何をやっても上手くいかない受付嬢
爆発の中心部には、黒ずくめが無傷で立っていた。
手には剣の様な物を持っていて、その刀身が光輝いている。
「様子見は不要だ。全力で来い。」
「な…貴様!私の調教した魔物達を何処へやった!?あれは一体でもSランク冒険者が協力して倒せるレベルなんだぞ!?」
「現実から目を背けるな。出し惜しみなぞしていると命を縮めるぞ。」
「クッ!」
恐らくは別の場所に転移させられたか…そんな簡単に倒せる筈がない。
さっきまでペット達がいた辺りに極大の魔石が転がっている気がするが、あれも幻術魔法の類に違いない。
ならば対応しきれない程召喚してやれば良い。
「“サモンゲート”」
今度は私が持っているありったけの魔物を投入する。
強化型のオークからドラゴンまで総勢100体にも及ぶ私のコレクション。
これだけ投入すれば、もはや体力も保たないだろう、という私の目論見は、数十秒後には霧散する事となる。
「…もう終わりか?」
「そうか、それならもう遠慮なく死んでもらうとしよう。」
私に残された最後の魔物。
実験の果てに生まれた失敗作、グラトニースライム。
それは一見ただの大き目のスライムだ。
しかし見た目とは裏腹に強力な能力がある。
とはいっても、能力自体はシンプルなものだ、溶解と吸収ただそれだけ。
どんな相手でも溶解、吸収してしまう。
相手どころではない、魔法も斬撃も何もかも吸収してしまうのだ。
一見最強にも思えるが、問題もある。
指示を全く聞かないのだ。
主人の私以外は全てを溶解吸収の対象なので、召喚場所が非常に限られる。
今回は下手をすると街の広い範囲にも被害がでてしまうかもしれないが、致し方ない。
「餌の時間だ。好きなだけ食え。」
私の声を聞いたのかどうか、スライムがゆっくりと動き出す。
いつまでも満たされる事のない食欲を満たす為に。
スライムが蠢く毎に地面がジュウジュウと音を立てている。
普段はどこにも触れないように、浮かした状態で封印しているから、地面すら餌だと思っているようだ。
魔法でも何でも打ち込むと良い、全て吸収してコイツの養分にしてやる。
さぁ、どうする?と思ったのも束の間、黒ずくめは一気に接近、持っていた光の剣を躊躇なく一気に突き刺した。
何の確認もせずに突きこむとは馬鹿な奴め、そのままスライムに呑まれてしまえ。
しかし手応えを感じなかったのか、黒ずくめは剣から手を離すとすぐに後ろへ飛び退った。
「おやおや、良かったのか?折角のご自慢の剣は私のスライムに呑まれてしまったようだなぁ。こいつは相手からの攻撃を受け付けず、ただただひたすら浸食し、溶解し、食い尽くす存在だ。これでは手も足も出まい。」
「ふむ、それは手強いな…しかし。」
そこで私はある事に気付いた。
スライムが動きを止めている事、そして光の剣が呑み込まれずにスライムに突き立ったままである事に。
一瞬スライム全体が淡く光ったと思うと、次の瞬間には光の剣ごと爆散した。
「そ、そんな馬鹿な!?」
「ある所に、何でも貫き通す最強の槍とどんな物でも貫けない最強の盾を売っている商人がいた。そこである人が商人に聞いた。『その槍でその盾を貫いたらどうなる?』とな。答えは商人にも分からない、やってみるしかないと言うわけだ。今回は両者痛み分けといった所か。」
「痛み分けだと?そんな事あるはずがない!あれはドラゴンのブレスすら吸収してしまう魔物だったんだぞ!?どんな手品を使った!?」
「…で?それで手札は最後か?」
まさか、グラトニースライムすら一撃とは…
考えろ、何か奴にも弱点があるはずだ…そうだ!
「貴様、教会でエルザを倒した奴だな。その時に捕まっていた少年と関係があるとみた。しかもお前はその翌日、暗殺者から少年を助けているな。残念だがそいつは既にこっちの手中だ。あの少年を助けたいのなら大人しくしろ。」
これだ。
推測でしかないが、コイツが恐らくエルザを殺った。
そして、目撃者となった少年暗殺に失敗した時も、邪魔をした黒ずくめがいたという話だった。
他にもロニーとか言う引退冒険者もいたそうだが、それはどうでも良い。
コイツにとって、あの少年は特別な存在なのだろう。
しかし、既に契約によってあの少年はこちらの意のままだ。
少年を人質に、奴を殺…いや、これだけの戦力だ。
上手く使えば魔王軍幹部も夢ではない。
「好きにしろ。こちらはこちらのやるべき事をやるのみ。」




