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NEXUS×NEXT  作者: HS
用語解説
1/32

用語解説 1

「……ふう」

目を通していた参考書から目を離し、僕は腕を上げて背筋を伸ばした。

今日は始業式が始まって二週間程経った週末であり、こんな日に僕が何故勉強しているのかと言うと……

『ドライバー。ハイパーセンサー関連の記述は226ページにありますよ?』

「ありがとう。ラピア……お、あった」

ラピアの言う通りにページを捲っていくと、確かに、ラピアが示したページに僕の求めた記述が書いてあった。

『ですがドライバー。この程度の事なら私が説明しましょうか?』

できるのか、と問い返しそうになるが、ギアの管制AIならばこれ以上なく適任であると思い直して素直に説明を受ける事にする。

「……じゃあ先ず、ギアの事について教えてくれる?」

ラピアは、『分かりました』と前置きしてから、流暢な口調で話し始めた。

『ギア……正式名称を魔導工学兵装具と言うこの兵器は、十四年前に日本の国立第一魔術研究所で開発された魔導兵器です。森羅万象を引き起こす超自然的事象核である霊力の使用を前提に開発された兵器なだけあって、他のあらゆる戦車を凌ぐ装甲と、弾道ミサイルを超えるエネルギー量をもった武装群を駆使した超音速高機動戦闘は、当時のあらゆる兵器を凌駕する物でした』

……成程。

「じゃあ、霊力っていうのはそもそも何なの?」

『霊力とは、先程ギアの説明で触れた通り、この世界に存在する超自然的事象核の普遍的形態を俗称的に表す言葉です。物質、概念、現象。ありとあらゆる物を引き起こす霊力は、魔術師の魂……所謂精神から生成され、魔術師の魄に蓄えられます。魔術師は霊力の精製能力、及び運用能力がある人間を指す言葉であり、霊力の精製のみできる人間、霊力は無いけど他人の霊力を運用できる人間等は、魔術師の範疇に含めません』

「魔術師についての差別は、未だに根強いからね……」

『魔術師と人間は、侵食者を共通の敵としていますが、それが無かった場合、双方が衝突していたのは時間の問題だったでしょうね……』

人間に限らず、生物と言うのは自信と同じ種を優遇し、違う種を迫害する傾向がある。

人間と姿形は同じでも、持ち得る能力が違うのであれば、彼らにとってそれは別種となるようだ。

「じゃあ、僕らの敵である、侵食者について説明してくれる?」

『侵食者とは、20年前に発生した第一次侵攻において初めて確認された、人類の敵となる超生物の一種です。魔術師と同じく霊力を運用する能力を持ち、次元跳躍(テレポート)術式を使用した高速移動と、一匹で一都市を焼き払う攻撃能力を兼ね備えています』

「侵食者の中に個体差は無いの?」

『侵食者は各個体毎に微妙な個体差があり、同じ種類は一つとしてないと言われています。大まかな種別としては、飛翔型(ガーゴイル)陸獣型(ビースト)海獣型(スキュラ)要塞型(フォートレス)巨蟲型(ダウナー)がありますが、それらに当てはまらない侵食者は混魔型(キマイラ)と呼称されます』

「成程……多種多様ではあれど、型分けから逃れる事ができ無い、って事?」

『そうなります。因みに、侵食者の性別については、分かっていることが少ないです。百を超える解剖の結果を総合しても、生殖器らしきものは発見できなかったとされています』

