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激闘のその影で

やっと主人公に帰ってきました。


蜘蛛と勇者達が対峙した頃………


「あ、危なかった………」


橋の真下に自作魔法“スパイダーストリング”でくっついたまま、俺は独りごちた。

この魔法は、アラクネの蜘蛛の糸で思いついた魔法だ。

あの蜘蛛の糸、厳密には魔法だったんだよな。


多分粘着系の土魔法、グルーなんとかって魔法があったから、あれの派生かなんかじゃないかな?


「マジで死んだと思った………勇者めぇ、問答無用で俺の腹に風穴開けやがって………」


前に一度、ソフィにあの魔剣を触らせて貰ったことがある。

あの魔剣は相手に通常以上の痛みを与えて動きを止めさせる効果がある。

ついでに猛毒と麻痺毒、混乱など、状態異常のオンパレードで、いきなり喰らうとびっくりしてまともな思考が出来なくなる。


解析してなきゃ判断が遅れて、あの後の魔法がクリーンヒットして塵になってたな。


とりあえずは回復よりも逃げ一択だ。

回復するのに、邪魔が入ると手元が狂って死ぬ。

刺された部分は汚染されているので、ざっくり削り取って、その後しっかり回復させる。


「う………ぐ………」

自分で自分の腹を抉るのはなんとも気持ち悪いけど、極細のウォーターカッターで腹をくり抜いた。


「ヤバいヤバい、集中集中。」

深呼吸をしつつ、腹に回復魔法を施す。


それにしても、さっきのホーリィバーストと言ったか?

とっさに腕に仕込んだウォーターシールドで庇ったから、何とか逃げる時間が稼げたけど、あの量の水蒸気爆発が起こったら怪しいと思わないのかな?


しかも上の会話を聞く限り、俺は俺に化けた魔族で、今から来る蜘蛛が本物の俺だと?

自分で言っててなんか混乱するなぁ。

なんでそんなややこしい話になるんだろ………?


でも、なんか上から「あの金髪、間違いない!」と聞こえてくる。

あれただの藁なんですけどー。

俺の髪ってそんなにくすんでる?何かショック………


でもみんな、アレ(蜘蛛)が俺だと疑ってないっぽい?


てことはアレ(蜘蛛)が死ねば、正式に俺が死んだって事になるのでは?


それだ!


多分、勇者も強そうだったし、負けるって事はないだろうけど、念のためソフィの所に行こう。


俺はこっそりと川に潜り、魔族領側の川下へと潜水しながら泳いでいった。






ソフィの隠れる岩場に到着。

さて、向こうの状態はどんなもんかな?


クッションを抱きしめながら寝っ転がり、ドライフルーツを噛みながらコントローラーをカチカチいわせてる、どこぞのずぼら女子みたいになっていた。


「ソフィ、教えてないのにそこまでの領域に達してしまったか………」

「うわっ、びっくりした!帰ってきたなら声をかけろよ!」


なんだか顔が赤くなってる。

いっちょ前に恥ずかしがってるのか?


「いや、それも正しいやり方だ。でもお楽しみの所悪いんだけど、負けてくれないか?」

「なにぃ!?私のイオリ2は無敵なんだぞ!?」

「おうおうおう!少なくともその名前は却下だ!!」

「そんな事より見ろ!かなり無力化出来てるぞ!」

「無視かよ!でも凄いな。館を初手で蜘蛛糸で固めたのか。」

「初手どころか、接近前に真上に放っておいたのよ。」

「わーぉ、落下地点まで正確に予測して撃つとかマジ廃プレイヤー。」

「そこに蜘蛛糸追加からの麻痺毒。」

「まぁ増援拠点潰しは基本だな。」


最後には負けてもらうにしても、もうちょっと見守るか………


「………む?」

「白い狼?」


6匹の白い狼………猟犬が向かってくる。


「小癪な、えい!」


蜘蛛の脚で一匹貫く。

よくぞあんな小さい的に当てられるな。

コントローラーであんなに精密に動かせるのか?


「ナハハ!ちょこまか動き回っても無駄、ん?」

「あの犬、蜘蛛糸みたいな性質なのか?」


前脚が自由に動かなくなってしまった。

他の犬も次々脚の先や関節に突っ込んできて、動かない訳ではないけど、随分動きが悪くなった。


「面白い魔法だな、さっきのは勇者か?」

「ええい、この程度、振りほどいてくれるわ!」


真下から父ちゃんがチクチクやっているけど、水にいくら剣を刺してもノーダメージ。

アクアゴーレムの利点はこれだよね、その分攻撃力も薄めだけど。


勇者が近づいてきた。

何か仕掛けてくるな………火と光の魔法陣、さっきのか!


「火魔法、くるぞ!」

「シールド!」


頭部の魔石からウォーターシールドが展開されるが一足遅かったようだ。

頭部の一部が破壊されてしまった。


「ぐぅぅ、まだまだっ!ハゲになってもイオリ2は健在だぞ!」

「ハゲ言うなし!」


さっきの衝撃で、粘着成分は吹っ飛んだようだ。

ソフィはまだまだやる気みたいだけど、そろそろ潮時かな?


「ソフィ、そろそろ止めよう、あっちに勝ちを譲らないといけないのよ。」

「えー、まだ私のイオリ2は………あ。」


今度は真下から光の柱かなんかで貫かれたな。


「よし………これで内部からやられて死んだって事にしよう。」

「うぬぬ………ポチっとな」


ズドォォォン!!


「おいぃぃぃ!何やってんの!」

「やだやだやだ、まだ遊び足りない!」


不意打ちの広範囲スタンガンを使いやがった。

大分テンションがおかしい事になってるな。

父ちゃんは、完全に喰らったな。意識はあるけど体が動かないって感じ。

勇者は、元々何かバリアっぽいのを張ってたみたいだな、何か膜のようなものが破れたのが見えた。

吹っ飛んだけどほとんどダメージは無さそうだ。


ソフィはそのまま父ちゃんのすぐそばまで移動した。

「とどめ!」

「やめぃ!」


蜘蛛が脚を振り上げた所で、コントローラーのリンクを切った。


「いい加減にしろ、今回はこれくらいで丁度良いんだ。ってゆうかソフィ、さっきトドメ刺そうとしただろ。」

「なはは、なんだか勢いで。」


まぁあの人はそれくらいじゃ死なない気もするけど。

よし、お詫びに魔石はプレゼントしちゃおう。


あれだけ分かり易い位置に設置してるし、リンクが切れてるから容易に外せるだろう。


「よし、これで正式に俺も死んだ事になったし、ここは引き払って旅に出るぞ!」

「おおっ、ついにか!」

「ついでに、イオリの名前も捨てるわ。」

「私が、考えてやろうか?」

「結構です。」

「スパイダーマ」

「マジで止めて!」


イオリ・ロコー………漢字で庵・六、六庵、ロクアン………ローガン


「よし、今から俺の名前はローガンだ。」

「何かパッとしない名前だな、そこら辺のおっさんの名前って感じ。」

「そう、そこら辺に居そうってのが重要なんだ。目立つつもりは無いからな。」


あり触れた名前で、のどかに、平和に、何にも縛られずに生きていくぞ。

そんなこんなで着の身着のまま隣の領に向かって出発した。

でも次に一話だけ、別の人の視点を入れます。

よろしくお願いします。

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