ロコー領を救う(勇者視点)
街道に沿ってロコー領に入ってしばらく北上した所で、街道の外れたところから剣戟の音が聞こえてきた。
よかった間に合った。
安心はしつつも、急いでそちらに向かって行く。
そこでは予想した通り、5名ほどの人間の一団が魔族の群れと戦っていた。
人間側は非常に統率された動きをしているが、魔族の方も強力な鬼人族などで構成された一団だ。
お互いに決め手に欠けるようで、一進一退の攻防をしている。
不思議な事に、この状況に間に合う事が出来れば放っておいても人間側が勝手に勝つ。
しかし、この場面に出くわさないとここで指揮をしている領主が死亡する。
まぁよくあるゲームの都合上ってやつ。
これからのことを考えると、加勢して顔を売っておいた方が後々のイベントに有利に傾く。
僕は魔族を挟み込むような位置に回り込み、魔族の背後から詠唱を開始した。
「“グルーハウンド”」
土属性と召喚魔法の魔方陣が表れ、数匹の犬が姿を現した。
強力接着する“グルーボール”と猟犬を召喚する“ハウンッドッグ”の組み合わせ魔法だ。
自動で対象の足下にまとわりついていく接着剤という、初級魔法の組み合わせの中では強力な魔法だ。
空を飛んでいる敵には効果が無いけどね。
召喚された犬たちは魔族の背後から近づき、次々に魔族達の足に噛みついた。
接着剤で出来た猟犬だ。
攻撃力は皆無だけれどもこれで魔族どもは容易に身動きが取れなくなった。
第三者の存在に、人間も魔族もこちらに注意を向けてくる。
「僕は王都で召喚された勇者です!助太刀します!」
たった一人が加勢しただけとはいえ、元々拮抗した戦力同士の戦いだったのだ、更に挟み撃ちになってしまえばあちらの勢力は一気に瓦解した。
と言っても、僕の方は魔法でチョイチョイと魔族を小突いていただけだ。
流石は魔族領と隣接するロコー領の兵士たち。
ちょっとの隙さえできれば、彼らはその隙を逃さない。
戦闘は呆気なく終わった。
そのうち、一番位の高そうな金髪のナイスミドルが声をかけてきた。
「先程は助かりました。私はこのロコー領の領主、クリストフというものです。貴方は先程勇者と名乗られていましたね?」
「ええ、そうです。こんなへなちょこな見てくれでは信じられないかもしれませんが………。」
「いえいえ、先程の貴方の魔法の腕前、間違いなく勇者様でありましょう。」
さすがに領主様ともなれば、勇者のみが使える魔法の事を知っていたか。
2つの魔法を組み合わせて発動するデュアルマジック。
レベルやスキルが上がればバリエーションも増えるし、3つ以上の組み合わせで魔法を発動する事もできる。
組み合わせに失敗すると魔法が一定時間使えないデメリットもあるけど、組み合わせは全部頭の中に入ってるから心配は無い。
他にも勇者のみが使えるアイテムボックスとか、鑑定のスキルとか色々あるけど、今の所スキルポイントが足りないからまた今度。
そんな事よりもまずは領主様との話をしないと。
「貴方のおかげでこちらも被害を出すことなく、魔族を退けることができました。お礼をしたいところですが、あいにく今は手持ちがございません。よろしければ私の館へお越しください。」
「ありがとうございます。 私も旅の途中ではありますが、明日の朝そちらへ寄らせていただきます。」
「それでは、いつでもお越し下さい。では。」
会話を終えると、領主様は何処かへと走り去っていった。
僕はそのまま速度上昇のポーションを飲むと、 もう一度北に向けて走り出した。
領主様の館が見えてもそれを無視。
そのまま北上を続け魔族領へ入っていった。
現在はまだ見張りが手薄なので、こっそり行けば簡単に国境を抜けられる。
これが明日以降だとイベントの関係上、監視がキツくなって、ストーリー中盤まで来られなくなる。
またはロコー領が滅んでしまってここまで来るのがめちゃくちゃ大変になってしまう。
だからこそ急いで来る必要があった。
しばらく進むと、ストーリーには関わってこないサブダンジョン《宵闇の森》が見えてきた。
不気味な見た目のダンジョンだけど、迷わずダンジョンに侵入する。
初めて入る森とはいえ、道筋も魔物の配置も罠も全て頭に入ってる。
魔物とは戦闘にならないようやり過ごしながら、僕はどんどん 奥へ奥へと入っていった。




