方針変更(勇者視点)
蜘蛛が完全に動かなくなったことを確認すると、僕はその場に座り込んだ。
ロコー家の面々は蜘蛛の糸を焼き払ったり、蜘蛛の死体を検分したりしてる。
蜘蛛があんなに強くなってるなんて大誤算だった。
まさか初っ端から命の危険を感じるような状況になるなんて………
とはいえ、僕は不思議な充実感を感じていた。
初めての戦闘、初めて負傷。
そして、初めての魔法。
ゲームとは全く違うリアリティを持っていた。
考えてみれば、そりゃあ色々違うよね。
まず、ゲームだったら、料理を食べればHPやMPが回復する。
宿屋に泊まれば全回復だ。
でも現実はそうもいかない。
時間がくればお腹が減るし、眠くもなるし、トイレも行きたくなる。
ゲームのキャラならゲーム内時間で一週間不眠不休で戦い続けるとかできるけど、現実でそんな事できるわけが無い。
そんな訳で………めっちゃ眠い。
もうここに召喚されて24時間経つ頃かな?
テンション上がってたとはいえ、よく倒れずにここまで出来たと思う。
あと、空腹で死にそう。
人間、ポーションだけで生きてはいけません。
多分、この後ロコー家の食事に誘われると思うんだけど、是非とも食べさせて貰おう。
本当は断って、皆が食事中に家探しすれば色々良いものが手に入る。
しかもこのタイミングなら何を取っても犯罪ポイントがつかない。
本当はそれも目的の一つの予定だったんだけど、やっぱり犯罪プレイは実際にやるのはやっぱり気が引ける。
あと眠い、できれば泊めてもらおう。
ちゃんとしたベッドで寝たい。
これは『イルヴァーン』プレイ時代の知識を活かすにしても、色々修正が必要だな。
ぱっと思いつく問題は戦争イベント。
ゲームなら三日間ほどポーション飲み飲み戦場のド真ん中で無双してれば終わるけど、そんなん絶対無理。
後で立ち回りとか、根回しとか考えよう。
やべー、お腹空いた。
誰か声掛けてくれないの?
そろそろお腹と背中がくっついて死ぬよ?
「勇者殿………この度は貴方のお陰で、我々を何度も救って頂き、どうもありがとうございました。」
「ああ、礼には及びませんよ、そんな事よりちょっと休ませてもらえます?」
駄目だ、頭が回らない、語彙力が死んでる。
「おお、これはご無礼を、マリク、応接室に勇者殿をお通ししなさい。」
これで、やっと休める………
「はい、父上。………勇者殿?」
そのタイミングで、安心感からか僕は意識を手放した。
その日の夜、やっと意識を取り戻した僕は、ロコー家の歓待を受けた。
その中で、魔物に変えられてしまった三男の話題も持ち上がった。
彼は魔法が上手く使えず、悩んでいたようだった。
恐らくはそれが原因で、家族内でも疎まれてたんだろう。
可哀想に………まぁ優秀な血筋にそういった子供ができてしまったら、排斥されてしまうよな。
恐らくは家族を見返そうとして、魔族から水の魔石を貰い、水魔法だけは見かけ上使えるようになってたって事だろう。
夜に家を抜け出してしまったのは、恐らくは別の属性の魔石をやるとか言っておびき出されたのだろう。
魔族に懐柔されてしまった者の末路は悲惨だ。
大体は、自分の一番大切な者を失う為の駒にされてしまう。
それにしても、四六時中めちゃめちゃこっちを見てくるメイドがいるんだけど………
こんなイベントあったっけ?
うーん、そんなに見つめられても、ただのメイドじゃあ旅には連れて行けないなぁ、残念。
次の日、僕は旅の支度を調えていた。
「それでは、もう出発します。昨日は盛大な宴をどうもありがとうございました。」
「いえいえ、勇者殿であれば、いつでもここへ立ち寄り下さい。歓迎しますよ。」
そんなこんなで、王都へ向けて出発してしばらくすると
「ちょっと待ってくれ!」
後ろから声を掛けられた。
この声は次男のアランだよね?
「おや、アランさん。どうしたんです?」
「勇者殿、あなたは魔王を討伐するつもりなのか?」
「ええ、今は実力不足ですが、いつか魔王を倒したいと思っています。」
「それなら、俺も一緒に連れていってくれ!」
そう、これが一番初めにここに来た理由の一つだったんだ。
「良いのですか?あなたはロコー領の私兵を統率する役目があるでしょうに。」
「魔王を倒せば、そもそもそんな事しなくってもいいからな、あ、いや、しなくてもいいですからね。」
全属性の近接攻撃に加え、高い防御力と見切り。
パーティの盾としてはほぼ最強の存在だ。
しかも女にモテるからそっち方面の情報収集がし易くなる。
最大の欠点は美少女じゃ無い事だ!
でも自分の命のことを考えると、これ以上無い存在だろう。
どうせなら剣や盾でどうこうするより魔法を沢山使ってみたいし。
「えっと、アランさん。そんな堅苦しいしゃべり方は無しでいきましょう。」
「それじゃあ、旅について行っても良いのか!?」
「ええ、僕の事はレンと呼んで下さい。」
「よっしゃ、それじゃレン、俺のこともアランと呼び捨てにしてくれ!」
僕とアランは固い握手を交わした。
それじゃあ、次は王都に潜む魔族を狩ったり仲間を増やしたりしよう。
これで勇者視点は終了です。