「じゃあ、侵食者は、どうやって種を保っているのか……」

それとも、生殖をしない、自己増殖をする種族なのか……

『さぁ?ですが、それを考えるのは我々ではなく、最後列で金に敏い耳と下らない口上を垂れ流す口を持った研究者共の仕事です。違いますか?』

「中々辛辣だね……確かにそうだけどさ」

現代兵器で侵食者に太刀打ちできない以上、使える兵器を出して自分は後方で待っているのが一番安全だ。

……戦術論としては百点満点だが、人道的には大きなマイナスだと言う事を除けば。

それを避ける為の魔術師排斥を政府が主導したのも頷ける話だ。

使えるモノを最後に取っておいて、怪我をするのは自分かも知れないのだから。

「今行われている軍備増強も、半分は国力維持、半分は保険と言う意味合いが強いからね……」

『半分では無く、75%です。政治家は変にプライドを持っていますからね。自分の保身の為には金を惜しみません』

「はぁ……」

僕は短く溜息を吐く。

……実際、ラピアの言う事は真実だ。軍備の為に何十兆もの円が消え、その金は国債や非合法手段で接収した金で賄われている。

国民に見せられる収支計画等、今や全てまやかしだ。

今の日本の経済は、自転車操業も真っ青な赤字経済……いや、先進国に限れば全ての国がそうだ。

そこまでしても、人類は安寧が欲しいのだ。

……例え、魔術師を全て犠牲としても。

「……そう言えばさ、ギアには特殊な機能があった筈だよね?」

超化(インフレーション)の事でしょうか?』

「そう、それ」

確か、そんな名前だった筈だ。

超化(インフレーション)は、機体が蓄積した戦闘データを元にして、現状に最適な装備、又は固有術式を作成し、それを術式としてギアその物を改変する機能です』

「何回も超化(インフレーション)出来れば便利そうだけど?」

状況に合わせて無限に武装を創り出せたら、実質それだけで勝てるだろう。

『残念ですが、戦闘スタイルも千差万別。そして、本当に所有者に合致した物で無ければ、むしろ重荷になる事が多いです』

それもそうか。剣を早く振るだけでも、「突き」か「斬撃」かで、スラスターの付き方が異なるような物かな?

『加えて、超化(インフレーション)には、概念結合系統以外の術式としては最高クラスの難易度を誇る、物質置換術式を使用します。例えば、(アロンダイト)でも起動準備に1秒、置換に0.5秒、術式終了後の完成したシステムへの再接続に2秒。この時間は、超音速戦闘において致命的です』

「あとは、消費霊力もネックだよね……」

『ええ。なので、超化(インフレーション)は、危機に迫ると発動する、所謂「ご都合主義」的な機能では無く、安全な試運転中に発動することが多いです』

……あれ?でも、この間は集が超化(インフレーション)をした時、「思いが共鳴する」とか、言ってたような……

『それはあくまで俗説です。それは単に思考の先に描いた無意識の願望を完成像として投写しているだけに過ぎず、思念に共鳴している訳では有りません』

「このテキストにも『発生原因は不明ですがそういう機能があります』って事ぐらいしか書いてないけど?」

『元々、緊急進化として偶発的に生成された機能ですから、人間側が知らないのも当然です』

(あー……)

そんな理由があったのか……と思うと同時に、「思いで進化」何て、ご都合主義にも程があると思い直す。

「そう言えばさ、ラピアの製造された時代は、どんな感じだったの?」

ずっと気になっていた事だ。

『私達が開発されたのは、今から凡そ十億年ほど前。侵食者との戦闘が佳境に入ったコーサウディス連合の首都レヴァインでの事です。当時、侵食者とコーサウディス連合との戦力はほぼ拮抗しており、その膠着状況を打破する為に私たちは開発されました』

「要するに、決戦兵器?」

『はい。超音速近接戦闘に特化した「アロンダイト」、対空防御に特化した「エクスカリバー」、超距離視程外狙撃に特化した「クラレント」、それら四機の特徴を重ね合わせた機種転換用の練習機体「カリバーン」です』

「全部、アーサー王伝説に登場する武器の名前だけど?」

『恐らく、イギリスで発掘された二号機……エクスカリバーの機体管制AIが面白半分に古代の人々に教えたのでしょう。あの子は楽天的ですから、実際に武器を作って渡した可能性もあります』

そう言って溜息を吐くラピア。

「って言う事は、魔剣やら聖剣やらって本当に有るの?」

『少なくとも、アーサー王伝説の中に登場する剣はかなりの確率で存在すると踏んでいます』

「へぇー……」

お伽噺の中にしか登場しない剣が、実際にあるかも知れないという事実に、軽い目眩を覚える。

「他の神話とかには、気になる記述は無いの?」

『当時、三号機(クラレント)が派遣されていたロンダリアス地方……地質学的に言うと、ヌーナ(※又はローレンシア)大陸に位置するアステカ神話の創造神であるテスカトリポカ……ですかね?三号機の対空迎撃レーザー射出システム(Anti-Air Interceptor Laser Injection System)の俗称と名前が一緒なんですよ』

「そんな所にまで入り込んでるのか……」

最早呆れしか出て来ない。

「ラピアは何かやった覚えは無いの?」

『私は特に何も。発掘された場所が場所ですし』

えっと、確か……

「東京湾の海底二十メートルだっけ?」

『はい。正確には東京湾海底谷の地下二十メートルなので、概算した海面下は七百数十メートルほどに達します』

しかも、場所がとっても悪かった。

「とてつもなく大きい海底火山に埋もれてたんだよね?」

『海底谷の地下にちょっとだけ飛び出ている海底火山ですから、もう殆どはマントルの中ですけど』

「どんだけ大きかったんだよ……って言うか、なんで知ってたの?」

『何でって……あれは元々、叢玉鉄鋼(メイルダイト)に程近い物質を生成する特殊鉱山だったんですよ』

あくまでも程近い物質ですけどね、と事も無げに言い切るラピアだが、叢玉鉄鋼(メイルダイト)の作成は魔術師の特権であり、劣化とは言えそれを代替できる物質が存在するとすれば、それは由々しき事態だ。

