大自然、ヒグマ格闘編(石狩鍋) 29
私に突撃してくるのは、死んだはずのクマ。
死体が起き上がったのだ。
(ま、まずい・・・・動けない。銃もまにあわない・・・やられる)
そう思った瞬間。
ズバッ
バタンッ
クマは私の目の前で倒れる。
ウイナ:「危なかった。ノゾミ、油断しない」
「あ、ありがとう」
いつのまにかウイナが私の傍にいた。
まったく動きが見えなかった。
一瞬で移動し、クマを剣で切り裂いたようだ。
タイラー:「大丈夫か?ノゾミ」
「うん、うん大丈夫」
エクト:「おいっ!皆、周りを見ろ。こいつらゾクゾクと起き上がってるぞっ!なんだよこいつらっ!」
オカリナ:「死体が・・・まさか、精霊術・・・・」
オカリナが何かを思い出したのか・・・・不安げな顔をする。
ウイナ:「私が倒す」
エクト:「俺もだ」
私も銃をもって戦おうと思ったら。
ヒョイ
タイラーが私を掴む。
タイラー:「俺らは避難だ」
「え、でもいいの?ウイナとエクトが」
タイラー:「奴らに任せろ。オカリナ、お前も下がれ」
オカリナ:「うん」
オカリナと一緒に下がる。
クマの死体がウイナとエクトに襲い掛かる。
ウイナはスパスパと死体を切り裂く。
目にもとまらぬ速さで動き回る。
エクトも同じようにクマを切り倒すが、ウイナほど上手くはいかない。
しかし、確実に倒していく。
だが、2人が倒しても起き上がるクマ達。
エクト:「ウイナ、これじゃ埒がいかない。アレをやるぞっ!」
ウイナ:「大丈夫?」
エクト:「あぁ、これだけ死体があれば十分だぜっ!」
ウイナ:「分かった、準備する」
ウイナとエクトはクマ達を切り裂く。
だが、彼らは攻撃方法を変えていた。
的確にクマの牙だけを狙っていたのだ。
そうして、クマの牙を10個ほど集める。
エクト:「揃った!」
ウイナ:「私が傍にいる」
エクト:「始めるぜっ!」
ウイナはエクトの肩に触れる。
エクトは両手に切り取ったクマの牙を持つ。
そして・・・・
・・・・・・大きく振りかぶり
・・・・・・・・・・・・・エクトは意識を集中させる。
(心と体を集中させる)
(精神を解き放つ)
(思い浮かべるのは、真なる自分)
ブシュ
エクトは自分の体に10個の牙を突き刺した。
―――『精霊術 解 死霊月』
エクトが白い煙に包まれる。
彼の体から煙が噴出して辺りを包む。
その場からウイナが離れる。
すると現れるのは・・・巨大な黒い影。
全身を黒い鋼鉄で覆った巨人だった。
「な、なにあれ・・・・」
私は驚いた。
いきなり現れた化け物。
精霊術でタイラーはシルバーフォックスに変化したが、、エクトは何なのか・・・・
タイラー:「あれは、エクトの精霊術、死霊月。媒体を介して、死霊を自分の体に憑依させて戦う技だ」
「死霊?ってことは死んだクマ達?」
タイラー:「あぁ、そうなる。これだけ死体があるんだ。死霊は取り込み放題だろう」
「だから、自分の体に牙をさしたの?」
タイラー:「その通りだ。一度使った死霊を二度と使えないのは惜しいが。死んだ者の媒体が必要になる。
体に突き刺す必要があるんだ」
エクト:「GUOOOOOOOOOOOOO!」
エクトは叫ぶと、死体を拾って放り投げる。
近くにあった木を無理やり引きちぎって振り回す。
狂人のごとく暴れだした。
「どうなってるの?エクトじゃないみたい」
タイラー:「死霊を体につけ、身体能力を異常に強化させる代わりに精神が狂化するんだ。他の精神をうちにいれるから当然だ」
私は暴れまわっているエクトをみると不安になる。
「大丈夫なの?」
タイラー:「安心して良い。狂っても、エクトなら大丈夫だ。奴は特別だ」
「どういう意味?」
タイラー:「『エクト』名前の由来が、体質に合わせたものだ。そもそもノゾミ、ここ。知床の語源を知っているか?」
「知らない」
どこかで聞いたことがあるが、今は思い出せなかった。
タイラー:「そうか。ここ知床は、とある部族語でシリ・エクト、大地の果てと言われている。
エクトは「果て」を意味するんだ。つまりエクトは、生物の果てを内包しているんだ」
「果て・・・・」
(生物の果て・・・)
タイラー:「それに狂化しても交信できるパートナーのウイナがいれば、ある程度は抑えられる」
「ウイナ・・・・」
私が彼女を探すと・・・
(いた、ウイナがエクトから少し離れた場所にいる)
彼女は集中して何か唱えているようだ。
きっと、エクトを抑制しているんだと思う。
エクトは瞬く間にクマ達をミンチにする。
粉々になるクマ達。
さすがに粉々になったクマは復活することがない。
みるみるうちにクマ達は数を減らし、とうとう全てのクマが動かなくなった。
元々死んでいたクマだが、もう一度死んだのだ。
エクト:「GUOOOOOOOOOOOOOOーーー!」
ウイナがエクトの傍に近づき、剣でエクトの体を切り裂く。
すると・・・
プシューっと煙が立ちのぼり、エクトは再び人間の姿に戻った。
ウイナがエクトを担いで私たちの傍に。
エクトはかなり疲れているようだ。
顔が青い。
タイラー:「エクト、よくやったな。久しぶりにみた」
オカリナ:「さすがエクト。それにウイナ」
ウイナ:「全部エクトのおかげ」
エクト:「おおう・・・・」
エクトはぐったりしている。
タイラー:「でも奴らはなんだったんだろうな?死んだのに生き返った」
オカリナ:「多分、精霊術と似たものだと思う。死霊を扱うものがると、昔の文献でみたことがある」
タイラー:「へぇー、そんな奴が」
オカリナ:「でも、ここまでの規模の能力があるのは聞いたことがない。50匹程同時になんて」
タイラー:「それじゃ、とりあえず里に戻るか」
オカリナ:「そうだね」
ウイナ:「エクトは私がオンブする」
エクト:「わ、悪いな」
こうして私たちは里へ向けて出発したのだった。