ギルドの受付 エミリー
ローガンが自室に戻った頃
エミリーはギルドの受付横にある救護室で休憩をしていた。
冒険者ギルドはその性質上怪我人が運ばれてくる事も多い。
そんな訳で大体の冒険者ギルドには救護室があり、使っていない時には事務員の休憩場所として使われる事もあるのだ。
「そろそろかしらねぇ。」
伸びをしながら救護室の入口の扉を見つめていると、コンコンという控えめなノックの音がした。
目的の人物では無い。
もしそうなら、もっと遠慮なくノックをしてくる人物だからだ。
「どうぞ、開いてますよ。」
エミリーが声を掛けると入って来たのは全身黒一色で身を固めた人物だった。
顔もフルフェイスで覆われた兜を被っており、誰なのか全く分からない。
「どちら様?」
「どちら様とはご挨拶だな。私と会いたがっていたようだから、会いに来たのだ。」
「私が?私はただのギルドの受付ですよ。私個人が人を探したりはしません。あ、もしかして高難度の依頼をやって下さる方ですか?それならずっと探していましたが。」
「生憎、今は時間が無くてな。押し問答をしてる暇が無い。いくぞ。」
黒ずくめは腰から短剣を抜くと、そのまま腰だめに構えてこちらに向かって来る。
エミリーは咄嗟に床に転がってそれをやり過ごすと
「な、何を言っているのか分かりません。今のだって、元冒険者の私だったから避けられたものの、もしもの事があったらどうするつもりなんですか!?」
「白々しいな。」
「そこまでして私を狙うという事は、ギルドを恨んでいる人からの依頼ですね?私なんてただの受付ですよ?」
「そう思うならそれで良い。やる事に変わりはない。」
黒ずくめが再び短剣を構えた所で、黒ずくめの背後の影が音もなく盛り上がる。
盛り上がった黒い影は、みるみるうちに双頭の犬の形を取り、黒ずくめに襲い掛かった。
ガキン!
「それで不意をついたつもりか?」
黒ずくめは影から襲い掛かった双頭犬、オルトロスの牙を短剣で受け止めていた。
いつの間に振り返ったのか、エミリーの目でもよく分からないほどのスピードだった。
「チッ!」
視界の隅で、オルトロスが蹴り飛ばされるのが見える。
そのままオルトロスに時間を稼がせ、エミリーは救護室を飛び出した。
「“リーディングボイス”…助けてください!救護室に暴漢がいます!」
補助魔法を使い、酒場に向かって声をかける。
リーディングボイスは自分の声に真実味と迫力を持たせ、対象の思考を誘導しやすくする魔法だ。
「何ぃ!?」
「ギルドにカチコミたぁ舐められたもんだ!」
「エミリーちゃんに手を出すとは…許せん!」
酒場から約20人ほどの冒険者が駆け出して来た。
受付からも同僚達が出てきてくれた。
「ありがとう皆!それじゃぁ、“強制指揮”」
途端に全員棒立ちになり、指示待ちの状態になる。
強制指揮は一定の範囲にいる者を短時間だけ指揮下に置くスキルだ。
ただ敵対関係だったり、友好的でなかったりすると効果が無い。
だからこそ、最初に全員味方にしてしまってから指揮下に置いた。
「総員、侵入者を殺せ。オルトロスは味方だ、協力して事に当たれ。」
指示を出した所で黒ずくめが救護室から現れた。
「あいつだ、かかれ。」
その場にいた全員が一斉に黒ずくめを取り囲む。
エミリーはそのまま後ろを振り返るとギルドの奥に向かって走り出した。