「もうその鉱山は浮き上がって来ないんだよね?」

『超絶的な耐久性で、マントルの中でも数億年は持ちますけど、もう上がって来ない筈ですよ?』

「じゃあ、その叢玉鉄鋼(メイルダイト)について説明してくれる?」

叢玉鉄鋼(メイルダイト)とは、ギアの装甲に使用される魔導超硬合金です。霊力との親和性が異常に高く、霊力を流しただけで硬度や強度が向上する程の伝導性を誇ります。

この合金は通常の合金の製法と異なり、魔術師が錬金術式の目的を何も考えずに曖昧に定義して発動すると必ずこの合金が作られます。これについては、自身の霊力と一番親和性が高い金属。即ち叢玉鉄鋼を無意識下で選ぶのではないか、と言うのが通説です』

「何で霊力を通すと硬くなるの?」

『話すと長くなるので手短に言うと、「エネルギーの質量転換」を用います。アインシュタインが発見した「エネルギーと質量は等価である」と言う法則の利用で、叢玉鉄鋼(メイルダイト)の内部に浸透した霊力がエネルギーを吸収し、質量的に事象として固着する事で破壊を防ぎます。なので、正確に言うと、「硬くなる」のではなく、「壊れにくくなる」と言う方が近いです。

話は変わりますが、百五十年ほど前に第二次世界大戦の終わりを告げた核兵器は、アインシュタインの方程式を使った核兵器でした。広島型原爆で実際に核分裂反応を起こしたのは800グラム程度と言われていますが、結果はご存知の通りです』

そうだね。TNT換算15kt位だったっけ?

『正解です。ここで、ギアについて考えてみましょう。ギアの装甲は三層に分割でき、一層が叢玉鉄鋼(メイルダイト)、二層と三層がTMC(タングステンマルチカーバイド)を使用しています。全装甲の合計重量は2.5トン、実際の叢玉鉄鋼(メイルダイト)の重量は一トン有るか無いかでしょう』

一トン程度……1000キログラム×光速の二乗って事?

『ええ。計算すると、TNT換算で21480.76431MT(メガトン)。凡そ21.5GT(ギガトン)になります。

具体的な数値で表すと、百年前にソビエト連邦が開発した人類史上最大の熱核兵器“核の皇帝(ツァーリ・ボンバ)”で、計画時百メガトン。理論上、万全な状態のツァーリ・ボンバを二百発程度放たれても大丈夫という事になります。あくまでも理論上の話ですが』

「試験してる間に地球が滅亡するからね?それ……」

『実際の耐久度は、質量への転換効率や、魔術師霊力量の問題もあって、そこまでは行かないでしょうけど』

……と言うか、そこまで霊力を注ぎ込んだら一瞬で干からびるだろう。

「でも、そんなに強い装甲を持っているのに何で勝てないの?」

『簡単に言うと、人間と侵食者(イロウショナー)との瞬間霊力出力の差です。いくら強い装甲とは言え、その仕組みを介在しているのは霊力ですから、霊力を強制的に吹き飛ばしてしまえば、只の金属装甲に逆戻りです』

通常兵器には強いけど、付呪兵装は苦手みたいだ。

「じゃあ、僕みたいな格闘機ってどうやって戦ってるの?」

『基本的に、ヒットアンドアウェイ戦法が主流です。なので、ターンブースターやダガーを装備した暗殺者タイプの機体が多いですね』

「……あれ?アロンダイトは?」

どれもアロンダイトとは真逆のコンセプト何だけど?

『私は、最終決戦用の切込み隊長、詰まり、敵前線の突破能力を最優先にして設計されているので、それらとは全く別種の戦い方であり、一対多の戦闘に精通している必要があります。私がドライバーを選んだのも、半分はこれが理由です』

そんな理由があったのか……

「だから僕が触れた瞬間にいきなり起動したのか」

『はい。あとは、躱し切れない敵の攻撃をカバーする為の結界系統の術式への適性が高かったのもありますね』

それは、僕の術式適性を知ってたって事?

『そうなります。霊力供給の為に仮の霊力経路(パス)をつなぐ時に、その人の適性と、ある程度の記憶が分かるんですよ』

(記憶まで覗けるのか?)

『本質的には、思考を読むことと何ら変わりはありませんからね』

心の声にサラッと返され、ぐうの音も出なくなった。

「さて、勉強の続きだ」

気持ちを切り替え、勉強に集中する事にした。

「はい。ドライバー。次は705ページを開いてください」






こうして、夜は更けていく。







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