷魔法じゃ魔物は倒せないんだよ」
「へ?」
「僕の雷魔法LV1は、電圧は高いけど電流が0.2ミリアンペアくらいしかないらしいんだ。殺傷力がないんだよ。それに直接触れないと使えない。これじゃスキルレベルを上げることもできない、僕のスキルはハズレスキルなのさ」
紫村はそう言うと自虐的に笑った。
ハズレスキルだからあまり見せたがらなかったのか。
だとしてもだ、
「だったら最初から口で説明しろ!ビリビリさせる必要ねえだろ!」
俺はキレた。
すると横にいた千堂があきれながら俺に言う。
「やれやれ。キョウヤが気にしているプライベートなことにズケズケと入り込んでおきながら、逆切れか。君は自分の言葉がキョウヤをどれだけ傷つけたのかわかっていないのか?」
「はあ?」
俺は眼球を見開き、千堂をにらむ。
「大丈夫だよマモル。僕は気にしてないさ」
「フッ、キョウヤは心が広いな。僕だったら怒鳴りつけてしまったかもしれない」
「待て!」
なぜ俺が悪者になっているんだ?
俺の制止を無視して二人は再び歩き出した。
パーティーのもう一人の仲間、榎島は俺たちの顔色を窺っていたが、紫村たちの後を追って歩き出した。
「俺を置いていくな!」
俺はキレながら再び紫村たちの後に続いた。
それから10分ほど歩いただろうか?
先ほどまで周りで聞こえていたクラスメイト達の喧騒も聞こえなくなっていた。ずいぶん離れてしまったのだろう。
しかしまだ一匹もスライムを見つけることができず、パーティーリーダーの紫村も少し焦っているように見えた。
「あ、あそこに一匹いるぞ」
俺がスライムを見つけて指さす。
少し凸凹した足元の、一段低くなった箇所にひっそりとスライムがいた。
「本当だ。まずあれを倒そう。どうする?一ノ瀬君が見つけたのだから一ノ瀬君が倒すかい?」
「あ、お先にどうぞ」
スライムを見つけられず焦っていたようだったから、こいつを倒せば紫村も落ち着くだろう。
「ありがとう、じゃあ僕からいかせてもらうよ」
そう言って紫村はスライムに向かって踏み出してゆく。
木刀を構えスライムを叩くと、担任が見せてくれたように簡単に倒せた。
黒いジェムが残る。
「スライムを倒すより見つける方が大変そうだな」
紫村はジェムを拾いながらそう言った。
確かにその通りだ。どこかに群れでいないものだろうか?
「あっちにもう二匹いるな」
スキルを使って見つけたのだろう千堂が呟く。
俺たちもそちらを見た。
紫村がいる場所から少し先に谷間のようになっている場所があり、その向こうの平らな場所に二匹のスライムがいた。
谷間の横に歩いて通れそうな場所があり、そこを通ればスライムのところまで行けそうだ。
「行こう」
紫村が言う。だが崖の横を通って行かなくてはならず、突風が吹いて足を滑らせたりしたら転落の危険がある。
まあ山の上とかじゃないので突風なんて吹かないんだけど。
なので全員紫村の意見に反対することなく、俺たちは二匹のスライムの方へと向かうことにした。
その時だった。
先頭を歩く紫村の頭上から何かが落ちてきた。
「うわっ!」
スライムだ!
紫村は頭にスライムを乗せた状態でパニックになっている。
「キョウヤ!」
心配する千堂の声が響く。
助けなくてはいけないが、木刀で殴ったら紫村が怪我をしてしまう。
俺は紫村に駆け寄ると、おもむろに両手でスライムを掴み紫村から引き剥がした。
ベチャッという音とともに地面に叩きつけられたスライムは死に黒いジェムへと姿を変えた。
そこで一安心したのは俺だけだった。
未だ混乱している紫村は目をつぶったまま、目の前を掻き分けるように両手を振り回している。
フラフラとおぼつかない足元の先には崖が。
「危ない!」
俺は手を伸ばし紫村を引き寄せる。
俺の方へと倒れ込む紫村と、その反動で前へと姿勢を崩す俺、その時紫村の振り回す腕が俺を突き飛ばす形となった。
「あっ!」
「一ノ瀬!」
千堂が俺の名を呼ぶ声が聞こえると同時に、俺は崖の下に落ちていった。




