逃げよう!
とりあえず酒場に移動しよう。
ここで走って逃げたりしちゃだめだ、ゆっくり、冷静に、ただのモブの後ろ姿を晒して移動だ。
いかん、ソフィのトラウマが再発したのか、お腹を抑えて蹲って震えている。
「ガストンさん、今日はちょっと調子が良くないので、お部屋で休みます。」
「どうした坊主?確かに血色が良くないな…後で何か軽食を持って行こうか?」
「いえ、お気持ちだけで結構です。寝てれば治りますから。」
そのままゆっくりと部屋まで歩いてゆき、鍵を掛けて大きく深呼吸。
一応水の膜を部屋の壁に這わせ、遮音と目くらましをさせる。
「よし、ちょっと作戦会議だソフィ…」
「お腹痛い…お腹痛い…」
ソフィが人型に戻って、お腹を抑えてメソメソしてる…
苦手な相手って、落ち着いてから相対すると余計に苦手になったりするよなぁ。
大蜘蛛で戦ってた時は興奮してたからなぁ。
俺までお腹痛くなりそうだ。
「まさか勇者がこんな所に来るなんてな…しかもアラン兄ちゃんまで…」
雰囲気的には俺を探しに来たとかそんな感じでは無いのがせめてもの救いかな…
「ソフィ、そのお腹の痛みは中々解決が難しい。精神的に勇者を乗り越えないといけないからね。だから、とりあえず今は逃げよう。」
「まだここに来てそこまで経ってないのにか?」
「まぁそれはしゃーない。勇者には俺も会いたくないし、何より何故か俺の兄ちゃんも同行してる。絶対に見つかりたくない。」
「でも、色々解決してから逃げた方が良いんじゃないか?」
すごいな、今すぐにでも逃げ出したいだろうに…
「ソフィ、今回の暗殺者の黒幕って誰か分かる?」
「ん、ばっちし。」
「それなら、そいつをぱぱっと解決して、勇者と顔を合わせる前に逃げよう。」
「おー。」
そんな中で、乱暴に扉をノックする音。
「ローガン君、ローガン君!」
この声は地味君だな。
一応ドアを開けて確認すると、やっぱり地味君だ。
何故か体のあちこちが汚いというか、土にまみれている。
「どうかしたんですかね?」
「君も僕のように強くなりたいだろう!?良い方法があるんだ!」
「いや、別に強くなりたいとは思ってないですよ。」
「そうだよね!それならこれを…何だって?」
「いや、そんな一気に強くなろうとか思ってないんです。しかも手に持ってるその本なら、この部屋にもありますよ。読んでませんけど。」
「そんな馬鹿な、強くなりたく無い人間なんて、いる訳がない!君だって捕まった時には恐怖しただろ!?力さえあればこんな事には、と考えたはずだ!」
正直、自分から捕まってたからなぁ。
「まぁ、そこら辺は人それぞれですよ。僕は慎ましく生活できれば満足なので、それじゃ。」
扉を閉めようとしたが、足をはさまれた。
「いや、君には嫌でも強くなってもらわないといけない。彼らに僕の事を認めさせないといけないんだ。」
「彼ら?」
「勇者達さ。折角この僕が力を貸してやると言ったのに拒否した。あいつらには僕の本当の力を見せつけてやらないといけないんだ。あの人が、君も一緒に契約すれば僕達はもっと強くなるって言っていたから、今こそそれをやらないといけない!」
「強引な契約は新聞も宗教もお断りなので結構です。」
「契約と聞いて不安なんだね?何のデメリットもないよ!たまに意識が飛ぶ事があるくらいさ!」
とんでもねぇデメリットじゃねぇか!
「やっぱりお断りですね。」
「そうか…それならこの力の素晴らしさを身を持って経験してもらおう。そうすれば、君も気が変わるかもしれないからね。」
扉の隙間から地味君が手を振りかぶるのが見えた。




