洗礼
「それではソフィさん、こちらへどうぞ。」
「はいっ。」
俺達は今、ゼブー神教国の首都のど真ん中にある大聖堂に来ている。
何でかってーと…
「貴女を、第4649番聖女に認定致します。」
「ありがとうございます!」
あれからあれよあれよという間に首都で認定の儀式をする事になってしまったのだ。(その前にレッドボアはソフィに美味しく頂かれた。)
聖女認定といっても儀式をやるだけで、聖女という肩書が増えるだけであり、各地の教会や公的機関で色々融通がきくという事だったので、受ける事にした。
壇上のソフィは他人から認められたのが存外嬉しかったのか、溢れんばかりの笑顔だ。
「それでは、貴女にはこれからいくつかの選択肢があります。一つは今までの暮らしに戻る事、貴女であればお連れの方と共に旅を続ける事。もう一つは聖女としてこの地に残り、神にお仕えする事です。どちらに致しますか?」
「もちろん旅です。」
即答だよ…
こんな時はちょっとぼかして聖女も良いけどくらい言っておいた方が角が立たないと思うんだけどな。
「そうですか…それは残念です。しかし、貴女のような方が聖女として旅を続けてくれる事こそが多くの人を救う事にも繋がるのでしょう。それでは、最後に聖女の証であるネックレスを贈呈します。」
おお、あちらの司祭さんは眉一つ動かさずに太っ腹だなぁ。
しかも聖女認定のネックレスまでくれるなんて。
司祭さんが掲げたネックレスには大粒の宝石がついている。
ちなみに、礼拝堂のあちこちで働いている女性達も皆同じネックレスをかけている。
この国の聖女ってたくさんいるんだなー。
宝石じゃなくて魔石だろうなー。
ろくでもない効果があるんだろうなー。
そんな心配を他所に、ソフィの首にそのネックレスがかけられた。
「さて、これで全ての儀式は恙無く終了致しました。貴女の旅路が心易きものでありますように。」
「はい、どうもありがとうございました。」
そう言って振り返り、そのままこっちに小走りで寄ってきた。
「それじゃ次の国に行こう?」
「あ、ソフィお前首都が東寄りだったから聖女認定受けたな?」
「ふ菓子とまだ見ぬ食べ物が私を呼んでいる。」
当初の予定ではこのままゆっくりこの国を周って最後に首都の予定だったけど、ここまで来ちゃったら他に行くべき所なんてそう多くないもんね。
妙に聖女認定に乗り気だったのはこの国を早く切り上げて次に行きたかったからか、ぬかったわ。
「しょうがない、今回は俺の負けだ。さっさと次に行こう。」
「わーい。」
そんなわけで大聖堂を後にしようと歩き出した所で、
「ソフィさん、ちょっとお待ちなさい。」
「ん?」
さっきの司祭さんに呼び止められた。
「それでは良き旅を。」
「はい、ありがとうございます?」
儀式の最後と同じ様なやり取り。
「おや?ネックレスを着けた貴女には、神の言葉が聞こえて来ませんか?」
「聞こえてますよ。」
「それでも旅を続けられる、と?」
「はい。駄目でした?」
「いえ、駄目ではありませんが…ほとんどの聖女は神の声を聞き、そこで考えを改めるのです。ですから少々驚きましてね。ささ、旅の始めに聖水で体を清めて行くとよいでしょう。」
司祭さんがポンポンと手を叩くと、聖女さんの一人がグラスに注がれた水らしきものを持ってきた。
「聖水って儀式の最初に飲んだんじゃ?」
「先程のは儀式用、これは旅の無事を祈るものですから。」
「はぁ、なるほど。」
そんなこんなでソフィはおずおずといった感じで聖水とやらを飲んでる。
そんなに水ばっかり飲ませたらソフィのお腹がタプタプに…ならないな。
ブラックホールかよってくらい入るからな。
「はい、飲みました。それじゃ私はこれで。」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。」
また引き止められる。
「おかしいですね…君、ちゃんと《聖水》を持ってきたのかね?」
「はい。」
水を持ってきたお姉さんが答える。
「いい加減出てっても良いですか?」
「ふむ…皆の者、入口を塞げ。」
出て行こうとしたらそこらにいる人達に入口を固められてしまった。
そろそろ本性を現すかな?
「どうかしましたか?」
「少々厄介な事になってしまってね、君達をすぐに帰すわけにはいかなくなった。」
という事は知られちゃいけない情報を知ってしまったのか、俺達は。
ソフィに確認してみる。
「ソフィ、神の声ってどんなん?」
「ずっと“チャーム”って繰り返してる。」
アウトー!
チャームって魅了魔法やん。
神やべぇ、いや、やべぇのはネックレスか。
「ちなみに聖水も一回目は魔力抵抗を下げるポーションで、さっきのは痺れ薬だね。多分ふ菓子に塗ってあったやつと同じ。」
痺れ薬のテンドンでした。
流行ってるのかな?
コソコソ話をしていたら、司祭さんがこっちに話かけてきた。
「本来なら神の声を聞いた聖女はたちどころに改心し、未練を断ち切ってその身を神に捧げるのですが…どうゆうわけか今回はそうならなかったのです。」
「はぁ、不思議ですねぇ。でもまぁそんな事もあるって事で良いのでは?」
「駄目です。神は絶対なのです。」
はぁ…やだやだ、ちょっとは自分の意志を持ってほしいよね。
「貴女達には異端審問を受けていただきます。」
審問という名の拷問ですね。
「大丈夫です。邪教徒でない事が証明されれば、今まで通り旅を続けられますよ。」
旅ってどうせ黄泉路だろ。
「いえ、たった今父が危篤になった気がするので帰ります。」
「私も家の鍵を締め忘れたか不安になったので帰ります。」
「従えないならば、強制的に拘束するまでです。」
周りに佇んでいた聖女さん達が槍やら剣やらを構えながら俺達を取り囲んだ。
「ソフィ、家の鍵くらいで帰してもらえるわけないだろ。」
「ローガンのは嘘くさ過ぎでしょ。」




