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死闘(勇者視点)

全部分かっているはずの展開の中で、知らないパターンで戦わなければならないというのは、むしろ恐怖だな。

こいつもユニークスキルがあるかもしれない。


一応の危険回避の為、“マジックシールド”と“シールド”を組み合わせた“アイギス”を発動。

魔力消費が大きいのが難点だけど、今回はしょうがない。


さっきのアラクネと同じパターンか?


いや、違うらしい。

間合いに入るちょっと手前で高くジャンプし、こちらを見下ろしながら蜘蛛糸を連続で放ってきた。


スピードは速いが、見えていれば流石に避けられる。

僕も領主様も難なくこれを躱した。


蜘蛛はジャンプしたままこちらを飛び越え………館の上に登った。


「しまった!」

館は蜘蛛糸で覆われている。

あっちはヤツの独壇場だ。

迂闊に近づけば、糸に絡まってしまう。

遠距離から魔法を撃つしかないな。


そんな事を考えていると、ヤツは蜘蛛糸に絡まっている者達に緑色の毒霧のようなものを浴びせている。


あの色は………麻痺毒か?

こちらが生存者には手を出し辛いのを見越してやっているのだろう、これで遠距離魔法も使いにくくなった。

ヤツは生存者を背後にこちらへゆっくり向かってきた。


「“グルーハウンド”」


上級魔法を習得したことで、4匹くらいまでが限界だった粘着犬も、今では6体同時に召喚出来る様になった。

蜘蛛の足には数が足りないけど、動きを鈍らす事はできるだろう。

この魔法は初級魔法の組み合わせだけど、飛行できない敵に対しては無類の強さを誇る。

こいつで足止めをして、近距離からホーリィバーストを叩き込んでやる。


「行けっ!」


6匹の粘着犬が散り散りに分かれ、それぞれ蜘蛛の足の一本一本に襲いかかった。

完全に動きを止める事は出来ないみたいだけど、動きをのろくする事には成功した。


僕が詠唱している間に領主様は蜘蛛に接近、持っていた剣で真下から蜘蛛の腹を突き上げた。

「む………?手応えが無い?」


僕はすぐに蜘蛛に駆け寄って、頭部に向かって“ホーリィバースト”を発動。

アンデッドや闇属性、風属性の魔物ならひとたまりも無いはずだ。

光の衝撃がヤツに当たった瞬間、水蒸気爆発のような衝撃がこっちにも返ってきた。

思わず手で顔を覆い、衝撃が去った後にヤツの姿を確認する。


「………浅い!?」

頭の半分くらい吹っ飛ばせるかと思ったのに、殆ど傷はついていないように見えた。

ロコー家三男の証拠の如く乗っかっていた金髪だけが綺麗に吹き飛んでいた。


「………勇者殿、ヤツの頭部に」

「ええ………きっとアレでしょうね」


頭部で青く光る魔石………金髪に隠れて見えなかったけど、あれは水の魔石だ。

アンデッドとしての体を、血管に水魔法を通して強化しているのか?

それなら火属性が効かないのも納得だな。

ならば………



「“シャイニングピラー”」


蜘蛛の真下の地面から光の柱が突き出てきた。

光と土属性の混合魔法なら、どうだ?


腹を貫かれた蜘蛛は苦しそうにもがいていたが、やがて動かなくなった。

流石に、弱点属性の魔法にはひとたまりも無かったか。

良かった、もうMPが心許なかったんだ。

とりあえず、完全にとどめを刺して、頭部の魔石は回収してしまおう。


僕と領主様はゆっくり油断せずに蜘蛛に近づいていった。


蜘蛛まであと車一台分くらいといった所で、蜘蛛が口を開いた。

最後の抵抗とばかりに蜘蛛糸を放ってくるが、それは領主様が炎で焼き払っ


ッドォォォォン!!!


「ガハッ」


視界が明滅し、体に強い衝撃を感じた。

一瞬何が起きたか分からなかったけど、さっきより蜘蛛が遠くにいる。


吹っ飛ばされた?

何が原因か分からないけど、一瞬光ったと思ったら、僕も領主様も吹っ飛ばされて地面に叩きつけられていた。


しかも、“アイギス”が消し飛んでる………

ドラゴンのブレスでも耐えきれる障壁だよ?


ヤバいと思って領主様を見ると、どうやら死んではいないようだけど全く体を動かせないみたいだ。

領主様の方が鎧も着ていた分、そこまで遠くには飛ばされなかったようで、蜘蛛との距離が近い。


僕はなんとか立ち上がる。

足はガクガクするし、体中が軋んで悲鳴を上げている。

この世界に来て初めてのまともなダメージだ。

本来なら距離を取ってとか色々考えるべきなんだろうけど、僕はそこまで頭が回らなかった。

すぐさま回復魔法を発動する。


「“エリアハイヒール”」

体の傷が癒えると共に、若干体の痛みも治まった。

これならまだ戦えるか?


しかし、あちらも待ってはくれない。

気づいた時には、蜘蛛が領主様のすぐそばまで接近し、腕を振り上げている所だった。


エリアヒールの効果時間が終わらなければ、次の魔法を発動できない。

「や、止めろ!!」

蜘蛛に向かって駆けだしたが、どう考えても間に合わない。


何故か蜘蛛の動きが止まった………?

まるで父親に止めを刺すのをためらっているかの様に、固まっている。


次の瞬間、

「“ダイヤモンドエッジ”」

振り上げた蜘蛛の脚が、切断された。


「悪かったな、嫌な役を任せちまって。」


次男のアランが剣を担いでそこにいた。


「こいつももう限界だろう、加勢するぜ。」

「“バインドプラント”」


地中から無数の蔓が伸び、蜘蛛をがんじがらめに固定した。

これは、長男のマリクのユニーク魔法だ。


「ちょっと蜘蛛の糸を解くのに時間がかかってな。」

「あと一息です、我々が動きを止めている内に!!」


僕は魔剣パラポネラに土属性を付与した。

蜘蛛に向かって一気に駆ける。


狙うは一点、頭部の魔石!

ちくしょう、開始直後は貴重な魔石を自分で壊すなんて………もったいないよー!!


僕は剣を振り上げた。

真横から蜘蛛の脚が伸びる。


「ウラァ!」

それはアランが止めてくれた。


「これで、止めだ!」

振り下ろした剣が吸い込まれるように蜘蛛頭部の魔石を貫いた。


蜘蛛はビクンと身を震わせた後、地面に脚を投げ出し、ついに完全に沈黙した。

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