夜襲
深夜
天井の端が音も無く開き、人が一人通れるだけのスペースが生まれた。
そこから部屋の中に何者かが降り立った。
闇に溶け込むような黒装束が、部屋のベッドに向かって音もなく近づいていく。
ベッドの掛け布団の膨らみを確認すると、腰に差していたナイフを引き抜き、躊躇なく突き刺した。
手応えに違和感を感じたか、もう片側の手で布団を捲ろうとした所で、部屋の窓と入口のドアが開いた。
黒装束は少々焦ったように辺りを見回し、勢い良く布団を捲った。
捲った先にあったのは子供くらいの大きさに纏められた毛布、頭の位置に手の平…
「“アクアショット”」
黒装束の顔面に高圧の水流が叩きつけられ、男はたたらを踏んで後退った。
まぁ、馬鹿正直にベッドにはいないよね。
一応前日に捕まってる設定だし、それ位は誰だってやるよね?
「流石に昨日の今日は警戒するでしょうに…」
「………」
「今日の所はもう諦めたら?全身ずぶ濡れじゃ動きにくいでしょ?」
「………」
黒装束がナイフを構える。
お、ハンデがある中でやる気か?
と思ったら、口の中で舌先をチチッと鳴らした。
所謂符丁って奴だな。
開いたドアの向こうから、開いた窓から黒装束が一人ずつ部屋に突っ込んで来て、そのままずっこけた。
2人とも立ち上がろうともがいている。
でも立てない。
何故なら窓にもドアにも極細スパイダーストリングを蜘蛛の巣状に張っていたから、それが体全体に絡みついて動けなくなってるのよね。
廊下と天井、屋根の上に不審者がいた事は探知魔法で気付いてたから、いきなりガシャーンと入って来られないように窓とドアを開けたんだよね。
後で弁償とか言われたら困るし。
後は一応そうゆう場所に駄目元で蜘蛛糸をかけてたんだけど、まんまと引っかかってしまった。
従魔で闇蜘蛛って登録してるはずなんだけどな…予習せずに暗殺にきてしまったのかね?
「………」
「…で、どうする?」
ずぶ濡れの黒装束は一旦迷った後、持っていたナイフと懐からもう一本ナイフを出してそれぞれ捕まっている黒装束に投擲すると、自身は開いた窓から身を躍らせた。
グシャ、と嫌な音がしたので一応確認すると、足を引きずりながらゆっくり逃走していった。
「ヤバい、どうしよう…」
俺はかつてない程のトラブルに頭を抱える事になってしまった。
最後に黒装束が投げたナイフ…あれはきっと口封じのつもりだったんだろう、そこまでは良い。
…当たってない。
刀身に毒を塗っていたのかもしれないけど、当たってないよ!
2人ともピンピンしてるよ!
せっかく逃走する所まで見逃してあげたのに、ちゃんと処理して行ってもらわないと!
本来なら、襲撃があったけど犯人は仲間を口封じして逃走しました、ってくらいで報告するつもりだったのに…
このままじゃ、俺が犯人を捕まえた事になってしまう。
なんで暗殺者がこんなにへっぽこなんだよ!?
もうちょっとしっかりしてよ!
「坊主、俺達C級を捕まえたからって調子に乗るなよ。」
ここで更に悲報、蜘蛛糸で芋虫みたいになってる奴からまさかの自己紹介…敵に情報を与えちゃ駄目だろ。
しかもこのへっぽこがC級とか…
Fランクの冒険者が捕まえたらおかしいレベルじゃん、泣きたい。
にしても、どうしようかなこいつら。
いっその事、このままどっかに捨てて来ようかな…川とかに。
「何の騒ぎだ!」
突然扉を開けて現れたのは宿の用心棒ではなく、
「あしながおじさん!」
「ガストンだ、ガストン!」
「どうしてここに?」
「あーさっきまで下でここの用心棒と飲んでてな。あいつは酔いつぶれちまったから、代わりに見に来たのよ。」
怪しい。
「なるほど、ならそこの2人を運び出すの手伝ってくれます?」
「こいつらは?客ではないみたいだな。」
「そうですね、この部屋に入ろうとして、僕の従魔の罠に引っかかりました。あと一人は窓から逃走しました。」
「そうか、お前中々実力があるんだな。」
「いえ、うちの子の罠が偶然うまくハマっただけです。」
もし、さっきの奴らが滞りなく依頼を達成していたら、まさに丁度第一発見者になれるタイミングだな。
しかも、部屋を用意したのはこの人だし。
めちゃめちゃ怪しい。




