第六話 『世界と裁定者』
NEXUS×NEXTⅣ 刃は新たな境地を見る Ⅵ
「痛っ………………………うっ、ここは……?」
頭をシェイクされるような激痛に耐え、薄く目を開けると、巨大な扉の前だった。
「……え?」
思わず間抜けな声を出してしまうが、目を開けたら巨大な扉が鎮座していたこの状況で、声を上げない事の方が可笑しいだろう。
……誰にしたのかも分からない自己弁護を終え、立ち上がる。
明らかに周囲は暗闇に満ちているのに、扉と俺の足を一直線に繋ぐように、俺の足は不可視の力場に支えられていた。
(装備は特に取られていない。霊力は感じるが……出せない?上から押さえつけられているような感覚を感じる……)
霊力を放出しようとすると、外界に解き放たれる寸前で霊力が押し戻される。
初めての感覚に戸惑いつつ、状況把握を終え、これからどうするべきかを考え始める。
(正直、ここで留まっていてもどうにもならないんだろうがな……)
早くもその推測を裏付けるように、扉がゆっくりと開いていく。
光に隠れて中こそ見えないものの、『早く中に入れ』と言う催促のような気がする。
「行くしか……ない、か」
腹を決め、歩みを進める。
扉を潜り抜けた瞬間、暗闇の風景は様変わりし、多種多様な色の光が上から下に柱となって落ちていく空間に変化した。
後ろを振り向いても暗闇があるだけで、先程潜った扉など影も形も無い。
「………………………」
人間の理解力を超える光景に暫し思考が固まるが、神霊界に知覚を伸ばした事でその疑問は氷解した。
「次元座標x±0.000000000(ゼロカンマオーナイン)、y±0.000000000……比喩通り『世界の中心』か……」
下九桁までゼロが続いているのは、『そこに次元が存在しない』以上、物質の存在するはずの無い虚数空間……空間をジャンプさせるエネルギーが極大点に達している為次元物質の移動が無く、従って停滞した物質が空間に飲み込まれる特異点……の筈なのだが、現に俺は生きているし、霊力を循環させる事もできる。
引き込まれた物質が空間に転換されるに従って莫大なエネルギーが発生し、そのエネルギーが物質を動かす原動力に変換される、高次空間相転移永久機関。
世界の原動力を司るこの場所は、魔術師にとって『根源』とも呼称される、超巨大なエネルギー生成機関でもあるのだ。
……それこそ、そのエネルギーを用いて行われる術式は、あらゆる物を成功させてしまう程度には。
まぁ、それがどうしたという話でもあるのだが。
その超越的な空間の中心に、金色の光を放っている構造物がある。どうやら、そこが目的地であるようだ。
半透明な足場から、下の真っ暗な奈落に落ちないように気をつけて走り出す。
中心に移動して行くに連れ、脳裏にスパークが走るような感触を覚えるが、気のせいだろうと結論付けた。
俺が中心に近づくに連れ、七色の光が渦巻き、近くに寄せては返す光の波が幻想的な雰囲気を湛える。
実際の視覚だけで無く神霊界でも莫大な光量を齎す其れは、此処に集められた大量の事象体なのだと気付くのに、そう時間は掛からなかった。
中心の輝きの胎動に影響されるように、俺に近寄る光の輝きも増減を繰り返す。
「……ここか」
数分掛けて中心に辿り着き、数十段の階段を登り終わった俺を迎えたのは、ベッドに横たわる一人の老人だった。
「……貴方は?」
口を零れ落ちたこの疑問を拾ったのか、老人は薄く目を開けて答える。
「儂は……そうだな、『裁定者』と呼ばれるモノだ」
「………………………?」
老人の答えはとても荒唐無稽な物で、とても信じられる物では無かったが、先程まで俺に近づいていた事象体が老人の体に吸い込まれていくのを見て表情を強張らせる。
(生物の……少なくとも人間クラスの事象集積体を複数吸収して何の変化も起きていない……!?)
