テンプレは避けるもの
「おいエミリー、こんな茶番はもう止めようぜ。こんな奴、ちょっと突いてやれば諦めるだろ。」
「ガストンさん、これは規則です。どんな人でも本人が希望するなら試験をする権利があります。」
全く期待されて無いな、でも良い兆候だ。
注目されるよりは何倍も良い。
普通、この手の相手とはギルドの裏手の訓練場で一騎打ちみたいな事になる。
それで、「おいおい、新人がDランクに勝っちまったぞ?」とか言って、いきなり高ランクでスタートみたいな展開がお約束。
ここで面倒な相手をのしてしまえば、それからは突っかかって来ないし一石二鳥といったところだけど、今回はそれはパス。
「おい、お前にゃどうせ無理なんだからよ、さっさと帰ってママにでも慰めてもらうんだな。」
いい大人が煽りよるわ。
「もう帰る家なんて無いんです。それとも、あなたが僕の生活費を出してくれるんですか?」
「ハッ、俺がそんなタマに見えるかぁ?このバスクで冒険者になろうなんざ、ろくでなしか、卑しい身分か、もしくは人に言えない事をやったヤツ位だ。お前はどれだ?」
確かに、このバスクで安定した生活をするなら、腕に自信があるなら軍に所属してしまうのが一番だ。
身分的に問題が無ければ誰でも入隊出来るし、衣食住も保証される。
とはいえ自由を求める身としては、軍とか一番無理。
こうゆうことは、受付嬢さんに助けて貰おう。
「そうなんですか?」
「いえ、そんな事はありません。ギルドは犯罪者で無い限り、一定の戦闘さえこなせれば誰でも受け入れる様にしています。ガストンさん、ギルドとその関係者への不適切な発言はペナルティーの対象ですよ。」
冷静に対処してくれている。
いや、若干怒ってるのかな?
「俺はおまえの為にやってるんだぜ?余計な仕事は誰だってやりたくねぇだろ?」
「仕事に私情は挟みません。」
「という訳でなぁ、俺がお前をテストしてやる、裏の訓練場に来………あれ、ガキは?」
「さっきの子ならもう出て行きましたよ。」
「はあぁぁ!?あんのガキ!!」
男は顔を真っ赤にしながらギルドの前に飛び出したが、もう目当ての少年の姿は見当たらなかった。
と言うわけで、ガストンさんはトボトボギルドに戻っていった。
ちょっと物陰に隠れただけなんだけどな。
あんな挑発に乗っかってはダメダメ、あーゆうのは無視一択だわ。
なんでわざわざ自分から手の内を晒すようなマネをしなけりゃならんのか………
そんなのは勇者のような脚光を浴びる人達だけで結構。
「よし、それじゃ行ってみようか、薬草採取。」
町を出て、まっすぐ南に進むと、一面緑が広がっている。
これが草原なのかな?
そう思いながら辺りを見回すと、早速一本薬草を発見。
周りにもちらほら生えてるのを見かけるし、簡単に終わっちゃうかもしれないな。
その後も一本、また一本と薬草を発見。
とりあえず摘んでいる所で、視界の隅に青いものが見えた。
ブルースライム
いわゆる一般人でも倒せる位の雑魚だ。
膜が薄いのにただ突っ込んで来るだけなので、ちょっと尖ったものでつつけば倒せる。
ただ打撃には強いので、初心者が素手で戦うと口元に飛びかかられて死ぬ事もある。
こっちが気づいた頃、あっちもこちらを認識したようで突っ込んできた。
まぁ突っ込むって程のスピードでもない。
せいぜい子供のダッシュぐらいのスピードだ。
俺はゆっくり短剣を引き抜き、横に捌きながらスライムを撫でるように切りつけた。
スライムの外膜はあっさり切り裂かれ、中味をぶちまけて動かなくなった。
肩に乗ったソフィ(子蜘蛛)が前脚を上げたので、指でハイタッチ。
引き続き薬草の2本ほど見つけた所で、再びスライムが寄ってきた。
今度は3匹だ。
ちょうど正面、右、左の3方向から迫ってくる。
「アクアショット。」
俺は左の一体に水弾を放つと、結果を見ずに右からくるスライムに向かって走った。
さっきのスライムのように、捌きながら切り裂くと、ちょうど2匹目が迫ってくる。
仲間がやられた事を気にする風もなくバカ正直に突っ込んでくるのを、同じように撫で切りにした。
最後の一匹は、アクアショットを吸って巨大化して、動きが物凄くノロくなっていた。
「ほい。」
巨大化した結果、外膜はさらに薄く、パンパンになっている。
ちょっと突いただけで、爆発するようにその身を崩れさせた。
ソフィが前脚で拍手をしてくれた。
「まぁこんなもんかな?」
ソフィに答えると、そのまま薬草探しを再開した。
そこから先は特に何事もなく、15本の薬草を集めたところで街へと帰る事にした。
…
冒険者ギルドに帰ってきた所で、窓から中をチェックする。
さっきの絡んできたガストンさんが、酒を飲みながらギルドの入口を凝視してる。
やべぇよ、目が血走ってるよ。
「ソフィ、お願いできる?」
ソフィは頷くと、更に小さい蜘蛛に変化した。
そして俺が作り出した魔法の粉を抱えると、素早くガストンさんの机によじ登り、ガストンさんの飲んでる酒に粉を入れた。
ソフィが俺の肩に戻って来て元のサイズに戻った頃には、ガストンさんは一口二口と酒を呷り、もう効果が出始めていた。
今回混入させたのはいわゆる即効性の下剤だ。
顔から脂汗が滲んでる………ハゲのおっさんが苦しんでる姿ってのはあんまり絵にならないな。
そうこうしているうちに、ガストンさんは席を立ってギルドの奥へと走って行った。
これで暫くは帰って来ないだろう。
俺は悠々とギルドの受付カウンターに向かって行った。




