怪しい
「お前がそんな怪我をするなんて、珍しいこともあるもんだ。ポーション使うか?」
「いや、折れてるみたいでな。下級ポーションでは一時的な痛み止めにしかならない。ここなら治療師がいると思ってな。」
どうみても怪しい。
昨日逃げた奴は足を引き摺っていたしな…
「それにしてもガストン、一緒にいるのはこの間の新人君だろ?若者への世話焼きも良いが、過ぎるとウザがられるぞ。」
「大丈夫だ、迷惑はかけてないからな。」
迷惑です。
「新人君、水魔法は地味で使用者が少ないが、諦めずに頑張るんだぞ。」
「まぁ俺なんざ魔法も使えないからな。神殿に払う金が勿体ないし、そもそもどうせ使いこなせねぇよ。」
「お前は酒さえあれば十分なタイプだからな。」
水魔法の情報も知られてるし、昨日のはコイツか?
でもこのタイミングで接触してくる意味が分からない。
…いや、これは無言のメッセージだ。
ギルドに逃げ込んでも、お前に心休まる瞬間はないぞ、という。
部屋に入ったらソフィに話を聞こうと思ったけどこれじゃ駄目だな。
ソフィに変身無しで、と合図する。
前脚で敬礼して、「ラジャ!」と返事をくれた。
エミリーさんに案内された部屋はギルドの酒場スペースの脇の階段を登った所にあった。
廊下に4つ木の扉が列んでいて、指定された扉をくぐる。
部屋の中には簡素なベッドと机、衣装掛けが置いてある。
食事やトイレは酒場で、って感じかな。
隣には地味君も泊まるみたい。
まぁどうやらあっちも襲われたっぽいし、そりゃあそうだよね。
ふと、机の上に本が乗っているのが目に止まった。
赤い装丁の薄めの本だ、装丁付きの本なんて高級品…こんな部屋に置くか?
怪しい。
タイトルは…
『強い男になる!〜3日でBランク級〜』
怪しい。
…何故か本の中から魔力を感じる。
怪しい。
これはスルーだな。
誰からもこんなものがあるとか聞いてないし。
罠だな。
…スルーして寝ても襲ってくるとかないよね?
そんな事もあって本はスルー。
その後程なくしてガストンのおっさんが食事に誘って来て、ギルドの酒場でご馳走してもらった。
どうやらおっさはCランクまでは行けたらしいが、Bランク級の魔物に勝てる気がしなかったそうで、昇級は諦めたらしい。
おっさんも中々いい線行ってると思うんだけど、それでもCランクか…
じゃあ3日でBランク級とか夢のまた夢だな。
この食事に地味君も誘ってきましょうか?
と聞いたら、誘ったけど来なかったとのこと。
Noと言えるタイプの人間か…羨ましい。
何だかんだで話を色々聞いている内に夜も更けて来た。
部屋に戻ったらそのままベッドにダイブして就寝。
意外にも、夜中に襲撃は無かった。
気配感知式アラームを聞く事なく起床。
朝の柔軟体操をしたあとに部屋から出ると、ちょうど隣の部屋から地味君も出てきた。
「やあ、良い朝だね!」
「そ、そうですね?」
「今日はとっても調子が良い。君はどうだい?」
「いつも通りって所ですね。」
「そうか!それなら別に大丈夫さ。今から魔物狩りでも行ってくるよ。じゃあね!」
何か雰囲気が全然違ったな。
自信に満ち溢れている感じ…良い事でもあったのかな?