通常、人間の『霊魂許容量』は「人間の魂」の1.2〜1.5倍程度が限界であり、それ以上を吸収しようとすると、情報量に魂が耐えきれずに自壊する。
分かり易く言えば、段々記憶を失って感情も思考も失われ、最後は廃人同然となる。
「神」を降ろせる程に強力な霊媒ならば数千人程度までなら問題ないが、強力な巫術士の血筋が途絶え、血が薄まった現在ではそこまでの霊能力者はかなり少数だ。
しかも、老人にはその霊媒特有の霊力波動を感じない。
俺の猜疑の視線に気付いたのか、老人は愉快そうに笑って口を開ける。
「言っただろう?儂は『裁定者』。世界の核たる儂にとって、この程度の事など容易いのだよ」
理論としては、情報体をエネルギーに置換する何かしらの方法が老人の中に存在していると言う事なのだろうが……
「えっと、ちょっと待ってくれ。世界の核?裁定者?さっぱり意味が分からないんだが……」
老人の言葉と、俺の事象観測を総合した結果がもし本当だと仮定した場合、その推論は、現代魔術の常識を覆すものだ。
老人の言う理論……仮想第五種永久機関とは、魔術の平和的利用(それだって軍事的な目的を持った物ではあるが)の為に考え出された機関であり、神霊界の内部で観測される人間の強い欲望(生への欲望と死への欲望の違いは問わない)を現実世界のエネルギーに転化し、そのエネルギーを利用して発電するという物だ。
物理的なエネルギーを一切消費しないと言う利点はあるものの、相当量の欲望を圧縮しなければならない事や、強烈な欲望を自覚させなければならない等の欠点……もとい、人道的な点での批判(「欲望を自覚させる」と言う言葉が出てくる時点で、何が行われたのかは明白だろう)が相次ぎ、表の世界からは抹消されたと言う経緯を持つ。
しかし、この老人は自身と関係のない事象体(幽霊又は怨霊とも呼ばれる生の欲望の集合体)を喰らい、その内包エネルギーを余す所無く霊力に変換している。しかも、自我を削る事無く。
神霊界と物質界のエネルギー総量が同じであると言うアングラーの第一定理に従えば、第五種永久機関によって補完されるエネルギーはどこから徴収されるのか?
……いや、さっきも言ったように此処には高次空間相転移永久機関がある。それがエネルギーを循環させている?ならその総量は?多数の世界線から来るエネルギーが等価なら、消失したエネルギーが同じである以上此処に流れ着く物質も影響を受けるって事か?
そもそも霊力とは?神霊界と物質界を媒介する仮想物質……何の為に存在しているのか?両界の均衡を取る為のカウンター?なら俺達の世界に霊力は最初から存在する筈。第一次侵攻において魔術師達が急激に増加した事に説明がつかない。
霊力の総量が増える……違う。
「世界線移動……?」
「ほぅ、僅かな情報のみでそこに辿り着くとは……天賦の才と言う他無いな」
楽しそうに老人は言う……と言うか、
(サラッと心を読むんじゃねえ……)
「ほっほっほ。世界の子たる君が、儂に読み合いで勝とうとは思わん事だ」
「また心にもない事をいけしゃあしゃあと……」
此処が老人のテリトリーであり、尚且つ老人が『圧倒的な上位存在』だから出来るこ……っ!?
「チッ!?」
「おぉ、危ない危ない」
差し込まれた思考に危険を覚えてナイフを抜き放とうとするが、手の中で紙屑に変わったナイフの感触を感じ顔を顰めた。
「危ないのは貴方が俺に精神操作術式を掛けたからですよ?」
「ハハ、以後気を付けよう」
空虚な言葉を弄した老人を信じる気が無くなった俺は、独自に考察を行う。
『世界の子』と言うのは何かを指し示す符丁なのか?確かに魔術師は神霊界を、ひいては世界そのものを改変することができる。
異常な力を持つこの老人から見たら、成程俺達は子供同然だろう。
俺にその姿を見せた理由は何だ?これから消える人間に、何故態々姿を表すのか?
