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トラウマコンプレックス  作者: 土ノ文
緋縅の椿
14/30

邂逅

 愛璃と共に刹那さんの後を追い、最初ここに来た時に入ってきた場所まで来ていた。こうして改めて見ても普通のよくあるような旅館にしか見えない。まさかあんな地下があるとはとても考えられないな。まぁそれが狙いでこうしてるのかもしれないが……。


「刹那さん、なんでこの建物はこんな感じなんだ?」

「ん? 何か不満かな?」

「不満とかじゃなくて、もっと目立たないようにすれば良かったんじゃないかと思って気になったんだ」

「あ、それ私もちょっと思った。外から見たときすごいわかりやすかったから」


 隠れ家にするにしてはあまりにもこの建物は目立ちすぎている。しかも今は周囲が焼け野原になって一軒だけ建っているというどう考えても違和感しかない状態だ。だというのに場所を変えるつもりもなく堂々としている様子にどうしても疑問を持たずにはいられなかった。


「あーそれはもちろん考えたさ。それに実際そうしてる仲間だっている」

「じゃあこの内装にしたのは何か理由があるのか?」

「当然だ。いいか? 私があえてこの旅館を選んだ理由はな、私が旅館をやってみたかったからだ!」


 堂々と、胸を張って高らかにそう言い切る。そのあまりにも適当な決め方に思わずあっけにとられてしまう。


「やってみたかったって……それだけで決めたの?」

「愛璃には、それに琉生にもまだわからないかもしれないがな、私は女将というものにずっと憧れてたんだ」

「……そうなのか」

「そうさ! だからこそ、どうせ私が最終決定権を持ってるなら好きにしてやろうと思ってな。実際、こうなってしまう以前には普通に旅館としても営業していたんだ。始めたての頃は人が全然来なくて大変で――」


 まるで夢見る子供のように、身振り手振りを交えて旅館の良さを目を輝かせながら語り始めてしまった。触れてはいけない話題だったのかもしれないと思ったが時すでに遅く、話題を変えようにもその隙すらなく歩きながらその話を聞かされることになった。


____


「――それで、男湯と女湯の看板を間違えたときに……っと、まだ話したりないんだが、続きは風呂の中で愛璃に聞いてもらうことにするか」

「え……い、いや私ももう……」

「そう遠慮するなよ。琉生もゆっくりしてくるといい」

「ぁぁぁぁ……琉生ぃぃ…………」


 延々続くかと思われたその話は、意外にもあっさりと中断される。まだ続けられるらしい愛璃に心の中でひそかに敬礼を送っておく。二度と刹那さんの前であの手の話はしないと誓おう。


「さて、と……」


 目の前には『ゆ』と書かれた青いのれんが垂れさがっている。本当は場所だけ見て戻ろうと思っていたのだが、ここに来るまででやけに疲れたこともあって気が変わった。

 刹那さんが好きでわざわざ旅館にしたということもあって、今はほとんど使われていないだろうに通路やちらっと見えた部屋もかなり奇麗になっていた。ならば風呂は、と気になってしまうのも仕方ないというもので、胸を高鳴らせてのれんをくぐり――


「ん?」


 ストレッチをしている途中の、かなりガタイがいい全裸の男と目が合い、一瞬時が止まる。しかし、すぐに全裸の男はこちらに向き直り、そのままファイティングポーズを取る。


「誰だお前! まさか……侵入者か!? ちょっと、刹那さーん! 侵入者が風呂入りに来てる!」

「お、落ち着け! 俺は侵入者じゃない!」

「嘘つけ! 僕が知らないやつがここにいるはずないだろ! 大人しく倒されろ! メタモルフォージ!!」

「本当に違うんだって! 昨日ここに来たんだよ! なぁ、聞いてるのか!?」


 なんとか事情を理解してもらおうとするが、まるで耳を貸そうともしない。そして服を入れていたかごの中から片手で持てる程の大きさの金槌を取り出すと、それを掲げて何か叫び始める。

 本当におかしい奴なのかと一瞬思ったが、その叫び声を合図にするようにして手に持っていた金槌が少しづつ姿を変えていき、ファンタジーでよく見るような剣の形になった。


「僕の名前は八剣碧(やつるぎ あおい)だ! さぁ侵入者め、覚悟しろ!」

「いい加減に話を聞けって! うわっ!?」


 碧と名乗ったその男が剣の形に変形したそれを構えたまままっすぐ突っ込んできたのを、横に飛んでギリギリのところで避ける。みれば、剣が振り下ろされた場所にあった柱に剣先が食い込んでいた。ふざけているのかとも思ったが、あれを見る限り本気で侵入者だと思って殺しに来ている。


「この、ちょこまかと……あ、あれ? 抜けない……! お前、何をしたんだ! 正々堂々と戦え!」

「何もしてないし敵じゃないって言ってるだろ!」


 強く切りつけすぎたのか幸いにも今の一撃で柱から剣が抜けなくなってしまっているらしい。可能ならば話を聞いてもらえる状況にできれば一番いいのだが、武器を持っている相手に丸腰で行く勇気はない。かといって逃げようにも出口は相手のすぐ近くにあるうえ、下手に動いてはさらに警戒させてしまうかもしれない。


「碧! どうした! ……本当にどうした?」

「刹那さん! こいつ! こいつ侵入者!」

「だから違うって何回も言ってるだろ!」


 その直後、憔悴しきった様子の刹那さんが入ってくる。そしてすぐに状況を理解したのか、何度目かのそのやり取りを見てこちらに同情の目を向けてくる。


「あー……碧、そいつは侵入者じゃない」

「早くあいつを……え? 違うの?」

「そいつは守光琉生って言って、昨日ここにきたばっかの仲間だ」

「仲間……」


 刹那さんの言葉を繰り返しながらも少しづつ状況が理解できて来たのか、俺と刹那さんを交互に見てようやく未だに埋まっていたままだった剣を元の金槌の形に戻した。


「……じゃ、じゃあついに男が増えるのか!? よかった……ずっと茂さんと二人だけでいたたまれなかったんだよ。僕は八剣碧、これからよろしく!」

「……よろしく」


 そして、さっきまでの様子が嘘のように笑顔を浮かべて握手を求めてくる。その変わりようがいまいち受け入れられなかったが、その勢いに負けて握手に応える。恐らく今までで一番、第一印象の最悪な初対面だった。

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