受付嬢の誤算
「な、何故だ?お前にとってあの少年は特別なのだろう?」
「たまたま二度連続で居合わせただけだ。そんな事より、もう手札は出尽くしたようだな。」
「ぐ、何故だ!?何故我々を目の敵にする!?」
「それは、自分がよく分かっているんじゃないのか?」
「我々がしているのは慈善事業だ!子供を軍に入れて上げるためのな、別に誘拐も洗脳も無理な成長促進もしていない!」
「そんな事も計画していたのか?」
「とすると…軍を掌握してクーデターを起こす計画が漏れたのか…?エルザから聞き出したのか!?」
「そんな事まで計画していたのだな。救いようがないな。」
「その後はロコー領を魔王軍と挟み撃ちにして、王都への足がかりを得る計画だったが、そこまでは知らなかったようだな。」
「お陰様で今知ったがな。」
「貴様!他人の秘密を暴くとは何という卑劣な奴!こうなれば何としてでもここで殺す!」
これだけはやりたくなかったが仕方がない。
私が念じると、そこら中に転がっている魔物の魔石が浮かび上がり、私の元に集まって来た。
それを全て自分の体に埋め込んでいく。
通常であれば、魔石を体に取り込んでも意味などない。
しかし、自分の魔力を通し続けた魔石ならば自分の力に出来る事もある。
一つの器に複数の魔石を持つというのはあまり推奨されない。
元々の魔石と拒絶反応が起き、主導権争いになってしまって、下手をするとまともな思考すら出来なくなってしまう。
しかし、今はそれ所ではない。
自分の実力以上の相手に機密情報を握られてしまった。
悔しいが、私も自分の限界を超えなければこいつを倒せそうに無い。
直後、体が燃えるように熱くなった。
「グ、グオォォォ!」
…熱が収まった。
取り込んだ魔石が全て体に馴染んでいるのを感じる。
実験対象であったとは言え、私のペットたちは皆私の事を慕ってくれていたのだ。
体の内側から力がわき上がってくる。
勝てる、これだけの力があれば勝てるぞ!
レッドドラゴンの火力、シーサペントの柔軟性、グランドドラゴンの馬力、グリフォンのスピード、麒麟の空間把握、ケルベロスの獰猛さ、そしてグラトニースライムの全てを受け止める吸収能力。
全ての力が今、私の中で混ざり合い最強の存在へと上り詰めた!
「先に…礼を言っておかねばならないな。私は今まで自分に自信が無かった。だからこその魔物軍団だったのだ。それが今やこのパワー、スピード、圧倒的な魔力!こんなに清々しい気持ちになるとは思っていなかった。」
「そうか。」
「姿が変わっていないから半信半疑なのだろう…オラ!」
一瞬で後ろに回り込み、拳を繰り出す。
奴は抵抗も出来ずに壁まですっ飛んだ。
「フハハハハハ!反応もできまい!?」
意外にも、吹っ飛ばされた先で何事もなかったかのように着地する。
「やれやれ、お前らは本気を出す時必ず後ろに回ってパンチを出すのだな。」
「ギリギリで受け身をとりおったか。しかし、お前の自慢の剣はもう無い。これで万策尽きたのではないか?今なら泣いて命乞いをしたら助けてやらんこともないぞ?」
「それなら心配無用だ…シャインパワァァァ!チャージィッ!」
夕暮れの太陽の光が、奴に降り注ぐ。
そこで奴は右手をふり上げ手のひらを真上に向けた。
「ヴォルカノォォン、ロッドォォォ!!!」
奴の右手が光ったと思うと、光がゆっくり真上に延び、ちょうど剣くらいの長さで止まった。
奴が手を振るう、同じく光の棒状のものもそれに追従した動きをする。
「まさか…あのレベルの魔剣を召喚できるのか!?」
「召喚ではない。太陽のエネルギーをどうにかしてノリで作ったような感じだ。やはり武器名、必殺技は叫んだ方が気持ち良いな、これからはそうしよう。」
「ノリで作っただと!?ふざけた事をぬかすな!」
伝説級、下手をすると神話級の武器を数秒かつノリで作る…言っている事が全く理解できない。
「すまんな、こちらもキャラ作りが明確ではないので探り探りなのだ。更に今は時間がないからな。」
「時間…?」
「そう、勇者の事でな。」
勇者!?
まさか勇者が関わっていたというのか!
コイツも勇者の関係者…
侮っていた。
私が勇者をあそこに導く所まで読まれていたという訳だ。
勇者が来た時に警戒したのでは遅かった。
全ては勇者達の掌の上だったのだ。
「ならばもう多くは語るまい。私の命をもって、一人でも多く神の尖兵を減らしてやる。」
「神の尖兵ではないが、受けて立とう。」
「最後に聞いておきたい。貴様、名は?」
「…力無き者の刃、ルミナスブラック。」
「そうか、私は魔王軍…いや、バァル。悪魔のバァルだ。」
こいつには肩書など要らない。
私の全てで相手をしてやる。
拳を振りかぶる…奴も剣を正眼に構えた。
束の間、時が止まったかのような静寂。
「ッ!!!」
全力で地を蹴る。全力で腕を振るう。
あまりの速さに自分に思考が追い付かない。
ドンッという衝撃があった。
手応えあり。着地。振り返る。
奴は…さっきまで私が立っていた所に変わらず立っていた。
…無傷で。
下を、見る。
私の胸に穴が開いている。