考えれば考える程に思考が堂々巡りに陥ってしまい、益々老人の行動が分からなくなる。
「……それで、貴方は何故俺の前に姿を表したんですか?」
結局、老人の答えに頼る結果になってしまった。
「儂が君に会いたいと思ったからだ」
老人の答えは簡潔で、尚且つ俺の疑問を納得させる答えでもあった。
いくら裏を勘ぐっても、結局答えが出ない訳である。
「それで、時間を取ってまで呼び出した理由は何ですか?俺は大量虐殺者だから他とは違う、的な?」
あの世や地獄等は欠片も信じては居ないが、この老人の胸先三寸で俺の今後が決まるのは想像に難くない。
「そのような理由で呼び出したとして、どうするつもりだと?」
老人の問に暫し考えて出した結論は、
「そうですね……高密度情報体の渦に巻き込んで存在を段々と削り取るとか?」
文字通り精神を削るような痛みが得られるので、そこそこ良い方法だと思うのだが……
「………………………君、結構碌でも無い事を考えるのじゃな」
「そうですかね?実際、これくらいか、もっと惨い事の方が妥当だと思いますけど」
呆れたような視線を向ける老人に、気負う事もせず言葉を返す。
実際、地獄という物が本当に存在するのなら、俺の犯した罪の重さは想像を絶する物になるだろう。
俺一人の為に態々新しい地獄が作られても可笑しくない。
「それで、本題は?」
有耶無耶になった本題を復活させようと老人に疑問を投げかける。
「それなんじゃがの……」
老人はそこで一度意味有り気に言葉を切り、
「君、裁定者になる気は無いかの?」
そんな、荒唐無稽な言葉を口にした。
「………………………は?」
当然、そんな事をいきなり言われても理解できる訳も無い。
老人は説明を更に重ねる。
「裁定者を次ぐ条件はすでに満たしておったのだが、如何せん力に溺れる者が多くての。力を真の意味で扱える者を待っておった所なのじゃ」
老人がサラッと口にした言葉は、俺にとって到底看過できるものでは無かった。
「『既に満たしていた』……ループ?」
「そうなるな。より正確に言えば『発生した特異点』を保護し、次の位相へと導く流転機構じゃ」
(文字通り、歩く旗か……)
あらゆる事象を紡ぎ、引き寄せ、己が血肉と変えてしまう究極の特性。
「……忌まわしいですね」
「だが、それでは君も未練が残るだろう?」
痛い所を付かれ、閉口する。
この老人には、何時まで経っても勝てる気がしない。元が人間と別種の生き物である以上、仕方無いのかもしれないが。
「……それじゃあ、俺がいた世界の時間は?」
「止まっておる……しかし、死因が霊力の過剰放出と、それに伴う事象の巻込み。魔術爆弾として使い潰されでもしたのか?」
老人の口振りからすると、僕がこの空間に連れて来られたのは霊力切れが原因では無く、霊力が空間に密集した事によって空間座標が裏返り、仮想次元空間を漂っていた所を助けられたと言うのが真実のようだ。
「……詰まり、俺はまだ死んでないと?」
「そうなる。勿論、肉体は修復不能なまでに傷ついておるがの。ここに居る君は只の精神体じゃ」
「………………………それ、もう生きてるって言わないだろ」
「じゃろ?だから儂は君に新たな肉体を与え、君がいた世界まで戻すと言っている。因みに、捻じれた空間が修復されるまでは残り二十分。時間は『何故か』少し巻き戻るから、早く決めぬと君ご執心の少女が死亡するぞ?」
「清々しい程に外道だな、このクソジジイ」
軽く毒を吐いて冷静にメリットとデメリットを計算する。
……とは言え、答えは決まっているような物だが。
返り血で薄汚れた命と、真っ白で透明な命。どちらを優先すべきかは、一目瞭然だ。
この老人にどんな重責を負わせられたとしても。
「……そんなに覚悟するような物かの?儂が頼もうとしているのは、君にとっては凄く簡単な事じゃ」
世界線移動、複列多重世界線理論、物質の空間位相転移、裁定者……
「詰まり、使えない世界線の破壊及び刷新と言う事ですか?」
「恐ろしい程察しがいいのぉ……」
まぁ、今まで十万人だった物が数十億に増えるだけだ。
「では、受け容れます」
その言葉を口にすると同時、頭の中に数々の情報が流れ込んで来る。
現代のスパコン何千万台分という、常人ならとっくに廃人になっているであろう情報量を身体が勝手に受け取り自分の物にしていく感覚はとても慣れる物では無かったが、この間の『耐久試験』で意図的に頭に膨大なノイズを流し込まれた時に比べればまだマシだ。
情報の流入が終わり、身体も問題なく動かせる事を確認した俺は、老人を見遣る。
「これであなたのお願いは終わりですか?」
「………………………うむ」
そう頷いた老人を見て、あることに気付く。
「貴方、身体が……」
老人の体が段々と薄くなり、やがて消えてしまった。
(魂の老朽化か……しかし、俺に力を明け渡した状態でもまだ数秒持つとは……)
流石は、先代裁定者と言った所か。
一瞬前とは比べ物にならない程明瞭になった視界を見回し、右手を眼前に翳す。
ゆっくりと右手を横に動かして行くと、銀の粒子を撒き散らして一本の剣が現れた。
「物質の創造……これ程とは」
魔術師は霊力を物体に変換し、その性質を変質させる事ができる。
物質の創造と変成を扱う学問を錬金術、それを専門的に学ぶ者を錬金術師と言うが、それだって霊力と言う『有』から『有』を作っているに過ぎない。
しかし、『世界』の特権である「物質創造」では、文字通り『無』から『有』を創り出す事ができる。
それも、ほとんどコスト無しに。
………………………うん。チートだ。
バランス崩壊レベルの力を渡されて戸惑ってしまうが、それよりも元の世界に戻ることが先決だと思い直し、時空の歪みを出さないように慎重に空間跳躍術式を構築していく。
周囲の空間が歪み、一瞬後には空間が修復され、もとの小島に戻ってくる事ができた。
……尤も、その時間は停止しており、分子運動も光も停止しているので周囲は真っ暗だったが。
限定的に神霊界の情報を視覚に適用する事で物体を可視化する。
色が抜け落ちて灰色へと変わってしまった視界を見回し、マリアの傍へ近づく。
(ーーーー悪く思うなよ)
自分の都合で生きるのを強制するのに、何を今更、と自分でも思いつつ、修復の術式を展開する。
人体の修復には、とても精密な式を伴う必要がある(細胞のDNAの配列まで制御しなければいけないのだから、さもありなん)が、有り余る演算能力と、仮想第五種永久機関による膨大な霊力を手に入れた今となっては、片手間でも行える技術だ。
目の前で、無惨に切り裂かれた内臓が次々と繋がれ、皮膚が元に戻っていく。
自分がした事だと言うのに、今一実感が無い。
完全に修復を終えたマリアを見下ろし、服を繋ぎ合わせる術式を再度展開する。
これは、肉体しか効果の対象範囲に収めていなかった俺のミスだろう。
完全な形でマリアが元に戻っている事を視覚と神霊界の双方で確認し、一息をつきたいと思った所に、
(このまま修復するだけで良いのか?)
という思いが鎌首を擡げ、折角なので、マリアに『役割』を与える事にした。
「与える役は……『巫女』、ってところかな?」
悪神にその身を捧げる生贄、という想像をした自分に、苦笑してしまう。
(実際、俺が悪なのは変わらないけどね)
人間にとっては、唐突に現れて万物を一切合切焼き払っていく悪魔に過ぎないのだから。
「巫女って言うくらいだから、結界術式を専門にさせた方がいいのかな?」
かつて集が見せてくれた、前時代の漫画や小説等が思い浮かぶ。
えっと、当時の言葉で……
「さ、さぶ……サブなんちゃらだったか?」
“サブカルチャー”
あー、そうだ。「数多の地、数多の位相に存在する全ての事象及び物体」を記録、収蔵する世界禁忌辞典によると、『拘束』『媚薬』『快楽堕ち』と言う言葉も同時に使われるらしいが……何の事だろうか?
………………………まぁ、それはさておいて。
適当にでっち上げた能力をマリアの事象情報に書き加え、定着が終了した事を確認した俺は、再びアロンダイトに搭乗する。
位相が逆転した空間をゆっくりと元に戻し、復元が終わった。
「……よし」
今度は、迷わない。
ーーーー絶対に、殺す。
「時間停止、解除」
その言葉を口にすると同時、世界に色が付き、風が舞った。
上昇しながら周囲に残された俺自身の霊力を制御下に置き、球状に変化させ、空間に直接バレットランチャーの術式を投影する。
(フォールディング・ブラスターに霊力供給を開始。照準……レーヴァテイン)
『ドライバー!?』
(良いからやれ!さっきので吹っ切れた。それに……)
何より、あれは奈々香じゃない。
“相手に取って最も見たくないもの”を見せる「悪夢の創り手」と言う侵食者の混魔型に分類される新種だ。
「ほんっと悪趣味だなぁオイ!」
罵倒を口にしつつ、ブースターを吹かしてナイトメアに向けて直進する。
「おい、士!?」
「俺は良いから、それよりマリアを!傷一つでも付けやがったら打ちのめすぞ!」
「んなっ……へいへい、わかりましたよ」
呆れたように首を振りながら下降していく集を見ながら、ナイトメアを視界内に捉え、戦闘に向けて意識を切り替える。
対象視認誘導ではなく、自身で弾道を設定しながら、発動待機していたバレットランチャーを発射する。
『霊力放出量の増大を確認。攻撃、来ます!』
(右旋回、左ウイングブースター推力を70%に上げながら慣性及びベクトル制御!)
右に捻じれながら円を描く不規則な機動でナイトメアの攻撃を躱し、プラズマ圧縮タイプの放出系術式を待機させる。
『最大圧縮、火線生成……照射!』
照射領域を空間的に固定する事で射程と破壊力を増強したエネルギーの球体が空を灼く。
周囲の残留空気が相転移する事で起こった放電を撒き散らしながら、ナイトメアに向けて直進するが、間一髪の所で避けられた。
(フォールディング・ブラスター、照準!)
『偏差修正……完了しました!』
照準用の十字線とナイトメアを重ね、トリガー。
光の線が曳かれるが、今度はシールドで防がれる。
(相も変わらず馬鹿げた強度の霊力障壁だこと……)
ちょっとしたミサイルに匹敵する圧力をもつレーザーを跳ね返す程の霊力放出量に顔を引き攣らせながら次の術式を展開。
威力を抑え、弾速と射程に特化したバレットランチャーを次々と放つ。無論あちらからしたら豆鉄砲だろうが、牽制程度にはなるはずだ。
目論見通りに回避を選択したナイトメアを視界に入れつつ、高速戦闘の準備を行う。
(推力比を航行モードから戦闘モードへ移行。天羅とのデータリンク再確立。仮想力場展開、計算宜し)
超音速機動用の仮想力場(現実に影響を与えず、神霊界のみに影響を及ぼす防壁の事)を展開し、準備を整えた所で、ナイトメアが一気に逃げに転じた。
「逃がすか!」
ブースターに火を入れて追い掛けるが、後ろに目でも付いているかの様な正確さで放たれる弾丸に、徐々に距離を離されていく。
『なっ……対象より時空間の変動を確認!逃げられます!』
(なんだって!?)
ラピアの言葉を耳にし、弾かれるようにナイトメアを見ると、開かれた時空間運行洞穴に飛び込んで行く所だった。
(システムチェック!)
『E14からK21までの姿勢制御プロセスが機能不全を起こしています。左腕電力ケーブルのうち4系統、油圧も1系統が故障。何れも予備プロセスを起動しています。叢玉鉄鋼は蓄積エネルギー臨界まであと52%。第二、第三TMC装甲、ハイパーセンサー、霊力残量、補助演算領域等に問題はありません』
早口で読み上げられた報告をざっと頭の中で整理し、問題ないと結論付ける。
(空間湾曲固定、改変強度を演算!)
『演算終了!』
「『起動!!』」
徐々に閉じて行ったワームホールがその動きを止め、一定の大きさで固定された直後に、孔の中に飛び込む。
(空間連続の固定、時間流調整、環境適応、物理法則を参照!)
必要な情報を世界禁忌辞典からダウンロードし、把握する。
(物理関係、問題なし。事象改変出力は!?)
『神霊界との接続、事象固定も問題有りません』
灰色に染まった空を突く様に伸びる三角錐状のビル群を横見めに見ながら、一際高い建造物に進路を取る。
……と、
『ドライバー!』
マリアの声に合わせて回避機動を取ると、黄色のプラズマ光が空間を貫いた。
「自動歩哨銃!?」
『レーザー受容機に感あり!ロックされています!』
(つっても、この数じゃなぁ……)
地面やビルの壁から幾つも飛び出しているライフルを見て溜息をつく。
(全周防護!)
『了解!』
球形の障壁を展開しながら強引に突破しようとするが、こちらに迫るミサイルを見て回避を余儀なくされる。
光線の散乱に特化した防壁に爆撃はクリティカルだ。
遷音速で迫り来るミサイルを鋭角な直線機動で回避しながら下の道へ飛び込む。
戒厳令が出されているのか、人っ子一人居ない道を飛行しながら進んでいくが、
「チッ!」
次々と道路から上がってくる壁を回避している間に段々と速度が落ち、障壁に当たる弾数が増えてくる。
「セントリーガンを一々処理してたら切りが無い。一気に突破する!」
『フォールディング・ブラスター、セレクタチェンジ。セレクターを照射にセット。霊力充填……偏差修正完了!』
「発射!」
霊力を光に現象化する事で発生した高出力の仮想素粒子の渦がビルに直撃し、穴を開ける。
同時に、俺が開けたワームホールから大規模な熱源反応が観測された。
ーーーー直後、ギアウェポンと同質の光線が穴を突き破るように空間を崩壊させながら飛び出し、いくつも乱立する高層ビルを地表ごと纏めて薙ぎ払った。




